重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る
重力とは何か、現代の科学で分かっているところまで解説している本です。
著者自身が「逃げない」言っている通り、難しい観念であっても専門用語や数式の羅列でごまかすのではなく、初学者であっても理解しやすいような例え話やモデルを用意して説明してくれるので、本当にとても分かりやすい。
さすがに量子力学の世界に入ると難しいのですが、相対性理論で重力をどう捉えているか、というあたりまではすっきりと理解ができて、自分でも驚いています。
こういう人が科学の面白さを伝え、科学の発展に寄与するのだと思います。科学者の似顔絵イラストがショボいことを除けば素晴らしい名著だと思います。
【作者】
大栗博司
【あらすじ・概要】
アリストテレスの時代にも重力は着目されていた。当時は天体を支配する運動法則と、地上の運動法則を分けて考えていた。天体には重さの観念は無いが、地上の物質は四元素(風、火、水、土)の配合具合によって「適切な位置」が決まり、そこに戻ろうとする、という考え方。
ニュートンは「万有引力」の法則を見出し、天体と地上の物質に等しく働く力として二つの理論を統一した。一方でマックスウェルは電磁気力についての研究で電磁波を見出し、光や電磁波の速度には一定で、物体の速度には上限があることを発見した。ニュートン力学では速度は足し算なので、100㎞で走る車から光を放てば 光速+100㎞の速度になるはずだが、実際には光速を超えることはない。
アインシュタインは「特殊相対論」の中、光速に近づくほど時間は遅くなり空間は小さくなることを説明し、ニュートン力学とマックスウェル理論の矛盾を克服した。
一般相対論の中で説かれるている「空間の歪みが重力を引き起こしす」ことについて、著者は二次元世界に次元を下げて説明している。二次元では、質量の影響で空間は三次元的に歪むが、二次元世界の住民から見ると三次元の歪みは認識できず、物質の動きが変わるという結果だけが見える。(分かりにくいので以下で図解)
1.二次元平面での等速直線運動
2.質量の影響で損角が生じ、三次元の円錐的に歪む。
3.これを二次元住民の視点で真上から見ると、
中心の質量に引っ張られ等速直線運動が曲がっているように見える。
しかしながらアインシュタインの相対理論も、宇宙の原初や素粒子などの「極限状況」はうまく説明しきれない。量子力学の理論と統合する「場の量子論」が考えられてきたが、粒子の数が確定できないので無限大の自由度を計算することができない。
超弦理論は粒子の位置を点ではなく、一次元的な振動とすることで計算するが、一つの新たなな粒子の存在を予言し、6つの余剰次元を必要とすることで更に複雑化したため、一時期は下火となった。
しかしながら、新たな粒子が重力を伝える重力子である可能性が見え、また4つの力(弱い力、強い力、電磁気力、重力)を統一的に説明することに、きっちりとハマることが発見され、新たに脚光を浴びている。
【感想・考察】
かなり高度な話もしているが、難解な数式や専門用語を使わず「逃げずに」説明してくれるので本当に分かりやすく感動する。自分自身もこういう説明ができる人間になりたい。
また最後の章で、宇宙の各種条件が人間にとって「丁度良い」ことも考察している。マルチバースの考え方で「いくつもの条件の世界が生成されたが、観測者たる生物が生存できる宇宙のみ観察された」というのは、生物の進化論とも近く、無限回に近いランダムの中で最適なものだけが観察されている、というのは「意図的に設計した者」はいないと考えるならば、最も現実的なのだろう。
「サイコロ自体が神なのだ」ということなのだろうが「神はサイコロを振らない」という考えの方が、自分にはしっくりくる。
【オススメ度】
★★★★☆