妻にささげた1778話
【作者】
眉村卓
【あらすじ・感想】
著者の妻ががんの手術を受け、5年後生存率はほとんどないと告げられる。作家である自分が妻のためにできることを考え、毎日1つ話を書いて読ませることにした。原稿用紙で3枚以上、エッセイではなく「お話」で、必ず日常とつながっているもの、という制限で書き始めた。
本書には 19の話と、それを書いた前後の妻と自分の状況が記されている。話の内容はSFショートショート的だが「鋭いオチがある」ということはあまりなく、日常とつながる情景をとなっている。妻の死の前後に書かれた最後の数編は物語にはなっておらず、その時の妻への気持ちがあふれる実話になっている。
5年にわたる夫婦と娘の闘病生活の記録。
【感想・考察】
話自体は「パンチの弱いショートショート」という感じだったが、妻への思いを背景に感じると胸に迫るものがある。例えば「古い硬貨」は「数十年前に文字を刻んだ硬貨が自分のもとに還ってきて、ほかの人によって続きが彫られていた」というだけの話だが、時を超えためぐりあわせや「記念だから手元に残したいけれど、使われないと硬貨の本懐を果たせない」という戸惑いなどに、妻との関係が重ね合わせて見えてくる。
また妻の側でも、支えようとしてくれることに感謝しながらも、夫が仕事から離れてしまうことを不安に思い、作家である夫が「書くこと」を応援し続けてきた。
人と人との関係はここまで強い力を持ち得るものなのか。