卯月の雪のレター・レター
5編の短編小説集です。青春時代の苦しさと、それを暖かく見守るやさしさが描かれていて、優しい気持ちに慣れました。
ミステリ要素もあるのですが謎解きがメインではありません。ちょっとした「何故だろう」という疑問を紐解いていく過程で、人の苦しみや優しさが見えてきます。
登場人物が持つ「人間関係への恐れ」を、作者の「人間への根本的信頼」が暖かく包み、それぞれが優しい物語に仕上がっています。
【作者】
相沢沙呼
【あらすじ・概要】
・小生意気リゲット
社会人の姉は、急に自分と距離を取り始めた妹に戸惑う。遅い時間の帰宅、安っぽい香水の匂い、叔父への資金援助依頼など、妹の行動が不安になってくる。
両親を亡くして、姉妹二人暮らしをすることで妹に息苦しい思いをさせていたのかと寂しく思う姉。妹は何を思い、何をしているのだろうか。
・こそどろストレイ
雪の積もった日、友人の家に招かれたこ焼きパーティーをする少女たち。
家の蔵にあったツボがなくなっていることが判明するが、雪に残る足跡は発見した幼い少女と確認に行った父親たちのものだけだった.
「足跡の密室」は兄弟姉妹たちの思いが作り上げたものだった。
・チョコレートに、踊る指
事故の後遺症で声が出せなくなった少女が、同じ事故の後遺症で長期入院している少女を見舞う。
「声を出せない少女」は大切な友人のため、深い苦しみを抱えていた。
・狼少女の帰還
小学校で教育実習をする女子大生琴音。落ち着きのない咲良が先生からも疎まれている様子をみて憤りを感じる。モデルの母親を持つ大人びたまいなに「嘘つき」と呼ばれた咲良は、何を見たのだろうか。
・卯月の雪のレター・レター
祖母の7回忌直前、祖父宛に祖母からの手紙が届く。手紙の様子や内容から、書かれたのは数十年前であること花違いない。
女子高生小袖と従姉妹の千尋は手紙の謎を解く。
【感想・考察】
それぞれの短編は独立していて直接の繋がりはない。ただ内容的には、思春期前後の兄弟姉妹の関係や、友人との関係などが共通したテーマになっている。重く息苦しくなるようなテーマを書いているが、常に「優しさ」があり、心地よく読める。卯月の雪のラストは素晴らしかった。
【オススメ度】
★★★