傷つきやすい人のための 図太くなれる禅思考
禅僧である作者が、竹のようにしなやかに「図太く」生きる方法を説く本です。升野氏の本はどれも清々しくて、読んでいて気持ちが良くなります。
「禅即行動=禅とはすなわち行動である」という作者の言葉通り、一つずつでも実践していこうと思います。
【作者】
升野俊明
【あらすじ・概要】
「図太く」しなやかに生きるための禅の考えを紹介していく。
紹介された言葉の中で、特に印象に残ったものを挙げていく。
「禅即行動」
禅とはすなわち行動である。勢いは邪を払う。「動くと何かが始まる」ということを実感していく。
「一行三昧」
まっすぐな心を持って、一つのことに全力を尽くす。他人の評価やライバルとの競争ではなく、その仕事自体に心をスクス。
「柔軟心」
柔らかくしなやかな心。「どうにかなるさ」というキーワードで心にしなやかさを取り戻す。
「雲無心」
雲のように捉われず本質を失わない。どれだけ先を読んでも読み通りにはならない。柔軟に捉われない心が大事。
「諸法無我」
「我」というものはなく、全ては関わり合いの中にある。自分の見解にこだわる人は他人を認められない。
「随所作主、立処皆真(ずいしょにしゅとなれば、りっしょみなしんなり)」
どんなところにいても、どのようなことに対しても、自分が主体となって一生懸命にやれば、そこに本来の自分が現れる。
「露」
人との付き合いでは、自分の価値観を図太く率直に露わにする方が良い。
「一掃除、二信心」
信心よりも掃除が先に来る。落ち込んだら体を動かす。特に掃除が良い。
「前後裁断」
炭が焼けて灰になるが「それぞれが絶対の姿で別のもの」とする見方。大切なのは今だけという考え方。手酷い仕打ちに仕返しするのではなく、今を堂々と生きることが大事だという。
「即今、当処、自己」
たった今そのとき、その場所で、自分自身でやる。やらないから考えすぎてしまう。
「任運自在 」
全てを自然の流れに任せて、意図的なはからいをしない。縁を大事にしていく。
禅の呼吸法も紹介する。「調身、調息、調心」といい姿勢を整え、呼吸を整え、心を整える。丹田(ヘソのした7.5cm)の空気をゆっくりと全て吐き出す。吸うのは自然に任せる。
【感想・考察】
私自身にとっては禅の思想が馴染みやすいと感じる。
自己啓発系の本では「目標を持ち、自分のミッションを自覚し、計画に落とし込み日々精進する」ことを推奨するものが多い。目標を持つことで未来が今の自分を引っ張っていく感じなのだろう。
ただ、実感として日々の出来事の因果を把握しコントロールすることは難しい。禅の思想として紹介されている「今・その時」に自分のできる最大限のことをして「縁」を呼び込む、という考え方の方がしっくりくる。未来ではなく、「今ここ」を起点に日々を重ねていく感じだ。
どちらが正しいというわけではないし、対立するものでもないとは思うし、統合されるべきものなのだろう。
【オススメ度】
★★★☆☆
好きなことをビジネスにする教科書 人生100年時代をもっと自由に生きていく
「好きなこと」を仕事にして生きていきましょう!という本です。好きなことをやっていれば楽しいし、努力をするのが苦痛じゃない。それで他の人に感謝されるなら最高です。
【作者】
ひらまつたかお
【あらすじ・概要】
好きなことを仕事にするための考え方を提案している。
・「好き」「評価される」「市場がある」の重なる部分がビジネスになる
自分が好きで、周囲から評価されるレベルであることで、かつそこに市場があればビジネスになる。市場は意外と色々なところにある。
・労働に対する報酬ではなく、価値に対する報酬と考える
長時間働いたから報酬をもらうのではなく、価値を提供したから報酬をもらう。
良いものを提供したなら、報酬を受け取ることに躊躇する必要はない。
・ビジネスモデルを考える
代表的なビジネスモデルは、本体を安く消耗品で儲ける「替え刃モデル」、「広告モデル」がある。購入には心理的抵抗が大きいので、メルマガ登録、無料サンプル、お試し会員期間など、ステップを設け徐々に抵抗を外していく。
