リピート
【作者】
乾くるみ
【あらすじ・概要】
「一時間後に、地震が起こる。震源地は**で、震度は**」と、大学生の毛利は見知らぬ男から電話を受け、その一時間後には実際に予言通りの地震が発生した。その男は風間と名乗り、記憶を持ったまま意識だけ一定時間を遡る「リピート」を体験していると語り、ほかの数人と一緒に「リピート」をするよう勧めてきた。毛利は半信半疑であったが9人の同行者とともにリピートで過去に戻る。
過去の世界に戻ったリピーター達は、記憶を生かし前回とは違う人生を送り始めたが、一人また一人と事故や自殺、他殺で死んでいく。それぞれの死には死者がリピーターであること以外の関連は見えないが、いったい何が起こっているのか。
【感想・考察】
一気に読み切ってしまった。
時間移動をしたリピーターは外部に助けを求められず、ある意味クローズドサークルの条件を満たしている。また、世間一般では見えない関連性が自分たちには見えているという逆ミッシングリングというのも面白い。特殊な設定での WhoDoneIt 作品として、犯人捜しをする読み方もできるだろう。
またSFとしての掘り下げ方も面白い。時間移動をするにしても物理的には何も変わらず、意識だけが戻る。それも自由に行き来するのではなく、特定の一時点から過去の特定の時点への移動に限定されている。そういう条件であっても、リピータたちの行動がバタフライ効果となって未来を分岐させていく。
面白いのは時間自体が意思を持っているように、多少の変化が起こっても大局的には「本来の流れ」に近づけるよう働きかけるということだ。東野圭吾のパラドックス13などでも似たような話があったし、セワシ君はのび太がジャイ子と結婚しなくても生まれたと説明されている。「意味」を追求する傾向がある文学者の頭には、無限の可能性が分岐する多重宇宙のような世界よりも、「時間が意思を持ちどこかに導こうとしている」世界観の方がなじみやすいのだろう。
イニシエーションラブ等と比べると、作者の仕掛けに騙される快感は弱いかもしれないが、 緻密な計算を感じさせ、楽しく読める。
1440分の使い方 ──成功者たちの時間管理15の秘訣
【作者】
ケビン・クルーズ
【あらすじ・概要】
ビリオネアやオリンピック出場者、成績優秀者などから時間管理の秘訣を聞き、15の秘訣にまとめた本。
① 1440
一日は1440分で有限だということを認識し、時間は取り返しのつかない貴重な資源だと常に意識すること。
② 適切な優先順位
最も大切なこと(Most Important Task)を見極め、その達成に全力を尽くす。
③ To Do List をやめる
To Do List は優先順位が不明確で、手の付けやすいことから片づけ、重要だが緊急ではないことがいつまでも残る。代わりにスケジュール帳にやる時間を決めて記入する。
④ 先延ばしを撃退する
モチベーションが十分でないか、未来の理想より今の願望の方が強いことを認識しないで目標設定をしているのが原因。未来の自分を予想し戦う、嫌な思いと良い思い、飴と鞭を使うなどで先延ばしを撃退する。
⑤ 罪悪感なく定時退社
仕事は無限で終りはないと認識。何を優先し、どういう結果を出すか自分で定める。
⑥ ノート術
手書きのノートを推奨。記憶のプレッシャーから脳を開放し、良いアイデアを残す。
⑦ 3210メール
一日に3回、21分間で、メールボックスを0にする。メールに振り回されないよう見る時間は限定し、何度も戻らないよう未処理件数をゼロにする。
⑧ 会議術
無駄な会議をしない。会議の時間を限定する。会議のない日を作る。事前にアジェンダを配布し効率化する。会議中にほかのことをさせない。等。
⑨ノーと言う
何かに「イエス」ということは、その時点では見えなかった他の何かに「ノー」をいうことかもしれない。本当に大事なことにつながらないなら、勇気を持って「ノー」ということも必要。
⑩ パレートの法則
入力と出力は比例しない。2割の入力が8割の出力を生み出す。重要な2割に集中し他は切るか外部委託するなどで効率を上げる。
⑪ 3つの質問
時間削減のため、「断念する」、「委託する」、「再設計する」ことを考える。自分がやることにこだわりがないことなら、お金で時間を買えるなら買うべき。
⑫ テーマを持つ
集中日や予備日など、日ごとのテーマを設定しておくとスケジュールを組みやすい。
⑬ 一度しか触らない
郵便物は触ったらその場で開封してその場で処理。メールも後で見返すのではなく、その場で処理。
