毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

今夜、すべてのバーで

【作者】

 中島らも

 

【あらすじ・概要】

 アルコール性の急性肝炎で入院した「小島」の視点で、同室の入院患者、主治医との交流や、泥酔して車にひかれ死んだ友人の天童寺やその妹との関係を綴った物語。普通の社会生活から徐々にドロップアウトしてアルコールに依存していく流れや、肝炎で入院した時の検査や回復状況など、見てきたかの様なリアリティーで描かれている。

 小島はどうしようもないクズのアル中だが、友達の妹であった天童寺さやかは彼を蔑みながらも支えようとする。最後にさやかがアルコールにかき回された家族の過去を伝えるのに、モノローグ形式ではなく、ケースワーカーの報告書の体裁をとり淡々と描かれていた。

 

【感想・考察】

 ウィットの効いた会話や、ストーリー展開も面白いが、アルコール依存症のリアルな描写が興味深い。医学的な説明やアルコールやドラッグなども含めた依存症についての説明、依存症に陥りやすい人の性格傾向分析など、ちょっとした雑学トリビア的な内容もふんだんにあり好奇心を満たしてくれる。

 そして最後にはケースワーカーの筆を借りた淡々としたさやかの告白が胸を打つ。なかなかの良書だった。

 

1時間でわかるビットコイン入門 ~1円から送る・使う・投資する~

【作者】

 小田玄紀

 

【あらすじ・概要】

 ビットコインの仕組みや使い方、取引所などについて初歩的な内容の概説書。

 

ビットコインの使いどころ

 

 ①送金手数料の安さを利用する

  銀行等の金融機関はセキュリティーに膨大な設備投資をしているが、ビットコインは、マイニングというインセンティブを使いセキュリティー確保をユーザに分散処理させ費用を抑えている。そのため送金手数料が安く、銀行経由の海外送金では数千円かかるところ、数十円から百円程度で送金できてしまう。海外送金の機会が多い場合はメリットとなる。

 

②代金支払いに使う

  現在ではまだビットコインを受け入れる実店舗は少ないが、決済手数料の安さから普及が期待される。クレジットカードが5~8%程度の決済手数料を取るのに比べ、1%程度の手数料に抑えられており、設備投資も最小限で済むので、店舗側のメリットが大きい。拡大すればユーザ側の利用増加も見込める。

 

③投資対象とする

  ビットコインはトータルの発行量が決められているため、需要に応じて価値が増減する。長期的な値上がりを期待しての保有や、短期的な値動きにレバレッジをかけるような投資、取引所の間の価格差を利用して利ザヤを稼ぐ方法などがある。

 

ビットコインの安全性

 

 ビットコインはブロックチェーンと呼ばれる帳簿を世界中に分散させて持つことで改ざんが難しい。取引所単位でセキュリティーに課題があったりすることはあるが、ビットコイン自体の堅牢性は破られていない。

 とはいえ取引所の信頼性を見ることは大事。日本では取引所が認可制となり金融庁の監督を受けることとなったため、信頼性が高まることが期待される。上場しているような取引所は財務状況を公開しているので比較的安全。顧客資金を完全独立で管理している取引所を選ぶべき。

 

【感想・考察】

 最近、ビットコインは投機対象としてしか見られていない感があるが、運用コストの低さから、決済・送金の手段としても有用だ。また政府や金融機関から見るとお金の流れを把握しやすくなることも、犯罪防止やより効果的な経済政策の実施に向けて有用だと思われる。

 短期的な価格上下はあるかもしれないが、仮想通貨の需要自体は強いこと、中でもビットコインは頭一つ出た存在感があることから、試しに購入してみたい。

 とはいえ最近ではコインチェックのハッキングなどセキュリティー不安もあり、リスクを受け入れられる範囲で、できる限り信頼できる取引所を選択する必要がある。こういう案件では広告バイアスが強すぎて、ネットで中立的な情報を得ることは極めて難しい。。

 

お坊さんがくれた 涙があふれて止まらないお話

【作者】

 浅田宗一郎

 

【あらすじ・概要】

 16編の短編小説集。徐々に幸せを手に入れ、それを失い苦しむが、たとえ勝てなくても負けず、大切なものを見つけていくという大筋は16話全部に通じている。

 

①百日紅

 輝子は岡山の田舎で育ったが、バブルを迎える派手な景気に惹かれ上京し、結婚して子供をもうけた。バブルの崩壊とともに経済状況が悪化し離婚に至った。実家に戻ってきた輝子は、静かな古刹で「飾らない自分が一番」との言葉を思い出す。