・SNSの活用
記録性が高く検索されやすいブログやyoutubeなどは、顧客を広げるのに適し、LINEやFacebookなどクローズなものは個別の関係を深めるのに適している。TwitterやInstagramは中間。適正に合わせて使う。
【感想・考察】
著者のサービスへの誘導が前面に出ていて、ちょっと抵抗を感じる部分もあるが、ビジネスモデルの考え方やSNSの使い分けなど、経験に裏打ちされた実践的な情報もある。「好きなことを仕事にする」ための一助にはなるかもしれない。
【オススメ度】
★★☆☆☆
夜と霧 新版
先日読んだ「神様のカルテ2」で、主人公の細君が「やる気も夢もない」という学生に貸していた本で、内容が気になり読んで見ました。
極限状態での人の心の動きを、精神科医・心理学者として、できるだけ普遍的に捉えようとしています。惨めな状況であっても、尊厳を持って生きるというのはどういうことなのか、ジリジリと伝わってきます。
気持ちが緩んだ時に読むと、ビシッと引き締まります。
【作者】
ヴィクトール・E・フランクル
【あらすじ・概要】
精神科医である著者が強制収容所に収容された経験から、極限状態での心の動きを観察した内容。施設に収容される段階、施設で生活する段階、解放された後、の3つに分けて語っている。
・収容の段階
最初は、自分はそれほど悪い状況には陥らないという「恩赦妄想」を持つ。やがて身ぐるみ剥がされる段階になると、ショック状態に陥るが、人間はやがて環境に慣れる。高圧電流が流れる鉄条網に走り自殺を図る人などもほとんどいなかった。
・収容所での生活
数日がすぎると徐々に感情が消失していく。「帰りたい」という気持ちは消え、痛めつけられる同胞を見ても何も感じなくなる。
殴られることによる物理的な痛みに対しても鈍くなっていくが、嘲り愚弄されうことは、精神を弱らせる。
強いストレス下で生命維持に注力せざるを得ない状況では精神生活が「退行」するのが一般だが、感受性の強い人には、むしろ内面的に深まっていく人もいた。愛する人やなすべき仕事を心の中に持つことが強さとなる。
劣悪な環境下で肉体の自由は制限されるが「与えられた環境でいかに振る舞うか」という自由は奪えない。収容所にいても人間として踏みとどまり、尊厳を守る人間は確かに存在したという。
生きる意味について、「私たちが生きることから何を期待するかではなく、生きることが私たちから何を期待しているのか」が問題なのだという。「生きるとはつまり、生きることの問いに正しく答える義務を引き受けることに他ならない」と説く。
・解放された後の段階
解放された直後は喜びをはっきり感じられない。それほど感情が消耗している。やがて数日の時間を経て人間としての感情を取り戻していく。
未熟な人間では、権力や暴力の枠組みから離れることができず、暴力の客体から主体に変わるケースもある。また他者が自分の苦しみを軽く扱うことに失望する人も多い。
収容生活を精神的に支えていた「自分を待つもの」が、既に亡くなっていたような場合の失意も大きい。
【感想・考察】
今自分自身は、強制収容所のような極限状態にあるわけではないが、環境に流されるのではなく「環境に対する反応を、主体的に選び取っていく」ことができないなら、精神的に自由であると言えない。
人生に何かを期待するのではなく、人生からの問いに時々刻々と、具体的に答えていくことに生きる意味がある、というのは、実感を持って理解することはできないが、力強く生きるというのはそういうことなのだろうと思う。
消化しきれなかったので、時間をおいて再読したい。
【オススメ度】
★★★☆☆
神様のカルテ3
「神様のカルテ」シリーズ第3作目です。
2作目から引用されているセオドア・ソレンソンの「良心に恥じぬということだけが、我々の確かな報酬だ」という言葉が、徐々に沁みて来ます。医療倫理だけでなく、日々の生活を真摯に生きることを後押しするような言葉です。
実に素晴らしい作品です。
【作者】
夏川草介
