おうむの夢と操り人形
完全にペッパーくんをイメージしたロボット「パドル」が活躍します。「契約更新されなかったペッパーが大量に返却されている」というニュースを見たばかりなので、リアリティーを感じます。細かい技術的な話が、個人的にはとても面白いのですが、読む人を選ぶ本かもしれません。
【作者】
藤井太洋
【あらすじ・概要】
エンジニアの山科と、企業買収に関わる飛美はルームシェアをしている。
飛美が買収に関わった企業の無人配膳ロボット「ワゴット」は多様なセンサーを備え、人と衝突することは皆無だったが、顧客やレストランスタッフからは「ぶつかりそうで怖い」という苦情を受け、全く使われていなかった。
山科は人間的なインターフェイスを持つロボット「パドル」を「ワゴット」と組み合わせ活用することを提案。その考えは大当たりし、車の自動運転などにも採用され大きなビジネスとなる。
また山科は会話のロジックとして「オウム返し」をベースにした「パロットーク」を開発する。基本的には相手の一部をオウム返し話題を繋ぐだけだが、自律的に会話を広げようとするAIよりはずっと軽く、かつ人間的な会話が実現できる。
飛美は介護用ロボットに「パロットーク」を組み込み、介護効率の向上、認知症への改善効果を実証し更にビジネスを広げていった。
一方、山科は「壁打ち」のように主体性のない会話に人間性を感じさせることに違和感を覚え、飛美と仲たがいをする。「パロットーク」の改善に力を注ぐが結果が出せず、会社をやめサンフランシスコに移住した。
数年後、飛美が山科の元に訪れ、自分も会社を去るつもりであると語る。
【感想・考察】
AIやロボティクスに関するアイデアを小説に乗せた感じ。細かい設定にリアリティーがあり、話に入り込みやすい。
ペッパーくんの場合、実質的にはタブレットがインターフェイスで、表情や身振りはおまけだったが、実際に物理的な仕事をするロボットと組み合わせることで、意味が出てくることは十分にありうると思う。無人で運転される自動車は怖いと感じるが、運転席にペッパーくんがいると受け取り方は変わってくるだろう。
オウム返しのコミュニケーションも、対人間の会話アルゴリズムとしては有効だと思う。頑張って相手の質問に答えようとする Siri よりも、言葉尻を拾ってビックデータから適当なキーワードを探し応えてくる りんな の方が人間的で自然だ。実用面で役には立たないけれど、会話自体に意味があるケースでは有効だろう。
【オススメ度】
★★★★☆