『ミミズクとオリーブ』 芦原すなお
小説家の奥さんが安楽椅子探偵として活躍します。
が、あんまりミステリという感じではありません。
ちょっと懐かしい日本の風景の中でお互いへの思いやりに溢れる夫婦の姿が優しい。
穏やかな雰囲気を楽しむ小説ですね。
タイトル
ミミズクとオリーブ
作者
芦原すなお
あらすじ・概要
八王子に住む小説家の奥様が安楽椅子探偵として謎を解いていく、7つの連作短編集。
- ミミズクとオリーブ
ぼく の大学時代の友人飯室から「逃げられた奥さんを探したい」と相談を持ち掛けられる。飯室が同窓会から戻ると、飯室夫人は離婚届を同封した置き手紙を残し消えていたという。
話を聞いていた ぼく の妻は飯室に「本当に奥さんに戻ってもらいたいのか」と聞き、その行き先を推理する。
- 紅い珊瑚の耳飾り
警察官となった ぼく の友人河田が家に来て未解決殺人事件の話をする。
会社経営をしている女社長が殺害され、その亭主が容疑者になっているという。
状況を聞いたぼくの妻は違和感を覚えぼくに現場の再調査を命じた。
- おとといのおとふ
地元の同窓会に参加した ぼく は警察官と結婚した旧友から難事件の話を聞く。
地元の有力者である男が散歩中に殴られ意識不明となった。息子が重要参考人として聴取されたが一応はアリバイがあり、他にも動機を持つものが多いこともあり捜査は難航していた。
電話で相談した ぼく に妻は犬の耳元で「呪文を唱える」ことを指示する。
- 梅見月
妻が体調を崩し寝込んでしまう。看病をしていた ぼく は妻との馴れ初めを思い出す。
未来の妻の親戚の家で祖先の法要を行った日、飾ってあった刀と兜が盗まれたという。雪の降った庭には丸い線でできた奇妙な足跡が残されていた。
未来の妻は ぼく へのお土産にある本を紛れさせ、事件の現場に再訪するよう進言した。
- 姫鏡台
友人の警察官 河田がまた ぼく の家に来て事件の相談をする。
有名な画家が自宅アトリエで死んでいたが事故死なのか殺人なのか判断がつかないという。
家政婦はアトリエに残された舞妓のデッサンに違和感を覚えたと言い、ぼく の妻はその絵の写真を撮ってくるように依頼する。
- 寿留女(するめ)
また河田が ぼく の妻にアドバイスを求めにくる。
河田の友人は夫婦でお茶の販売会社を営んでいたが夫の浮気がばれて妻から離縁を申し出られる。その妻からは全財産の半分を夫に渡す代わりに会社の経営権は自分が持ち続けるという条件が提示された。
話を聞いた ぼく の妻は「どうも気分がすぐれない」と不機嫌になってしまう。
- ずずばな
またまた河田が難事件を持ち込んできた。
エステを経営していた夫人がフグの毒で死亡し、服飾デザイナーだった旦那は風呂で溺死していた。奇妙なことに、夫人は全裸で全身に泥パックを施されており、旦那は入浴中にもかかわらず下着をつけていた。
ぼく の妻は「事故だったことにしたらどうか」と河田に提案した。
感想・考察
1995年の作品でその時代設定だがなんとなく1970年代くらいの懐かしさがある。
八王子の自然の中で創作活動に勤しむ小説家と、相手の心を汲むのが上手くて手料理の上手な妻の幸せな夫婦の物語という趣だ。
ぼくと妻と依頼者のダラダラとした会話のテンポも、今よりは大分余裕のあった時代を感じさせる。
日常系の謎や、本格的な殺人事件もでてくるミステリだが「鮮やかな謎解きが爽快」という方向性ではない。
妻が作る料理や、ミミズクが遊びに来る庭のオリーブなどゆったりとした雰囲気を味わうのが醍醐味だ。