【あらすじ・概要】
24時間365日対応をうたう 本庄病院で働く栗原一止が語る医療小説。いくつかの小さいエピソードを通して、医療倫理や医師の勤務状況の過酷さを説く。
アルコール性肝炎による脳症で倒れた患者が、病院を抜け出してまで金魚すくいを出そうとしたのは何故なのか、というエピソード。
一止を支える主任看護師の東西さんが、かつて思いを寄せていた男が入院して戸惑う姿を見せる話。
最先端医療の研究を行う病院から来た先輩女医の小幡と、彼女はアルコール中毒患者への措置で意図的に手を抜いているのではないかと疑った一止たちの衝突。
膵臓癌の疑いで大規模な開腹手術を行い成功したが、術後の病理検査で腫瘍が良性だったことが判明し落ち込む一止。
等々、いくつものストーリーが重なっていく。一止と妻のハルが切り取る信州の風景の凛とした美しさや、御嶽荘の住人たちとの交流の暖かさ が、暗く沈みがちな病院の話を優しくしている。
【感想・考察】
シリーズ1作目では「大学に入り最新の医療を学ぶか、地域病院の医師として他に頼れない患者を支えるか」の二択で迷い、その時点では患者に寄り添う道を選んだ。
2作目では幼子を抱える同期医師との関わりから、医師の労働環境の過酷さについて問題提起していた。
3作目となる本作では、知識不足から病気を見逃してしまった自分を許せず、限界まで貪欲に最先端医療を学び続ける先輩医師の姿を見た一止が、今度は「大学で最先端医療を学びなおす」道を選択する。そこには作者自身の思いの変化もあるのだろう。
登場人物がそれぞれ違う良心を抱きながらも、それぞに真摯に生きようとしている姿勢に心打たれ、「お前もしっかり生きよ」と鼓舞されている気持ちになる。
【オススメ度】
★★★★☆
神様のカルテ2
前作と同じく、地域病院で奮闘する内科医の周囲で起きるドラマを静かに綴っています。今回は冬の終わりから春の終わりにかけての信州の風景が美しく描かれていて、物語の世界にするりと没入してしまいました。良い作品です。
【作者】
夏川草介
【あらすじ・概要】
365日24時間対応をうたう本庄病院で内科医として激務をこなす栗原一止。同じ病院に大学時代の友人である進藤辰也がやってきた。一止と辰也は将棋部で幾多の対局を持ち、後輩をめぐる三角関係を演じた間柄だった。
学生時代にはセオドア・ソレンソンの「良心に恥じぬことだけが、我々の確かな報酬である」という言葉を好み「医学部の良心」と呼ばれるほど真摯な姿勢を貫く辰也だった。だが本庄病院に来てからは主治医でありながら勤務時間外の対応を拒むなど、評判が悪く、一止は辰也の変化に戸惑っていた。またその時期に、本庄病院の内科を支える「古狐」先生が院内で倒れてしまう。
【感想・考察】
夏目漱石を愛する一止の古風な語り口が、文章を少し固くしている。その文章が、雪山の荘厳さや、満天の星空の澄み切った美しさを、凛とした緊張感をもって伝えてくる。古狐先生の通夜で、青白い月光が棺と夫人と大狸先生を照らし三つの影を作る描写は、情景が鮮明に浮かび美しさに心が打たれた。
情景描写が硬質である一方、登場人物はみな優しく温かく、とても柔らかい。それぞれが迷いつつも真剣に生きている様子にもまた、心を打たれる。
自らも医師であった作者は、医師の過酷な労働環境の改善をテーマとしているが、末端にしわ寄せがいく理不尽さに憤りながらも「良心に恥じぬ生き方」を貫く医師たちの姿をたくましく描いている。
【オススメ度】
★★★☆☆
新版 論文の教室 レポートから卒論まで
大学生がレポートを書いたり、卒業論文を書いたりするときに役に立つレベルの、論文の書き方の本です。
文章を書くのが下手な、ヘタ夫くんに大学の教員が指導していく形で進みます。ノリの良い対話形式で読んでいて楽しいのですが、内容はきちんとしています。大学生以外でも論文を読んだり、論理的な文章を書こうとするひとには役に立つ本だと思います。
【作者】
戸田山和久
【あらすじ・概要】
ヘタ夫の「ダメ論文」を修正しながら、論文の基本やテクニックを紹介していく。
