風、めぐりくる
同じ作者の「山彦」に登場した「戸籍を持たない流浪の民」の物語です。山彦たちの生活や、新潟の街の雰囲気などは前作から引き継いでいるのですが、語り手の視点が大きく入れ替わっていて、全く別の物語になっています。久々に鳥肌が立つくらいの衝撃展開でした。面白いです。
【作者】
ヤマダマコト
【あらすじ・概要】
二十歳を過ぎても定職につかない「僕」は新潟の実家に帰省していたが、両親と顔を合わせ辛く、毎日のように外出する。ある夜、神社の境内で「山彦」の少女と出会う。「山彦」とは戸籍を持たない流浪の民で、村落の人間と緩い共生関係を保ちながら、山間を移動しながら生活している部族だった。
「僕」は、以前この集落で起きた殺人事件に巻き込まれた時の話を少女に聞かせる。幼い娘と歩いていた母親が暴漢に襲われた事件で、母親は殺害されたが「僕」は幼い娘を守り、顔に傷を負っていた。その後も「僕」は毎日のように神社の境内で少女と会い「山彦」たちの生活の様子や、その独特な生と死の感じ方を聞く。
【感想・考察】
この作者は叙述トリック風な仕掛けを入れるのが好きなようだ。この作品では特に効果的に使われていて、「そういうことか」と分かった時にはゾクリとした。
山彦と呼ばれる流浪の部族は、かつて実在した「山窩(サンカ)」をベースにしている。前作の「山彦」では日本の正史から漏れた彼らの存在自体がメインテーマとなっていたが、今作では「山彦」の持つ生死観をモチーフにしたミステリとなっている。
現代に実際の山彦たちの生死観を知ることはできないが、土地に縛られない「風の巡礼者」とでも呼ぶべき山彦であれば、こういう感じ方をするのだろうと思える。切なく悲しい結末とも思えるし、幸福な終わり方なのだとも言える。
極めて独特な感覚を持つ作品だった。
【オススメ度】
★★★★☆