オータム・ブラック~法律事務所殺人事件~ 弁護士穂積晃シリーズ
弁護士の経験を持つ著者によるミステリ小説です。弁護士の実務や裁判の裏側など、圧倒的なリアリティーがあって面白く読めました。
【作者】
乙野二郎
【あらすじ・概要】
主人公の弁護士の穂積晃は、修習生時代の恩師である冬川の弁護を引き受けることとなった。
冬川は自分の法律事務所に放火し事務員を殺害した罪で起訴されていた。冬川は罪状は認めた上で動機などについては弁護士である穂積に対しても完全黙秘を貫いていた。
冬川には被害者の事務員に怨恨はなく、直接間接での利得も考えられないため、動機は全く思いつかない。穂積は徒手空拳で公判に臨む。
【感想・考察】
犯人や犯行内容は分かった上で動機を探る Why Do It のミステリ。謎解きの部分は正直スッキリしなかったが、法律家として経験した裁判にまつわる話は面白い。
裁判員の選定の仕方(数十人の候補者のうち、対象案件に利害関係があるような不適格者を外し、検察側弁護側がそれぞれ除外対象を指定した上で、残りの人から抽選)とか、刑事裁判での動機の取り扱い(動機が事実認定自体に影響することはなく、量刑判断にのみ使われる)等々、実際に即した知識は面白い。
ネットで情報が簡単に取れる時代に、表層的な知識はいくらでも溢れているが、実務に即して活きた知識には重みを感じる。
刑事裁判には関りがなかったし、願わくばこれからも直接関わりたくはないが、法律実務には興味があるので、楽しく読めた。
【オススメ度】
★★★☆☆