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『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する』 丸山 俊一

欲望の時代に立ち向かう「新実存主義」を提唱するマルクス・ガブリエル氏の言行録です。ポストモダンの思想家に感じるシニカルさを超えて、人間に対する愛と信頼を感じさせます。

 

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タイトル:マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する

作者  :丸山 俊一

オススメ度

 分かりやすさ   ★★☆☆☆

 斬新さ      ★★★☆☆

 アジテーション度 ★★★☆☆

 総合オススメ度  ★★★☆☆

 

 

 

あらすじ・概要

  • 日本を駆け抜けて

マルクス・ガブリエル氏の日本滞在時の断片的な言葉を集めている。

 

人間がインターネットという巨大有機体の要素となっている。技術のために人間が利用されている時代だとも考えられる。ある意味技術的特異点(シンギュラリティ)はすでに起きているともいえる。

ガブリエル氏の故国ドイツでは道徳的行為は主観的な判断で、客観的な視点はきにしない。日本では客観的な対面を気にしているようにみえる。日本は今でもアメリカをモデルとし続けて、ドイツはある時期からアメリカの影響を排除してきた。

「世界は存在していない」というガブリエル氏の新実在論のアプローチは日本人の感受性に近いものがあると考えている。日本では資本主義的な競争が苛烈でダーウィンの進化論のような生存競争が起きている。広告や看板はクレイジー。

 

  • 戦後哲学史

ガブリエル氏による哲学講義。

第二次世界大戦の反省から「自分の人生に意味を与えるのは自分自身だけ」という「実存主義」の運動が広がった。その後、自分の人生に外部の構造が影響を与えていると考える「構造主義」が主流になるが、社会再構築の困難さにぶつかり「ポスト構造主義」に移っていく。ポスト構造主義ではデリダが、言語の構造は未来が現在に、現在が過去に影響を与えることを示し、「現在」を掴むことはできないと考えた。

「新実在論」では時の流れとは無関係に「確かに存在する」ことを想定する。現実は観察対象となるモノと、観察する人間が持っているイメージから構成されていると考える。

 

第二次世界大戦後には、アメリカとその同盟国は物質主義的な概念を持ち、科学的・技術的な進歩のプロセスが人類を救済すると考えた。

一方、それを中心とした共産圏では弁証法的唯物論に立ち、社会の進歩は科学的・技術的進歩だけではなく、人間がどこまでより深く理解できるかにかかっていると考えた。

冷戦は富の分配という現実の問題だけでなく、「物質主義」と「唯物論」の観念のレベルでの戦いでもあった。

1980年代以降、ポストモダンの動きからネオリベラリズムが台頭し始める。社会領域がイメージ投影を中心として組織されるという初期マルクス主義と精神分析学を受け入れ、広告産業に利用した。ドナルド・トランプはポストモダンの理論を政治に組み込んだ。

「真実在主義」はポストモダンの道徳的相対主義に異を唱え、絶対的な道徳的事実があると考える。

 

  • ロボット工学石黒氏との対談

ロボット工学を最前線にいる石黒浩教授とガブリエル氏との対談。

日本で広く認められているヒューマノイド(人型ロボット)のコンセプトが、ドイツでは受け入れられないことについて、ガブリエルはドイツ観念論のベースに「人間の尊厳は不可侵である」という考えがあるからだという。

日本とドイツはどちらも技術的な先進性を持っているが、その思想には違いがある。日本人は基本的な理論に対して懐疑的であるのに対しドイツ人は強固な構造的思想を共有しているように見える。

また、石黒氏が「技術を使うようになった動物が人間だ」と考え、いつか機械が肉体を代替する可能性があると考えている。これに対しガブリエル氏は「人間は一生懸命に動物にならないようにしている動物だ」と定義し、人間が技術と同化するような状況になることは絶対にないし、それを試すべきでないと考える。

石黒氏が「倫理は時代を経るごとに進歩している」と考えるのに対し、ガブリエル氏は「倫理は発見されてきた」のだと考え、普遍的で変わることのない倫理があると考える。

 

感想・考察

 

西洋の哲学史をみると、古代ギリシアの時代から「相対主義」と「絶対的真理」との間を揺れ動いているように思える。

絶対的真理の追求が第二次世界大戦を盛ら多したことの反動から相対主義が優位となり、結果「何でもあり」の資本主義の暴走に繋がった。資本主義による「欲望の暴走」に反旗を翻すのが普遍的で絶対的な倫理を肯定するガブリエル氏の思想だ。

誰もが情報発信できる現代では、少数の思想家が世界の流れを変えるほどの影響力を持つことは、20世紀以前よりも難しくなっているのだと思うが、潮目を変えるきっかけを作ることができれば、変化はむしろ早いのかもしれない。

ガブリエル氏の今後の活動が気になるところだ。

 

 

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