人生の教養が身につく名言集―――「図太く」「賢く」「面白く」
還暦近になってライフネット生命 を立ち上げた出口氏による著作です。出口氏の他の著作もいくつか読みましたが、教養の深さとバランス感覚の良さが感じられます。本書は「人生の彩を豊かに、ワクワク愉しくしてくれるものである教養」のシンボルとして45個の「名言」を紹介しています。
読んでいて心穏やかになるような本でした。
【作者】
出口治明
【あらすじ・概要】
古今の45の名言から、出口氏の考え方を語る。 いくつか心に残ったものを紹介したい。
・「この門をくぐるの者は、一切の希望を捨てよ」 ダンテ 神曲
世界の人の大部分は平凡な人生を送っている。自分が特別に偉大な成果を残せなくても劣っているのではなく、平均に落ち着いただけ。
そのくらいリアルに世界を捉えた上で、虚心坦懐に地道に学び続けるしかない。
・「人間死ぬまでは、幸運な人とは呼んでも、幸福な人と申すのは、差し控えねばなりません」 ヘロドトス
人生が終わるときに「人生を楽しめた」と思えれば幸福な人生と言えるのだろう。そして、人生の楽しみは喜怒哀楽の総量であると捉える。
・「辛抱強さはよいものだが、それが順風満帆のときであればなおよい」ニザーム
地球の歴史から見れば現在の大陸は鍋の表面のアクのようなもの。身の丈を知らないと足元をすくわれる。
・「去る者は追わず、来る者は拒まず」孟子
人生は出会いと別れの繰り返し。「人脈」を作り利用しようというのはうまくいかない。出会いも別れも偶然の要素が大きいし、思うようにいかないのが人間関係なので、川の流れに身を任せるように生きている。
・「世の中のいざこざの因になるのは、奸策や悪意よりも、むしろ誤解や怠慢だね」ゲーテ 若きウェルテルの悩み
人間関係のこじれは意外と些末なことから始まる。一言伝える労力を惜しまないようにする。
・「悪人とはゲームができるが、善人とはゲームができない」中野好夫
自分の欲望に忠実な「悪人」であれば交渉の使用があるが、「自分は正しい」と信じて行動している人には質が悪い。こういう善人に装具したら「敬して遠ざける」のが最善の道。
・「天知る、地知る、我知る、子知る」楊振 後漢書
「誰かに評価されたい」という気持ちを抑えるのは難しい。「天地」が知っていて「自分」が知っていれば十分で「子(他人)」が知るのは最後だと考える。自分自身が人生を面白がって生きることができれば「他人の評価」を気にしないことができる。
・「手に入れたデータをすべて使わないで、その一部だけに基づいて判断を下す裁判官があるとしたら、我々はどんな評価を下すだろうか」ヴェーグナー
「国語」だけで考えず「算数」でも考える。感情だけでなくロジックを含めるということ。例えば国家予算で50兆円の赤字を出しているのに「好景気による税収増」だけで改善を図るのは現実出来ではない。(バブル時でも現在より15兆円多い程度)。「景気対策による税収増+無駄の削減」と「増税」を比べると感覚的には前者の方が心地よいが、現実を分析して妥当な方法を探さなければいけない。
・「哲学者たちは、世界をさまざまに解釈したにすぎない。しかし、大切なことは、それを変えることにある」マルクス
歴史を知れば怖くなくなる。99%のことは失敗しているし、失敗を恐れても意味がない。たくさんの人が世界を変えようと挑戦し、1%の人だけが成功してきた。その1%の積み重ねが人間の歴史だという見方。
・「巨人の肩に乗っているから、遠くを見ることができる」ベルナール
先人が残してくれたものを活用して初めてさらに遠くに行くことができる。古典文学は時間がふるいにかけた真理を含むので、積極的に読むべき。
・「一期一会」井伊直弼
迷ったら行く、迷ったら買う。特に旅行の時はそういう心持で。
・「ここがロドス島だ。ここで跳べ」イソップ物語
ロドス島で開催されたジャンプ大会での結果を見せられないと残念がる男。ある人に「ここで跳べ」と言われ逃げてしまう。
口で何を言うよりも行動で示すのが一番伝わる。行動がなければ意味がない。
・「世界は偉人たちの水準で生きることはできない」
アリの集団の2割は働き者、2割は怠け者。しかし働き者だけを集めて集団をつくっても、そのうちの2割は怠け者になる。怠けることは個人の資質よりも社会構造的な要因に左右される。部下が30%の力で働いているなら、まず33%にするようするのが良い上司である。
・「道徳なき経済は犯罪であり、経済無き道徳は寝言である」二宮尊徳
事業を起こすのであれば「強い思い」と「算数」が大事。そもそも果たしたい思いがなければ動くことはできないし、「算数」が抜けていては実現性がない。
・「生ぜしも独りなり、死するも独りなり、されば人とともに住するも独りなり。そひはつべき人なきゆえなり」一遍上人
仲の良いパートナーも、愛しい子供も死ぬときは別々。死ぬ時まで一緒に添い果てることはできない独立した存在だから、相手の自立を尊重すべき。
・「花は半壊を看、酒は微酔に飲む。この中に大いに佳趣あり」洪自誠ー菜根譚
何事もやり切ってしまう前が楽しくて美しい。特に日本では酔ったうえでの醜態に甘いが、グローバルスタンダードではない。
【感想・考察】
名言を紹介するというより、出口氏自身の人生観や哲学を語る中で、流れに適した言葉を紹介しているという感じ。「仏教的な諦観」と「ロジック」を核に置いているように思える。
成功した人が書く「成功法則」の本では「それは結果論だよな」と感じることも多いが、出口氏は結果は偶然に左右されることを前提に、より人生を楽しむことを目指している。読んでいて心地よいのは、そういう姿勢の本だからだろう。
【オススメ度】
★★★