鏡の中の猫
「贈る」ことの大切さを伝える童話的なファンタジーです。優しい気持ちになれる本でした。
【作者】
高山環
【あらすじ・概要】
製鉄所で働く白猫クロンは、新しく入った灰色猫のリンドに恋をする。偶然画材店でリンドに会ったクロンは、自画像をリンドに贈る約束をする。
クロンは自画像を描くために鏡を買うが、鏡の中に”黒猫” が住んでいることに気づく。黒猫は「自画像よりも、自分が見た風景を描く方ことでより自分が浮かび出る」と助言したり、仕事に失敗したクロンを励ましたりする。
クロンはリンドに絵を渡し、徐々に仲良くなっていく。夏祭りには二人で出かけ花火を見て楽しむが、途中に通りかかった鏡屋で黒猫が鏡の中の世界で苦しんでいることを見てしまう。
黒猫に助けられたクロンは、黒猫を助けようとするが鏡にヒビが入り世界のつながりが途切れそうになる。鏡が崩壊する寸前に黒猫は「ずっと取っておいた、お母さまからもらった、食べると幸せになるプラム」をクロンに渡す。やがて鏡は粉々になり、その後黒猫に会うことはなかった。
クロンはリンドに黒猫の話をし、彼女にプラムを贈った。リンドもプラムを食べることはできず、土に植え育て木に成ったプラムを望む人に分け与えた。
【感想・考察】
「自分以外のもののために自分の幸福を少しでも上げることは、ひどく大変だけれど、大切なことなんだ」という話。
原始仏教のように「自分のため」に正しく生きることを突き詰めていくことが「利他」につながるという考え方が一つの真実だと思う。
逆に見ると利他的行動が自己の利益を大きくする戦略になることもあるし、実際には一対多の時間軸をずらした互酬性が、社会維持のベースになっているとも考えられる。
人に与えるとはどういうことなのか、考えさせられる話だった。
【オススメ度】
★★★☆☆