毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

雪の断章 佐々木丸美コレクション

 殺人事件が起こるミステリ小説なのですが、事件とはあまり関係なく主人公たちの心の葛藤や、悲喜こもごもの日常生活がどんどん進んでいきます。久々に、読むのに疲れを感じる作品でしたが、ある意味印象には残りました。


【作者】
 佐々木丸美

 

【あらすじ・概要】

 札幌の施設で孤児として育った飛鳥は、5歳の頃にはぐれたところを通りがかりの男性に助けてもらう。

 

 後に飛鳥は、富裕な本岡家に養子にもらわるが、本岡家の養父母、長女聖子や同年齢の次女奈津子ともそりが合わず徹底的に虐げられていた。
7歳になった冬の日、本岡家から逃げ出した飛鳥は、かつて彼女を助けた男性 祐也 と再会する。


 祐也は飛鳥を本岡家へ帰そうとするが、非人間的な扱いをされていることに怒り、飛鳥を自分で育てていく。祐也と彼の友人である史郎、アパートの管理人たちに助けられ、飛鳥は平穏な日常を手に入れる。

 それでも飛鳥と本岡家の因縁は途切れず、高校では次女の奈津子と再会し、祐也たちの住むアパートに長女の聖子が入居してくる。

 ところがアパートで催した忘年会で、聖子が毒殺される事件が起きる。
聖子にコーヒーを運んだ飛鳥も容疑を受けたが、決定的な証拠は見つからず犯人は不明のままだった。

 殺人現場を思い浮かべ、論理的な考えから犯人は一人しかありえないと結論付ける飛鳥。その事実の重さを受け止め切れず、受験勉強も投げ出してしまったが「犯人を隠匿することは理不尽な世界に対して、自分が決意してできる唯一の行動」だと考え、急激に自分を取り戻し、受験にも成功する。

 

 大学生になった飛鳥は、転勤が決まった史郎に求婚される。
飛鳥は祐也への思いとの間で揺れるが、祐也は自分を拾い育ててくれた崇高な存在であるという想いと、祐也の陰に見える婚約者の姿を感じたことから、祐也を諦め、一度は史郎との結婚を決意する。
 しかし、自分の思いを表現することができない飛鳥と、自を縛ってしまっていた祐也の心が初めて交わり、最後には飛鳥は祐也を選ぶ。

 史郎が転勤する直前、聖子の殺人事件を追っていた刑事が飛鳥の元を訪れるが、飛鳥は最後まで秘密を抱え込む。


【感想・考察】

アウトラインだけをざっくりみると、
養父母たちにいじめられた孤児がイケメンお兄さんに救われ、
自らは手を下さず自分をイジメた家族への復讐を果たし、
イケメンとその友達の二人に思いを寄せられ、
様々な葛藤と悲劇的な出来事を乗り越えて、
最後はイケメンとの思いと遂げるというベタなシンデレラストーリー。

 

ベタなストーリーの中で、少女の成長の軌跡を描いた物語と言えるのだろう。
自分の正義を曲げない頑なさと不器用さで生きることに苦しみながら、世の中の不条理を一つずつ受け止め消化し、幸せを掴もうとする姿勢が、圧倒的なボリュームの自分語りで描かれる。

 

ちなみに、殺人事件があったことは途中で忘れてしまうくらいミステリ要素は薄い。それでも最後の展開は面白かった。
論理的な考えから犯人に辿り着きながら、被害者家族と警察への抵抗として内に秘め続けた飛鳥。
飛鳥が気付いていることを知り「法や道徳」を超えた裁きを受けた犯人。
二人の想いの帰結はドラマチックだ。
 
学生運動が終息した1975年に初版が発行された本らしく、立場の違いを利用し弱者を虐げる者への怒りや、警察や法規制などの社会体制が抱える不条理への怒りが前面に出てきているのを感じる。

 

主人公の心理描写を冗長に感じる部分もあったが、印象に残る作品であることは間違いない。

 

【オススメ度】
 ★☆☆☆☆

 

 

当ブログは、Amazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイトプログラムであ「Amazonアソシエイト・プログラム」に参加しています。