九月に蝉の鳴くところ
夏休み前の少女の日常を描く話と思いきや、徐々に不思議な世界に引き込まれ、「意味が分かると切ない話」になっています。短い作品ですぐ読めますが、印象に残る話でした。
【作者】
赤井五郎
【あらすじ・概要】
8月も終わりを迎える頃、京子たちが暮らす「二丁目」から大人たちが消えるという事件が起こる。一丁目や三丁目に向かうトンネルが閉鎖されており隔離された状況に置かれている。
京子は、冷静な判断力を持つ双一郎、コンピュータに詳しい良彦たちと一緒に自分たちの置かれた状況を解き明かしていく。
【感想・考察】
最初の方では京子たちの状況がぼやけるように描写され、話が進むにつれ意味がはっきりと分かってくる。良彦の出す なぞなぞ、「井戸の中」、「大きな岩のあるところ」、「足の裏」というのも最初は意味が分からないが、最後に風景が結像すると「僕も好きで京子ちゃんもきっと好きだと思う」という答えが切なく見えてくる。作者独自の不思議な世界観が、また普段とは違う形で生きている。
ところで、この話の双一郎と京子は、青い月夜シリーズと重なってくるのだろうか。あの虫を使う文化は数万年後の地球なのかもしれないと、ふと妄想した。
【オススメ度】
★★★★☆