 

②もみじ

 詩織は板金工場で働く正志と出会う。詩織も幼少のころに父親を亡くしていたこともあり、児童養護施設で育った正志に親近感を覚え、結婚し子供をもうけた。正志には親の記憶がないが「もみじを包み込むような光の中で、抱きしめてくれる人」のことだけは頭に残っていた。正志は末期の肝臓がんに侵されていたが、延命治療を拒否し家族には伏せギリギリまで働く。正志にとって家族のために働き続ける日々に一点の悔いもなかった。

 

③幸せ

 京都で生まれた加奈は同級生の涼子と大学までを一緒に過ごした。涼子は弁護士となり同じ弁護士と結婚して娘をもうけた。同じ時期に公務員となった加奈も結婚し子供をもうけたが、娘の真美はダウン症を抱えていた。

 加奈は、立派な経歴と五体満足な子供理恵に恵まれた涼子を羨む気持ちを持ち始めた。ある日、高校生となった理恵は人生に疲れ自殺を図る。涼子は母親として娘を十分見てあげることができなかったと嘆く。真美は障害を抱えながらも真っ直ぐに生き、周囲に愛を振りまいていた。真美の心が理恵に光をもたらす。

 

④一生

 神戸で終戦を迎えた美子は、ケーキ職人の達彦と結婚し、娘をもうける。神戸のケーキ屋で数十年働き続けたが、阪神・淡路大震災で達彦が亡くなってしまう。絶望にひしがれ無力感に襲われる美子だったが、いつか娘と娘婿が達夫と暮らした街に家を買い、共に生活をするよう申し出てくれる。「人間ははかなく、人生は苦しみが多い。でもその苦しにも中に点在する幸せが掛買いのないものと感じられる。夫や娘に感謝の念を抱き、美子は静かに命を閉じる。

 

⑤絆

 自動車部品の工場を経営する一雄は、死を意識し家族に何も残せない自分を不甲斐なく感じていた。「人間は死ぬときに光があるか、闇に包まれるかで、すべてが決まる」という。羽振りのいい時期があっても自動車メーカ不振のあおりを受け落ちぶれ、息子や娘にも迷惑をかけた。それでも「一雄は家族のために頑張り続けた」という妻と娘は彼を心から尊敬し愛していた。光に包まれた終わりの時を迎える。

 

⑥人生の光

 友広はその名の通り友人に恵まれにぎやかな学生時代を過ごした。だが社会人となって社会の厳しさに落ちこぼれ、リストラされてしまう。学生時代は目立たなかった涼が漫画家として大成し「自分は未来だけを見ている。同じような人間を養成する学校には興味がなかった」といい、社会から落伍した友広を蔑む。落ち込む友広だったが、いつも自分を見て、人との関わりを大事にする自分の姿勢を評価してくれた女性の存在に気づき、人生に希望を見出す。

 

⑦縁ーえにし

 子供好きで幼稚園の保育士となった美保は、幼稚園に出入るする文具業者の和也と結婚し妊娠するが、子供は死産だった。それから子供を作ることが怖くなり、妊娠適齢期を逃してしまう。子供が好きな和也に新しい人生を上げるため、美保は一人離れ別居する。一人暮らしの美保が拾った猫は「パパに会わせて」と語りかける。猫は二人のもとに帰ってきた死産した子供だった。

 

⑧希望

 男は高校時代から付き合い始めた理香子と結婚し娘の美奈を授かったが、理香子はジョギング中に心筋梗塞に襲われ、35歳で死んでしまった。理香子を失い必死で美奈を育てた男だが、美奈が紹介した恋人塚本隆二は草食系で弱々しい感じが気に食わなかったが、理香子が見守っていてくれたことを感じ、感謝して隆二を迎える。

 

⑨笑顔

 由香子は2歳の時に父親を亡くし、母親が貧しいながら守り育ててくれた。母は苦しい生活の中、由香里を大学にまで行かせた。母は辛い時もいじめられて苦しい時も、背中から抱きしめ守ってくれた。

 大学を卒業した由香子は結婚し、理奈という娘が生まれた。いつしか理奈も成長し結婚したが、母は認知症を悪化させ介護に苦しむ日々が続いた。そんな時に娘の理奈が旦那から家庭内暴力を受けていることを訴えるが、母の介護で精一杯の由香子は受け止める余裕がない。自分の不甲斐なさに涙を流す由香子を、母親が抱きしめて「お前を守る」と言う。認知症で人格が変わってしまった母だが、ずっと自分を守ってきてくれたことを思い出し、自分も娘の理奈を守り通そうと心に決める。

