座右のゲーテ~壁に突き当たったときに開く本~
【作者】
齋藤孝
【あらすじ・概要】
著者が影響を受けたゲーテの言葉を著者自身の解釈を含め解説する。特に印象に残ったな項目は以下の通り。
・小さな対象だけを扱う
取り組むべき対象が壮大過ぎると、スタートが切れない。対象を細かく区切り小さな達成を重ねていくことで、成果につながる。
・自分を限定する
「結局、最も偉大な技術とは、自分を限定し、他から隔離するものをいうのだ」という言葉を紹介。
ゲーテ自身は外国語に堪能で音楽などにも造詣が深く多彩であったが、「ドイツ語でストーリーを書く」以外のことはすっぱりと切り捨てた。インプットは幅広く、アウトプットはこれと決めた分野に限定して全てをつぎ込むべきとしている。
・最高を知る
「趣味というものは、中級品ではなく、最も優秀なものに接することによってのみ作られる」という。入門編から入るにしても、質の劣るものからスタートしてはいけない。常に質の高いものに触れていくようにすべきとする。
・独学は非難すべきもの
「なにもかも独学で覚えたというのは、ほめるべきこととはいえず、むしろ非難すべきことなのだ」という。
実績のある人から学ぶことが必要。オリジナリティーといっても世界の影響を確実に受けている、独自性を偏重しすぎる傾向は文化を停滞,減速させるとする。
・愛する者から学ぶ
「人はただ自分の愛する人からだけ学ぶものだ」という。スタイルの合う人、惚れこむことのできる人からこそ、素直に深く学ぶことができる。
・読書は新しい知人を得るに等しい
直接教わるだけではなく、惚れこむことができる人であればその著作からも学ぶことができる。同時代以外の人からも学ぶことができる。時代を超えてきた本は品質が担保されている。新しい本を読むのも良いが、長い時間読み継がれた本には価値がある。
・癖を尊重せよ
「ある種の欠点は、その人間の存在にとって不可欠である」という。一言多いとか非難がましいとか卑屈であるとか、人には癖があり欠点となりうるが、それがなくなってしまえば社会は平坦でつまらない。長嶋茂雄の例で「夜中に思いつくと、他の寝ているメンバーを踏みつけて素振りに行っていた。ある時から寝ている人を気にして避けるようになったが、そこから間もなく引退となった」という話をあげている。極度の集中は周りを気にしないという「欠点」につながるが、そういう癖がなくなってしまうと平凡な人間になってしまうという。
・当たったら続ける
「客に受けた芝居は客を満足させられている限り繰り返せばいい」という。勝ちパターンを徹底するのは正着だが、これでいいのかと考えバリエーションを増やしてしまうが、潮目が変わるまでは確立した勝ちパターンを徹底すればいいとする。
・現在というものに一切をかける
ゲーテは「若きヴェルテルの悩み」を批判された時、すでにその作品は過去のものでその作品を書いた時の自分も過去の人なので、完全に受け流していた。その時に全力をかける。若いときには若いときの、成熟した時代にはその時の課題があり、若いときの課題をずっと持ち越してはいけないともいう。若さゆえの暴走は必要だが若いときに済ませるべきとする。
【感想・考察】
非常に示唆に富む本だった。「吸収するのは幅広く、アウトプットは決めた分野に限定し、その時その時に全力を尽くす」ということは腹に落ちる。「古く伝統のあるものから学ぼう」という部分はゲーテの話というより著者の斎藤氏自身の思いが強いのだろう。人の言葉を解釈するときに受け手のフィルターが掛かるのは不可避だし、それが独自性を生むのだろう。自分自身も間違いなくそうだ。