・論文は「問い・主張・論証」で構成される
何について論じるのか明確な問いを立て、はぐらかすことなく自分の考えを主張し、その主張を検証可能な形で論証してく。それ以外のことを書いてはいけない。
・論文の構成要素は5つ
論文には定型がある。定型に従って書けば論文っぽく見える。
① タイトル
「この論文を読むと何がわかるようになるのか」をタイトルにする。
② アブストラクト
論文の目的、結論、論の展開にについて要約したものを冒頭に記す。
③ 本体
1. 問題提起、問題の分析と定式化
2. 主張
3. 論証
内容に応じて順番は変更してもよい。
問題提起→結論→論証 :「こう思います。何故なら〜だから」型
問題提起→論証→結論:「色々考えたら〜でした」型
問題提起→論証(先行研究の批判)→結論→論証:「そーじゃなくこーだ」型
④ まとめ
もう一度わかったことを一言でまとめる。
⑤ 注・引用・参考文献
他論文の剽窃は最低の行為と取られる。参考にした文献を明示することで論証が客観的になる。
・論証のテクニック
例外のない論証、演繹的な論証、帰納的な論証、仮説的演繹、対立仮説など
論理学の基本を説明。
・パラグラフライティング
一つのパラグラフでは一つのことと、その補足説明や言い換えなどだけを述べる。
接続詞などで前後のパグラフの関係を明確にする。
【感想・考察】
論文に限らず、論理的に何かを伝えたいとき、「問い・主張・論証」という形を取るのは有効だ。普段の会話が理屈っぽいのはよくないが、報告などをわかりやすくするテクニックとして、アウトラインから広げていく書き方や、パラグラフごとの論理構成の仕方も有益。なかなか有益な本だと思う。
また、ヘタ夫の論文例として出てきた「動物に権利は認めらるか」という話は興味深い。権利とは何か、権利の主体と認められる条件は何かなど考えてしまい、読破するの2時間がかかってしまった。
【オススメ度】
★★★☆☆
仕事が速いのにミスしない人は、何をしているのか?
ビジネス経営者などの話では、よく「失敗は成功への一里塚」言われています。
でもこの著者は、原子力発電所のシステムなど「失敗が絶対に許されない」部分に携わりながら、「失敗学」を研究し、失敗の撲滅を目指しています。
「失敗は成功のもと」と言う人も「失敗は絶対避けるべき」と言う人も、目指しているところは同じですが、違う見方からの話を読むのも面白いです。
【作者】
飯野謙次
【あらすじ・概要】
失敗が許されない「工学的見地」から研究されている「失敗学」を日常の仕事や個人のミスについて適用して考える。
仕事で起こる失敗を以下の4種類に分け、それぞれに関するような具体的な提案をしている。
①注意不足
「次回から注意します」という気合いでは何も解決しない。
注意力を保たなければならないような「仕事の設計」が間違えている。
・外出時に持っていくべき荷物は靴の上に置いておく。
・スケジュールはカレンダー共有の仕組みなどを使う。
・個別項目では判断の余地がないようなチェックリストを作る。
・ダブルチェックは、違う人が違う見方でチェックする。
②伝達不良
「暗黙知」を「形式知」にしていく。
・メールの扱いに注意。
伝えたいことを最初に書く。添付ファイルではなく極力ファイル共有。
・相手の意図を言葉に直して確認する。
③計画不良
・普段から仕事量を見積もり、時間感覚をつけておく。
・マルチタスクは避けるべきだが、種類の違う作業は脳を休める。
④学習不足
・知らないことは恥じず、機会を見つけて学んでいく。
・Googleは最大限活用。
・学習には不純な動機があったほうがいい。
【感想・考察】
「敵を知り己を知れば、百戦危うからず」という言葉を紹介している。
「敵」を分析するのは楽しく、精力を傾けて取り組めるが、「おのれ」を分析し強み弱みを分析することは、非常に苦しい。
ただ「おのれ」を知ることがなければ、失敗は失敗のままで学びにならない。「自分と向き合うことが苦ではなくなる仕組み」ができればいいのだけれど。
【オススメ度】
★★☆☆☆