感染遊戯 警部補 姫川玲子
「姫川玲子シリーズ」ですが
玲子はほとんど出てきません。
玲子と相性の悪い 勝俣、
シンメトリーの短編で登場した元刑事の倉田、
玲子チーム解散の後、他部署で働く葉山、
前作までに出てきた脇役刑事たちがメインになります。
独立した短編集かと思いきや
全編に通じる悪意が最後に見えてくる展開で
引き込まれる面白さでした。
【タイトル】
感染遊戯 警部補 姫川玲子
【作者】
誉田哲也
【あらすじ・概要】
シリーズ前作までに出てきた3人の脇役刑事が主役となる。
前半の3篇ではそれぞれの刑事が個別に捜査するが
最後の推定有罪で全てが繋がってくる。
感染遊戯/インフェクションゲーム
ガラの悪い公安上がり刑事の勝俣が主役。
世田谷区で起きた会社役員刺殺事件の被害者は
15年前に勝俣が捜査した殺人事件被害者の親だった。
非加熱製剤による薬害で免疫不全症候群となり
周囲からの非難を苦に自殺した女性の父親が
厚生省の責任者であった男を恨み殺人を企てたが
人違いで男の息子を殺してしまった。
その事件の犯人は獄中で既に亡くなっていて
今回の事件の犯人ではありえなかった。
連鎖誘導/チェイントラップ
「シンメトリー」の短編に登場した倉田刑事が主役。
8年前に、倉田の息子が交際相手の女性を殺した。
その報を受けてから辞職するまでの間に捜査した事件の話。
麻布で連続殺傷事件が起こり
旅行代理店に勤める女性一人が死亡、
外務省に努める男も刺され重傷を負った。
外務省の男は殺された女生徒は無関係だと主張したが
捜査の結果、被害者二人の関係が浮かび上がってくる。
沈黙怨嗟/サイレントマーダー
「インビジブルレイン」で解散した姫川チームに
属していた葉山刑事が主役。
葉山は「将棋の対戦中に殴られた」男の訴えを受け
調査に向かう。
殴られた男のケガは軽微だったが、
殴った側が「お前に殺された!」と言っていたという
証言が気になり、葉山は独自に調査を続ける。
殴った男の妻は数年前に持病で亡くなっていた。
男の勤め先の事情で給与が払われず
年金支給もうけられなかった数か月の間、
妻が「節約」のため薬を飲んでいなかったことが原因だった。
推定有罪/プロバブリィギルティ
冒頭の「世田谷区会社役員刺殺事件」の捜査に戻る。
この事件の捜査をしていた勝俣は
元郵政省事務次官の殺人未遂事件、
元農林水産省事務次官の殺人事件の容疑者の話を聞き
「元官僚」に対する悪意が同時多発的に
噴出していることに気づく。
勝俣は葉山と、警備員として働く倉田と共に
調査を進め、やがて事件の繋がりを見付ける。
【感想・考察】
官僚の保身のために起きた「薬害事件」「年金不祥事」や、
「天下り」など、官僚に対する怒りを題材にしている。
選挙で審判される政治家と異なり
官僚は自らの活動が公に晒されることが少ないため
組織内の減点主義に引っ張られ、
「自分に火の粉が掛からないことを最優先とし、
本来守るべき公益 を軽視する」こともあるのかもしれない。
専門性の高い業務を行う官僚に対しては
選挙のような不安定な制度は適さないし、
オープンにすることが難しい業務も多いとは思う。
それでも「内向きの閉鎖性」は腐敗を生むし
世の中に「上級国民」への僻みが感染してしまう。
「意識が外に向かうような仕組」が必要だと思うし
「一見オープンっぽいパフォーマンス」も必要なのだろう。