今夜、すべてのバーで
【作者】
中島らも
【あらすじ・概要】
アルコール性の急性肝炎で入院した「小島」の視点で、同室の入院患者、主治医との交流や、泥酔して車にひかれ死んだ友人の天童寺やその妹との関係を綴った物語。普通の社会生活から徐々にドロップアウトしてアルコールに依存していく流れや、肝炎で入院した時の検査や回復状況など、見てきたかの様なリアリティーで描かれている。
小島はどうしようもないクズのアル中だが、友達の妹であった天童寺さやかは彼を蔑みながらも支えようとする。最後にさやかがアルコールにかき回された家族の過去を伝えるのに、モノローグ形式ではなく、ケースワーカーの報告書の体裁をとり淡々と描かれていた。
【感想・考察】
ウィットの効いた会話や、ストーリー展開も面白いが、アルコール依存症のリアルな描写が興味深い。医学的な説明やアルコールやドラッグなども含めた依存症についての説明、依存症に陥りやすい人の性格傾向分析など、ちょっとした雑学トリビア的な内容もふんだんにあり好奇心を満たしてくれる。
そして最後にはケースワーカーの筆を借りた淡々としたさやかの告白が胸を打つ。なかなかの良書だった。