NHK「100分de名著」ブックス 般若心経
いくつか仏教に関する本を読んで更に興味が深まってきました。日本では般若心経はとくに有名ですが、ブッダの時代の原始仏教とは大きく異なる密教系の思想がベースになっているということを初めて理解しました。
体系的に説明されていてわかりやすいです。
【作者】
佐々木閑
【あらすじ・概要】
ブッダが悟りを開いた原始仏教では、全ての苦しみから逃れ涅槃に至るという「自利」を求めて、苦しい修業を行うという自分自身のための哲学だった。それを求める人には道を示すが積極的な不況があったわけではない。
一方、その後に生まれた大乗仏教は、広く人々を救うためより入りやすいようなつくりになっている。「般若心経」は仏教の神髄を示すと考えている人が多いかもしれないが、原始仏教でベースとなっていた五蘊や縁起や四諦も全てが「空」であるとしている。論理的な哲学ではなく、理解できないものに対する神秘的なアプローチだ。
般若心境の構成は;
釈迦の弟子である舎利子に対し、観音様が釈迦の教えの要諦である五蘊等を否定し、「羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶」という呪文を唱えれば一切の苦しみを鎮めるという。それを聞いた釈迦が「そうだ、そうだ」とお墨付きを与える。
というもので、9割が釈迦の教えの否定と般若心経自体の権威付けで、残りが本体となる「呪文」となっている。
般若心経が否定した釈迦の教えのポイントは以下の通り。
・釈迦は「五蘊」の要素が影響しあうのが人間だとしたが、「五蘊皆空」としてこれを否定した。
五蘊とは
色:外界の物質全般、肉体
受:外界の刺激を受ける心の働き
想:考えを構成する心の働き
行:何かを行おうとする心の働き
識:心理作用のベースとなる認識
・釈迦は全ては「諸行無常」であるとしたが、存在要素が流転しているよう見える見方も錯覚だ推して否定した。
・釈迦が人の認識作用を分析した十二処の存在を否定した。
十二処とは
六根: 眼、耳、鼻、舌、体 と それを受ける 意
六境: 六根に対応し、色、声、香、味、触、 法
この考え方は、例えば「石」に固有の形や硬さがあるのではなく、色や手触りが実在していて「石」はそれを心の中でくみ上げたものだとみている。
般若心境では「石」だけでなく「心の作用」も無いとしている。
【感想・考察】
般若心経についての本であるが、著者はブッダの原始仏教を信奉する視点から書いているので、他の解説書とは違う視点で見ることができる。
それにしてもブッダの思想の先進性は凄まじいいと思う。認知心理学でいう「クオリア」に着目し、それこそが人間存在の本体であるという考え方が二千年以上前にされていたというのは驚きだ。
VRゲームのキャラクタが、世界の本質は「刺激に対する反応のアルゴリズムだよ」と見抜き、「なんだか苦しいから、そこから抜け出そう」という言いだしたようなものなのだろう。
一方で般若心経は、VRゲームのキャラクタが「アルゴリズムを作った創作者もVRのキャラで、本当は何にもないよね」というくらいアナーキーな内容だ。
中二感満載だ。
【オススメ度】
★★★★☆