『魔法使いと刑事たちの夏』 東川篤哉
「魔法使いは完全犯罪の夢を見るか」の続編にあたる魔法少女ミステリです。
魔法で犯人に自白させるというのは反則技だけど、そこから立証可能な証拠固めをする段ではちゃんと伏線の貼られたミステリになっています。さすがですね。
タイトル
魔法使いと刑事たちの夏
作者
東川篤哉
あらすじ・概要
魔法少女のマリィと小山田総介刑事、美熟女警部椿木綾乃たちが、魔法の力と警察の捜査力、推理力で、夏の八王子で起きた4つの事件を解決する。
- 魔法使いとすり替えられた写真
芸能プロダクションの女社長月岡は所属イケメン俳優のスキャンダル写真を撮ったカメラマンを殺害してしまう。月岡はカメラマンの部屋に女性アイドルのスキャンダル写真を見つけ、捜査かく乱のために雑誌社に送った。
小山田刑事と椿木警部は当初女性アイドルの所属プロダクションを疑ったが、マリィがチョコフォンデュにかけた魔法で、犯人は月岡だと分かる。
総介は月岡のアリバイを崩し、物証を見つける。
- 魔法使いと死者からの伝言
建築設計師の飯島はかつて手抜き建築の影響で家族を失った恨みから、工務店社長を殺害した。翌日飯島は殺害時にナイフを残してきたことが気になり改めて現場に向かって血文字のダイイングメッセージを発見し、別の名前を上書きすることで偽装した。
マリィとトロピカルジュースを飲んだ飯島は犯行を自白したが、それだけでは証拠能力が無い。総介は隠されたダイイングメッセージを蘇らせる。
- 魔法使いと妻にささげる犯罪
推理作家の早乙女は、遺産目当てに妻の叔母の殺害を計画した。妻の友人が来てアリバイがある時間を狙い、妻に扮して叔母の宅に向かい殺害した。犯人は女性だと考えた警察は、早乙女の叔母と諍いのあった女性政治家を疑ったが、マリィの魔法で彼女の犯行でないことが判明する。次に疑われた早乙女の妻にも完ぺきなアリバイがあった。
総介たちは早乙女の偽装を暴いていく。
- 魔法使いと傘の問題
紳士用品店を営む篠塚は、親戚でビルオーナーでもある男がビルの建て替えを強行しようとしているのを知り殺害する。死体を河川敷に捨て強盗に寄る犯行に見せかけようとした。
マリィが魔力を込めた傘を握り犯行を自白した篠塚を、総介は物証を集め追い詰めていく。
感想・考察
東川氏の作品だけあって登場人物たちのキャラが立っていて、その掛け合いを見るだけで楽しいし、魔法というファンタジー要素も入ってきているが、ミステリとしては結構本格的だ。
犯行現場の描写から始まる倒叙ミステリでは、犯人側に感情移入しやすく、自分の隙が理詰めで追いつめられていく怖さがある。
探偵役のバリエーションは出尽くした感もあり、その中でも「魔法少女」はアウトっぽいが、それでミステリとして成立させる力量に感服する。