⑭ 朝を変える
朝の時間は集中力が高まりやすい。朝に外部から干渉されない時間を持ち、エネルギーを高めるようなルーチンを持つ。
⑮ エネルギー
時間は変えられないが、エネルギーは増やせる。健康に留意し、集中力の高い時間に重要なことをスケジューリングすることで成果は増やせる。集中力が途切れるようなときは適時休憩をすることも大事。
まとめとして、 E-3C : Energy、Capture(記録), Caledar(スケジュール), Consentration(集中)を挙げている。
【感想・考察】
時間管理の内容としてはよく言われていることが多い。
精神面では「大事なことを見極め」、「そのために必要なことに集中する」が大事で、技術的には「自分の集中できる時間や、集中する方法を知り活用する」ことが有用だ。
「シングルタスク」という本を読んでから、一つのことを片付けてから次に移ることを意識しているが、確実に効率は上がっている。それが「大事なこと」の達成につながっているのか、改めて自問することが必要だと感じた。
P.F.ドラッカー 完全ブックガイド
【作者】
上田惇生
【あらすじ・概要】
ドラッカーの主要著作の大部分を翻訳し、日本においてその思想を広めてきた上田氏によるブックガイド。ドラッカー本人が著した全作品や、死後に編まれた関連書籍も含め全64冊を紹介している。
冒頭は糸井重里氏との対談。
糸井氏は「職人」として自分の技能に自信を持っていた時期は「経営」という言葉に反感を覚えていたが、徐々にチームで仕事をするようになり、マネジメントを意識するようになってドラッガーの言葉を重く受け入れるようになったと言う。
そのあとは上田氏がドラッカーとの関りを持った経緯を紹介。最初の翻訳の際に「わからないことは自分の机を通さない」という上司の教えを守り、細かいことまで徹底して問い合わせた。その真摯な態度がドラッカーの信頼を得、その後の協力関係につながっている。
その後は、ドラッカーの自著、関連作品の64冊を年代順に紹介している。各本の概要、目次や、主な作品については上田氏の論評を加えている。
・政治三部作
「経済人の終わり」、「産業人の未来」、「企業とは何か」
処女作である「経済人の終わり」で資本主義や社会主義といった経済のイムズは、社会的な目的を達成するための手段としての意味しかない。現在の経済社会の基礎を前提としつつ、自由で平等な脱経済至上主義社会を発展させなければいけない、とする。
続く「産業人の未来」では理想とすべき社会の在り方とその実現について述べ、「組織人として顧客を想像できる人」としての「産業人」を定義した。
「企業とは何か」では「企業が中心となる産業社会が成立する」と述べている。その前提として「企業と社会の価値観が共存し、企業が社会のための道具だと位置づける」ことが必要だとしている。
・マネジメント7作
「現代の経営」、「想像する経営者」、「経営者の条件」、「マネジメント」、「乱気流時代の経営」、「イノベーションと起業家精神」、「非営利組織の経営」
「現代の経理」で企業の機能はマーケティングとイノベーションの二つに尽きると断じ、顧客の創造という言葉を初めて使った。マネジメントの本質から経営者のなすべきことまで網羅されたマネジメント論。「マネジメント」ではマネジメントの役割として「自らの事業の使命を果たし」、「働く人を生かし」、「社会に貢献する」こととしている。それをマーケティング、イノベーションや、人材や条件としての利益など個別に落とし込んで論じている。800ページ超の大作であったが、上田氏が抜粋した抄訳、さらに厳選したエッセンシャル版が広く読まれている。
【感想・考察】
ドラッカーの残した言葉や思想の断片は、様々な場所で語られ聞いている。ただ他亜策であるため、何からどのように読むべきかの道しるべとなる本書のような手引きがあるとありがたい。また長くパートナーとしてかかわってきた上田氏のドラッカーへの熱い思いが乗っているため、無味乾燥なガイドとならず興味を引き起こしてくれる。
また、上田氏の翻訳のセンスにも感服した。例えば1000文字の英文を訳すのに日本語で数千文字になってしまうような、まどっろこしい訳をみると読みたくなくなるが、本質を拾い過不足なく絞り込んで、原文よりも短いくらいの文章で十分伝わる。俳句をたしなみ「削る」表現を身につけているということなのだろう。
【入門】お金持ち生活のつくり方―――今すぐこの習慣と思考法を身につけよう!
