毎日一冊! Kennie の読書日記

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山彦

【作者】

 ヤマダマコト

 

【あらすじ・概要】

 新潟を舞台とした伝奇小説。

 山林で暮らす「山彦」たちは、独自の生活様式を持ち、エダカと呼ばれるシャーマンを中心に、数か所の祈りの地を巡礼していた。ここ最近では窒息死させた後に胸に刃物を刺す特徴的な連続殺人が起こっている。

 

 地元新聞の記者である須見は、地元で発生した連続殺人事件を調べるうち「山彦」に興味を持ち、連休を利用し彼らと行動を共にする。時期を同じく「山彦」に合流していたライターのユキホとともに「山彦」たちの生活を経験していく。エダカであるフミの能力を知るに至り、彼らの生活に畏敬の念を持ち始める。

 

 若手の市議である高橋は「木島建設」が関わる入札の不自然さに気づき調査を重ねるうちに、「山彦」出身者の互助団体が木島建設の母体であり、行政や警察に深く入り込んでいることを暴こうとする。

 

 新潟県警 燕署の副所長である橿原は11年前に事件性なしとして処理された夫婦の死亡事件から木島建設周辺とその対応を制限した警察上部に疑念を持っており、今回の連続殺人事件は直接管轄ではないが、調査に関わっていく。

 

【感想・考察】

 大和朝廷が東方に派遣を広げた日本史古代の時期から始まる「山彦」たちの呪縛、戸籍を持たず警察からは犯罪予備軍の「サンカ」としてマークされていた。

 ネイティブアメリカンであるインディアンのように、徐々に生活の場を追われながら、迫害者たちの社会に同化していく。

 比較的民族と国家が重なっている日本でも、琉球やアイヌなど独自アイデンティティーを保持している民族は現存するし、国家の成立過程では多くの民族が同化されてきたのだろう。

 本作ではシャーマンである「エダカ」が記憶を引き継ぐものとして描かれ、民族が蹂躙された記憶を伝えているため、「祈り」という独自の文化が残り、日本への同化から逃れているが、実際には数世代もすれば記憶は薄れ独自の文化は消えてしまうのだろう。

 情報通信の発達や、経済のグローバル化を受け、世界規模で文化の同質化が進んでいる今日、暴力的な形ではなくても、民族の同化は進み文化の多様性は失われてしまうのではないかと思っている。例えば世界で言語が統一されれば、効率の良い便利な社会になるのだろうが、文化的な多様性を失うと、社会的な出来事に対する柔軟性がなくなってしまうのではないか。何か出来事が起こると全員が同じ対応をして極端な方向に行くことを止められなくなるのではないか、とも思う。

 フィクションの形で神話や民話を掘り起こしたり、新潟という地域性を大事にする作者は、文化の同質化に抗おうとしているのかもしれない。

 

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