 

⑩空

 寿司屋で修行をしていた空は、客としてきていた千明と付き合い娘の海を授かる。寿司職人としての腕に自信を持っていた空は、師匠がまだ早いと言うのを聞かず独立して店を持つ。寿司の味は良いが接客や経営面で未熟だった空は結局店を潰してしまう。莫大な借金を抱えた空は妻と娘に迷惑をかけないよう籍を抜き一人で放浪生活をする。

 20年ほどが過ぎ、どこで働いてもうまく行かない空は死に場所を求めて故郷に戻るが、そこで娘の海と孫の大地に再開する。妻の千明は、最後まで空を信じ亡くなったと聞き、また海が自分を受け入れてくれるありがたさを感じ、改めて生きる意思を持つ。

 

⑪二人の轍

 愛子は自分の容姿にも能力にも自信がなく、地味な生活を送っていた。工場勤務の同期であった光一と付き合い結婚したが、愛子には子供を作る能力がないことが判明し、自分には人並みの能力もないことに絶望していた。光一も小説家を目指し数十年間原稿を書き続けてきたが芽が出ず、才能がないものは報われないと感じていた。

 そんなある日、光一は小説の新人賞を受賞する。光一は「この作品は愛子と自分が二人でつくってきた轍」であるといい、支えてくれた妻に感謝を伝える。

 

 

⑫手紙

 ホルストの「惑星」が好きだった父に木星と名付けられた男は旅行代理店に勤める。顧客として知り合った美花と付き合い結婚したが、バブルの崩壊とともに旅行代理店は倒産し、徐々に勤務先の条件が悪くなることに投げやりな気持ちになっていた。

 そんな折、美花は木星に手紙を送る。京都の竜安寺で聞いた「吾只足るを知る」という言葉を思い、今に感謝し木星とともに過ごせる日々に感謝していると伝えた。

 美花の思いを受け止め、木星はまたひたむきに生き始める。

 

⑬泥濘の花

 強は生まれつき片側の耳が小さい「小耳症」だった。自分の障害にコンプレックスを覚え、常に髪で耳を隠し、何をしても積極的になれなかった。高校生の時であった陽子は美しい顔立ちであったが、火傷で腕から背中にかけひどいケロイドがあることを明かしてくれたが、自分は小耳症を打ち明けられずにいた。外見の整った友人の翔には充実した人生が約束されているように見えた。

 積極的な営業ができないため退職に追い込まれた強は、翔と再開するが彼も仕事に真摯に向かうことができずホストとしてヒモのような生活をしていた。

 美しい外見を持ちながら驕らず、深い傷を持ちながら卑屈にならない陽子と再開した強は彼女からたくましく誠実に生きることを学ぶ。

 

⑭希望の絵

 琵琶湖のほとりで育った智恵は、高校の美術部で夢人と出会い、その精密なスケッチに感銘を受ける。両親を亡くしていた夢人は大学進学はできなかったが、二人は結婚し幸せな暮らしを送っていた。夢人が描くスケッチをネットに公開していると、作品を見出した人々から注文が入り始め、イラストレーターとして徐々に名前が売れ始めた。

 そんなある日、働いていた工場で事故が起こり、夢人は利き手である左手を怪我し、回復が見込めないと言われる。悲嘆にくれる夢人であったが、利き手でない右手で書いた絵は、左手で書いた時のような鋭さは無くしていたが、対象を優しく包むような緩やかな描写だった。

 

⑮光の歌

 翼は高校生の時に「光の歌」でデビューし大ヒットを記録したが、2作目以降は売り上げが伸びず、CD不況も重なり結局は歌手を引退した。翼の歌を愛し翼そのものを愛してくれた由紀と付き合うが別れてしまう。引越しなどで働く翼だが体を痛め、肉体労働はままならない状況となる。そんなある日数十年前に歌った「光の歌」がラジオから流れ、かつての自分に力づけられる。

 

⑯一緒に

 バブルを経験した私は、デザイン会社に勤める美形の利也と結婚し息子の正輝を授かった。バブルの崩壊とともに利也は職を失ったが、プライドが邪魔してどこの就職先でも長続きせず、暮らしは安定しなかった。夫婦が言い争うと正輝は声を上げて泣いた。