【作者】
佐々木裕平
【あらすじ・概要】
「お金持ちになる方法」の入門書的な本。提言されているのは以下のような内容。
・給与所得+投資による所得 で「お金に背中を押してもらう」
お金を投資に回すことで「お金がお金を稼ぐ」。楽をすることは悪いことではない。 安定的な給与所得と並列させておくことは優れたリスクヘッジ。定期的な収入がないと信用を得にくい。
・参照点(基準展)を固定する
収入が増えると、行く店や買うものが高価なものになりがちだが、基準とすべき点を固定することで、無制限な支出増を防げる。
・金持ちの家は広い
家の敷地が広いこと以上に物が少なく整理されている。参照点が固定されているため物が増えすぎることがない。また物の定期的な棚卸、サンクコスト(回収できない投資)の廃棄を習慣化しているため、整理されている。
・神棚がある
信仰によって神棚ではないかもしれないが、「願う」習慣を持っている。「神頼み」ではなく、自分の願い、目標を常に明確に言語化し、意識に上らせること自体が効果。
・位置取りに気を配る
奢られることで下になるのを嫌いって自ら奢ったり、軽く扱われるのを嫌いきちんとした服を着たりする。小さなことでも位置が大事ということを認識している。
・90% ×2
90%の完成度を100%に上げるためには、そこまでの労力の倍以上が必要になる。致命的でないことなら90%の完成度にとどめ、別の90%をもう一つ達成することで、トータルの成果は180になる。
・投資においても参照点を固定
投資する場合も基準を明確に持つことが必要。100万円で買った株が150万円に値上がりすると、150万円を参照点としてしまい、140万円で売却すると損したと感じがちだが、あくまで基準は100万円。基準を明確に持ち短期的な変動に踊らされなければ、損をするリスクは減る。
【感想・考察】
初歩的で同類の書籍と内容の重複も多いが、それだけ重要だとも言える。
「お金がお金を増やす」、「基準を上げすぎない」、「目標を明確に持つ」、
「完璧にこだわりすぎない」というあたりは、本質的なことなのだろう。
銀の匙
【作者】
中勘助
【あらすじ・概要】
1910年に発表された前編と、1913年に「つむじまがり」として発表された後篇からなる小説。
伯母が自分に薬を飲ませるのに使った「銀の匙」を見つけ、幼少時代を回想する。
主人公は幼少の頃病弱だった。母も病弱であったことことから、夫に先立たれた伯母に育てられる。小学校に入るまでは外出もあまりせず、伯母に頼りきったせいかつだった。その当時に入手した玩具や祭りの風景を繊細な文章で描写している。
小学校への入学時には、家を離れ同年齢の人と交流することに強い不安を感じ抵抗したが、伯母の仲立ちでできた友達や相性の良い先生たちのおかげで徐々に馴染んでいく。当初は脳が弱いということで、先生からも強い圧力を受けることはなかったが、劣等感をバネに勉強に励み、成績は急上昇する。同時に体も徐々に強くなり、学校の中でもいつしか中心的な位置を占めるようになる。前編の最後は、お慧という少女と徐々に仲良くなり、彼女が両親の都合で転居することによって別れるところで終わっている。
後篇でも日常の生活が描かれる。いわゆる「男らしい強い生き方」を求める兄と、繊細な物事への感受性を大事にする自分との確執があり、結局兄とは距離を置いたままとなる。後篇の後半では成長した主人公が、家を離れた伯母を訪ねる話が語られる。年老いて目も良く見えず不遇な生活をする伯母であったが、主人公との予期せぬ再会に喜びはしゃぐ姿が描かれている。
【感想・考察】
明治時代の子供の生活が克明に描かれている。自分が直接経験した時代では無いが、何故か懐かしさのようなものを感じる。自分の幼少時の経験と遠く繋がっている感覚があるのだろうか。日本の原風景の一端なのかもしれない。
主人子は繊細で、風景や事物の美しさ、音楽などを好み、荒々しい人間関係のぶつかりあいを恐れ避けている。このような感受性を持つものは今も昔も生き辛いのだろうが、自分を無条件に愛し献身的に支えてくれた伯母の存在に支えられている。仏教を信奉する伯母から、弱者や小さなものへの繊細な心遣いを受け継いでいる。一方で他者との交流を恐れすぎることから、小さな感謝などを伝えることもできず、人間関係をうまく維持できない部分などは、自分自身をみているような感じもあり、切ない後味を残す作品だった。
ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方
【作者】
伊藤洋志
【あらすじ・概要】
一つの仕事に全てを捧げてしまうことはリスキー。まずは生活コストを見直した上で、自分の能力を向上させ、仲間と取り組めるような、拡大を目指さない小さな規模の「ナリワイ(生業)」を複数身につけて、収入源を分散することが安全だし、自分の人生を生きることができるとする。
ナリワイ10ヶ条として以下の項目をあげている。
・やると自分の生活が充実する
・お客さんをサービスに依存させない
