禅的 生活ダイエット 365日ご機嫌な自分をつくる「減らす」技術
【作者】
枡野俊明
【あらすじ・概要】
禅宗の住職であり庭園デザイナーでもある著者が、禅の思想を日常生活に活かす方法を、極めて平易な言葉で述べている。
印象に残った項目を挙げていく。
・善い行いが良い結果を結ぶ
原因となる「因」と、「因」が実を結ぶための土壌として必要な「縁」がある。善い行いをして良い「因」を持ち、良い「縁」を見極めていけば、良い結果を得ることができる。
・心のメタボに気を付ける
執着が「もっともっと」という欲望を生み、満足することができなくなる。「知足」足ることを知って、心を軽やかにする。
・自分の中の「仏性」に気づく
生まれたばかりの自分には真っ新な「仏性」がある。「本当の自分探し」を行う必要はなく、日々の生活を丁寧に一生懸命生きれば、いつか曇りのない自分と出会える。
・物を見る目を養う
情報に流されず、自分が「本当に素晴らしい」と感じるものに触れることで、「ものを見る目」養う。
・「水急不流月」
「水、急にして月を流さず」、世の中の流れが速くなっても真実は流されない。周囲の情報に踊らされず、自分自身は川面に映る月のように留まり続けるように。
・なすべきことを淡々とこなす
「日々のなすべきことを淡々と繰り返すこと」が禅の修行。掃除や農作業などの作務をこなす。その時自分がなすべきことは何なのか、それを成しえたのか内省しよう。
・身体を動かす
忙しい日常で、掃除などはできるだけ楽をしたいと思うのは分かるが、身体を動かすことによる気づきがあり、エネルギーが生じる。生活の中でできる範囲でもメリハリをつけ、自分でやることをやっていく。
・やらなくてはならないことをすぐにやる
「水は低きに流れる」のでやりたくないことからは逃れがちだが、完全な計画を立ててから行うのではなく、まずは体を動かす。「今」この時の行動がすべて。
・「而今(にこん)」
今この瞬間は二度と返ってこない。過去にこだわらず、未来を思い悩まず、今に全力を尽くす。
・玄関の靴を揃える
「脚下照顧」、脱いだ靴の向きを揃えるのは一瞬だが、それができないのは先を急いで今を生きていないこと。玄関先で今このときに心を戻す。
・無心に打ち込む
「いい成果を出したい」と考えるのではなく、作業そのものに無心で打ち込むことに禅の精神がある。
・小さなことを淡々と行う
例えば「毎朝5時に起きて30分ジョギングする」という高い目標を設けてもなし崩しでできなくなることが多い。目の前でできる小さな行動を少しずつ積み上げていく。「無心帰大道」無心にして大道に帰す。一つ一つを淡々とこなすことで悟りに至る。
・「半眼」の精神
座禅では45度下に目線を向け、半分だけを見る。情報過多となっている現代ではあえて情報をシャットアウトしてみる。
・曖昧は寛容
白黒をはっきりつけず、グレーゾーンを許すことで、異なるものがうまくやっていけることもある。
・「調身、調息、調心」
姿勢を整え呼吸を整え心を整える。背筋を伸ばし胸を開き、丹田を意識して呼吸する。まずは息を吐き切り、鼻から息を吸う。その後はできるだけ長く細く息を吐く。
・「本来無一物」
人は何も持たずに生まれ、何も持たずに死んでいく。持ち物を増やすことに執着してしまいがちだが、「無一物中無尽蔵」、何物にも執着していない心の中に無限の可能性を持っている。
・掃除をして隠匿を積む
誰かに見せびらかすのではなく、自分自身のために掃除をする。「部屋が汚くても誰にも迷惑をかけていない」という人がいるが、自分自身に迷惑をかけている。
・「空(うつ)の空間」を生活に取り入れる
何かを足すのではなく引いていき、余計な装飾を無くすことで、季節感などを取り入れ心を豊かにすることができる。
・利益を求めず行を修める
座禅を組むにしても「セレトニンが分泌される!」というような具体的な利益を求めて始めるよりも、執着心を捨てて座禅そのものに入り込むことが大事。
・「日日是好日(ひびこれこうじつ)」
良い日も苦しい日もあるが、苦しい日でなければ得られないこともある。良い人良くない日を対立したものとして捉えても仕方がない。
【感想・考察】
先日読んだトルストイの「光あるうちに光の中を進め」 で描かれたキリスト教徒たちは「神の御心に沿った理想的な生活」という究極の目標に向け、未だ理想とは乖離のある現実を一歩ずつ変えていこうとしている。
一方で本書で作者が説く全の考えでは、「悟りという目的に向かって日々修行をする」ということではなく、「日々の生活を整え、淡々とやるべきことを重ねていけば、いつしか悟りに至る」という逆の方向になっている。「未来の目標」ではなく「今」に全力を注ぐ。自分自身の感性には、こちらの感覚の方がしっくりくる。
本書の意図は概要を抜き出しても伝わらないと思う。著者の生き方がにじみ出るような、無駄のない凛とした文体に圧倒的な説得力がある。美しく力のある文章だと思う。