 そんな生活でも正輝はまっすぐ成長し大学への進学を決めたが、ツーリングの最中に自損事故で植物状態となってしまう。正輝は植物状態となりながらも目の前で前で言い争う夫婦の声を聞き涙を流す。反応を示すことはできなくても耳は聞こえて意識は残っていた。正輝への愛を伝え夫婦がお互いへの感謝を伝えると、微かに微笑みを浮かべる。事故の2ヶ月後に正輝は亡くなるが、二人は心の中で彼を生かし続けることを誓う。

 

【感想・考察】

 話のテーマは日本的な仏教説話に近い感じがする。

 恵まれない状況から努力をしてそれぞれの幸せを手に入れるが、運命のいたずらで絶望を味わう。それでも負けずに人生と向かい合うことで、流されない幸せを掴む、というテンプレートで書かれている。「足るを知る」ことや「死者も心の中にあり続ける」という考えはすんなりと心に入ってくるし、筋書きが決まっていても「家族の愛」「親子の愛」「ひたむきに生きる姿勢」は美しく、心を揺さぶる。

 それでも上述のように「あらすじ」だけを書いてもまったく感動が伝わらない。物語の命はディテールに宿ると言うことなのかもしれない。

 

 

ウォーレン・バフェット 成功の名語録 世界が尊敬する実業家、103の言葉

【作者】

 桑原晃弥

 

【あらすじ・概要】

 世界的に著名な投資家である ウォーレン・バフェットが何を基準にどう考えているのかを、103の言葉から拾っていく。

 

 中心的なメッセージは下記の2点。

・企業の価値に対する長期投資を基本とし、短期の投機での利益を狙わない

・自分がトップになれない分野では勝負しない。自分の実力の範囲を見極める

 

103個の言葉を紹介し、詳細を説明する形式。特に印象に残ったのは以下の言葉。

 

「成功は、飛び越えられるであろう30センチのハードルを探すことに精を傾けたからであり、2メートルのハードルをクリアできる能力があったということではないのです」

 自分の分かること、得意な分野で戦うことが勝ちの条件だとする。

 

・「人がどうふるまうかを大きく左右するのは、内なるスコアカードがあるか、それとも外のスコアカードがあるかということなんだ」

 他人の評価ではなく、自分の頭で考え自分自身の価値基準に従って振る舞えばいい。

 

・「二番手には居場所がないんだ。に東証の赤いリボンなんかない」

 強いものがより強くなり時代を予見していた。

 

 

同じ作者がバフェットを語った「1分間バフェット」と内容が被っている。

kenbuchi.hatenablog.com

 

【感想・考察】

 バフェットの哲学には投資戦略に止まらず、よりよく生きるための示唆も多い。自分は節制し、真剣に熱意を持って働く経営者や企業を応援しようという気持ちがあるのだろう。結果的には世界トップレベルの富豪として財を蓄えているし、言葉以上にしたたかなところが当然あるのだろうが、それにしても言葉に清々しさを感じさせる人物だ。

 

シークレットエージェント: 第二次世界大戦、アメリカの偉大なるスパイを追う

【作者】

 スティーブン・トルティー

 

【あらすじ・概要】

 第二次世界大戦の時に、連合国側のスパイとしてドイツに入り込み活躍した「エリック・エリクソン」の伝記。

 エリックはアメリカで生まれ育ち、スエーデンに移住した。ドイツ相手に石油を売り大きな利益を上げていたが、ヨーロッパ戦線で戦った兄から「弟が独裁者に協力して利益を上げていることが屈辱だ」との手紙を受け苦悩する。エリックはドイツ相手の商売を止めるのではなく、連合国のスパイとして貢献する道を選ぶ。

 当時のドイツではヒットラーが軍備の技術レベルを急速に上げたが、それだけに石油の重要性が増していた。ドイツは石油確保のため周辺国への侵攻を重ねていたが、徐々に連合国による包囲が強まった。そのためドイツでは「石炭を原料に液体燃料を合成する合成石油」の技術を他国に先駆け実用化し、国内に合成石油工場を建築していた。

 エリックは石油商人としての立場を利用し、ドイツ内部の情報を収集し、合成石油工場の所在地を連合国軍に伝えることを使命とした。ドイツの上層部に入り込むためナチスを賞賛する立場を周囲に見せた。中立国であるスエーデンでは周囲から孤立し、妻は精神的に追い詰められノイローゼになってしまった。