・自力で考え、生活できる人を増やす
・個人で始められる
・家賃などの固定費に追われないほうがいい
・提供する人、される人が仲良くなれる
・専業じゃないことで、専業より本質的なことができる
・実感が持てる
・頑張って売り上げを増やさない
・自分自身が熱望するものを作る
そもそも、会社という組織で一つの仕事を生涯続けるような働き方が主流になったのはせいぜい100年未満で、それまでは農家の人でも簡単な大工仕事ができたり、工芸品を作ったり、複数の仕事を並立させるのが普通だった。
まず現代社会では生活のための固定コストが高すぎる。コストを下げて、これくらいなら暮らせるという最低ラインを明確にすることで、まず恐怖感が薄まる。
特に都会で家を借りたり買ったりするのは極めてコストパフォーマンスが悪い。空き家率の高い田舎で古い家を自分で補修して住むならば、都会の数十分の一のコストで生活することができる。田舎では仕事がないというけれど、実際は若い労働力は求められていて、大工仕事や家庭教師、ネットワークの支援など、専業では成り立たない規模だが、並立させれば暮らせるようなサイズの仕事はたくさんある。
仕事の選び方にしても一つの仕事に全力をかけ、集中して取り組むことを賞賛する雰囲気があるが、会社に依存するだけでは不安定。グローバルな競争が広がっている現代では、激戦区でも闘える「バトルタイプ」でなければ生き残っていけない。
自分で起業するにしても十分な初期投資を準備して背水の陣で臨むことが必ずしも唯一の正解ではない。例えばカフェを開くにしても、最初からフルタイムで営業すると従業員の採用などで固定費が増えるが、週末だけ営業するようなコンパクトさで始める方がリスクは小さい。
著者が実践しているナリワイの例として、結婚式のアレンジサービスがある、専業の結婚式場では規模を追う以上は効率化は不可欠だし、適正な価格で安定したサービスを供給できることは立派な企業努力だが、どうしても画一的になってしまう。ここに違和感を覚え、規模を追わず専業としないことで、例えば年に1〜2回だけ、気があう相手と協力しながら式を作っている。
このように今の状況に違和感を覚えたり、未来の姿の予言から、ナリワイの種は生まれてくる。これを小さな規模で動かし始めることで徐々に向上していく。小さなスタートであれば見込み違いでも傷は浅い。ゼロから始め徐々に力がついていくこと自体が達成感を生むし、生活への自信に繋がる。一つのナリワイが他のナリワイに繋がっていくことも多い。
【感想・考察】
著者は「そもそも本当にそうなのか?」という見方を徹底している。トヨタ式に何故を5回繰り返し掘り下げるのもいいが、閉じた内容になってしまう。「何故車が売れないのか?」を繰り返し掘り下げていっても、「そもそも車が売れないといけないのか?」という視点にはもっていけない。
そういう「そもそも」の視点から、「単独で生活できる規模の仕事じゃなきゃいけないのか。小規模の仕事を複数組み合わせるのはどうか」という提言に繋がっている。
閉じた論理を突き詰める能力も貴重だが、「そもそも」視点で、前提となる仕組みから変えていく能力も求められているのだと思う。
ナリワイという小規模ニッチな働き方の提言以上に、物事の前提を洗い直す視点に感銘を受けた。
プロカウンセラーの共感の技術
【作者】
杉原保史
【あらすじ・概要】
臨床心理士であり教育学博士でもある著者による「共感」についての本。共感を深めることで人間関係を改善していくための技術を紹介している。
いくつかのポイントをピックアップする。
・まずは自分の視点を外れ、相手の立場に立つことから始まる。
・善悪や真偽の判断をせずに、「相手の考えをそのまま受け入れる」ことが必要。
・「共感され理解されている」と感じるだけでも相手は救われるし、行動の変化につながることもある。
・「寂しいんですか?」と「寂しいのですね」は大きく違う。
前者は「寂しいのだろうな」と思いつつ自信がないので確認しているが、後者は自信がなくても相手の懐に勇気をもって踏み込んだ言葉。
・言葉にされないことに共感する。
重要なことこそ言葉にしにくいものだが、語られることの中に秒な形で現れる。特徴的な言葉の選び方、不自然な力み等から見える影に言葉を与える。
・心の浅い層は明確だが、深い層は曖昧になっている。
「理性」で判断したものは、明確に見えるが、感情や欲求などもともと輪郭が不明確で曖昧。そこに注意を向け言語化することで明確化していく。
・動物の調教の名人は、「罰」はあまり使わず、「ほめる」ことを中心として育てている。
・家族など関係が深く、愛憎の感情が強い間柄はかえって共感することが難しい。
【感想・考察】
力を抜いて相手の話をそのまま聞くのは難しい。どうしても「自分はこう思う」とか「それは間違っている」というような価値判断が入ってきてしまう。
まずは相手の話を価値判断せずに受け止め、相手が言葉にできない部分に思いを馳せ、共感していることを勇気をもって示すことが、よりよい関係構築に必要なのだと思う。