毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

ソクラテスの弁明

【作者】

 プラトン、納富信留

 

【あらすじ・概要】

 紀元前399年に「神霊のようなものを持ち出し神を敬わず、若者を堕落させている」という罪状での裁判で訴えられたソクラテスが裁判員に対して行った弁明を、弟子のプラトンが記録したもの。

 アテネでの裁判は最初の弁論の後に有罪無罪を決する投票が行われ、その後刑量を決める投票が改めて行われる。

 

 第一部は有罪無罪を決める投票に対する弁明。ここでソクラテスは今回告発した人々よりも前の段階で自分を憎み告発して来た市井の人々に対する弁明から始める。

 デルフォイの神託で「ソクラテスより知恵のあるものはいない」と言われたことに疑義を感じ、世で自分よりも知恵があると思われている人々のところに赴いたが、誰も知恵を持っていないと感じた。「人は知らないのに知っていると思っているが、自分は知らないので知らないと思っている。その小さな点で自分は人より知恵がある」との考えに至る。「知恵がない」と断ぜられた人々はソクラテスを憎み中傷してきた。

 また今回の告訴は「神霊のようなものを持ち出し神を敬わず、若者を堕落させている」との罪状だが、一緒にいる誰かを堕落させても自分が害悪を被るだけだし、「神霊のようなもの」を信じながら「神」を信じないことはありえないと論ずる。

 ソクラテスは情に訴え無罪を懇願することはせず、決然とした態度を維持する。結果として500人の裁判員投票で有罪が上回る。

 

 第二部では、有罪が決定したソクラテスの刑量を決める前に、弁論を行う。

告発者からの求刑は死刑であるが、ソクラテスは自分の行なったことに即するなら、死刑や禁固刑は適当ではなく、美味しい食事が適当だと述べる。裁判員はアテネからの追放刑を望むものも多いが、「自分が議論から離れ哲学をすることがなければ生きている意味がない」とこれも拒む。最終的には、お金を失っても害悪はないとの理由で、自分が払えるごく少額の罰金を申し出る。

 採決の結果は死刑が罰金を大きく上回る。有罪・無罪は僅差であったが死刑は圧倒的で、初回は無罪に票を投じながら次は死刑とした人が相当数いたことになる。

 

 第三部では、ソクラテスが判決に対する思いを述べる。ソクラテスは有罪とした人々に対し「今まで私の言葉が苛立たせていたのだろうが、これからは若者たちの抑えが効かなくなり、更に苛立つことになるだろう」と予言する。無罪の投票をした人々に対しては、自分は自分が正しくないと思うことをしてまで生き延びたいと思っていない。死ぬことが悪いことなのかも知らない、と述べる。

 

【感想・考察】

 かなりの脚色があるのだとは思うが、この本を読む限りソクラテスは社会生活不適応レベルの変人っぽい。

 教養を自認している人々に「あなたは知恵があると思っているが、知恵はない」と論破して回ったり、ロジックをこねくり回す弁論法が人々の猜疑心や敵愾心を引き起こしていることを知りながら、徹底した強弁で説き伏せたり。「自分が正しいと思うこと」への執着が強すぎる気がする。

 「自分が知らないことを知らないと認識すること」は哲学・科学の基礎であり原動力なのだと思うし、それが明確に言語化されていたことは素晴らしいが、本書の文脈で見ると、理屈っぽさが先立ってしまう。

 

 

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