 最終的にはナチス親衛隊の頭領であるヒムラーから直々にドイツ国内での自由な交通や、石油合成工場への立ち入りも認められた。その一方で同じ連合国の諜報員としてドイツに潜入していてエリックと親しい関係となった、アンネ−マリアの処刑を目の前で見せられるなど揺さぶりもかけられ、終始強烈なプレッシャーと戦っていた。

 エリックから伝えられた工場の位置情報は正確で、連合国軍の爆撃は大きな成果を上げた。ドイツ軍はフランス等占領地域に配備していた軍備に燃料を供給することができず、戦闘機・戦車を放棄して撤退するような状況となり、最終的な敗北に繋がった。

 

【感想・考察】

 19世紀末ごろの帝国主義の時期は、資本主義の拡大による市場と労働力の確保が戦争の主因だったが、20世紀に入り生産設備や軍備の機械化が高度になることで、エネルギー争奪戦としての戦争が増えた。同時期に日本も石油の確保のため東南アジアへ侵攻し、ドイツと同じような結果を迎えている。21世紀に入ってからの国際紛争も大部分はエネルギー問題が背景にあるように思われる。アメリカもエネルギー供給で重要な意味を持つ中東では派手な軍事行動をしても、エネルギーを持たない北朝鮮に対しては、自国の安全の脅威となるギリギリまで放置を続けている。エネルギーの重要さを改めて感じた。

 

 

風少女

【作者】

 樋口有介

 

【あらすじ・概要】

 父の葬儀で前橋の実家に帰った大学生の斎木亮。帰り路で中学時代に片思いをしてい川村麗子の妹、川村千里と会い、麗子が死んでいたことを聞く。

 麗子の死は「睡眠薬を飲んで風呂場で転倒し湯船にはまって溺死した」事故死であると結論付けられていたが、千里は納得できず、亮も違和感を感じていた。

 中学時代の知り合いが集まるスナック「青猫」で話を聞き、千里と一緒に事件を追う亮。

東大受験に失敗し地元に戻って「青猫」を経営している氏家、氏家と同棲している看護婦の桑原、氏家に思い寄せる野代、東京にいた時分は川村と付き合っていたと自称する竹内などの証言を集めながら、事件当日に起こったことを再現し、自分が感じた違和感の招待に気づく。

 

【感想・考察】

 若者の青春小説ともいえるミステリー。主人公の亮は2223歳程度の設定なのだろうが、セリフがいちいちハードボイルドで渋い。亮が、千里、妹の桜子、中学時代の友人たちと交わす言葉が優しく楽しい。家庭環境に恵まれず老成したということなのだろうが、いつも醒めていて「自分は薄情だ」と認識しながらも、繊細な感受性を持ち時には熱い思いを表出させる。

ミステリとしてはシンプルだが、主人公たちの魅力で一気に読ませる物語だった。

 

妻にささげた1778話

【作者】

 眉村卓

 

【あらすじ・感想】

 著者の妻ががんの手術を受け、5年後生存率はほとんどないと告げられる。作家である自分が妻のためにできることを考え、毎日1つ話を書いて読ませることにした。原稿用紙で3枚以上、エッセイではなく「お話」で、必ず日常とつながっているもの、という制限で書き始めた。

 

 本書には 19の話と、それを書いた前後の妻と自分の状況が記されている。話の内容はSFショートショート的だが「鋭いオチがある」ということはあまりなく、日常とつながる情景をとなっている。妻の死の前後に書かれた最後の数編は物語にはなっておらず、その時の妻への気持ちがあふれる実話になっている。

 5年にわたる夫婦と娘の闘病生活の記録。

 

【感想・考察】

 話自体は「パンチの弱いショートショート」という感じだったが、妻への思いを背景に感じると胸に迫るものがある。例えば「古い硬貨」は「数十年前に文字を刻んだ硬貨が自分のもとに還ってきて、ほかの人によって続きが彫られていた」というだけの話だが、時を超えためぐりあわせや「記念だから手元に残したいけれど、使われないと硬貨の本懐を果たせない」という戸惑いなどに、妻との関係が重ね合わせて見えてくる。

 また妻の側でも、支えようとしてくれることに感謝しながらも、夫が仕事から離れてしまうことを不安に思い、作家である夫が「書くこと」を応援し続けてきた。

 人と人との関係はここまで強い力を持ち得るものなのか。

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