夜、眠る前に読むと心が「ほっ」とする50の物語
【作者】
西沢泰生
【あらすじ・概要】
読書好きの「イイ話コレクター」西沢氏による50の心温まる短い物語。
心に残ったいくつかの話をピックアップする。
・第2夜 お父さんの「勇気あるノー」
娘は父親とのデートの計画を立て楽しみにしていたが、その日父親は古い仕事仲間に会い食事に誘われてしまう。ところが父は「娘との大事なデートがある」といってきっぱりと断る。「7つの習慣」を書いたスティーブン・コヴィーのエピソードだが「まず大事なものを置き、それからそのほかのものを置いていく」という考え方を身を以て実践しているのが本当に格好いい。
大事なものを大事にすること。そのためには勇気を持って「ノー」をいうべき時があること。
・第3夜 カッコいいおごり方
若手の芸人が仲間と飲んでいると店に偶然ビートたけしが来た。挨拶をしたぐらいで会話もほとんどなかったが、若手芸人が店を出ようとすると、先に帰ったたけしさんが支払いを済ませていた。たけしさんにお礼を言うと「売れたら使ってね」と返す。
「将来誰が売れ力を持つか分からないから誰にでも媚を売っておく」という打算っぽいポーズは「偉ぶるのは格好悪い」という美意識によるものなのだろう。「後輩が同じ店にいたら先に出ておごる」という方法は自分が渡哲也さんいしてもらったから。恩を次の世代に送っていくのも美しい。
・第16夜 オリンピックの舞台裏
長野オリンピックの時期、現地のタクシー業者はほとんどがオリンピック関連企業の「貸切状態」だった。そんな中「中央タクシー株式会社」だけは貸切を受け付けなかった。貸切であれば期間中の売り上げは大きくなるが、全てのタクシーが貸切になると地元の人が病院に行く時など困ってしまう。
自分を支えてくれる人は誰なのか、自分は誰に貢献すべきなのか、をきちんと考えることが必要だ。
中央タクシー株式会社はオリンピック期間中の売り上げは他社の三分の一以下と惨憺たるものだったが、オリンピック後も売り上げを落とすことなく、さらに他社からシェアを取り長期安定的に売り上げを増やし続けた。
・第49夜 「家族になる」ということ
ある男性は子供の頃からなめこが好きだったが「なめこ」とうまく発音できなかったので、なぜか「きんとこさん」と呼んでいた。彼が結婚し奥さんにその話をすると大ウケし、以来その家庭でもなめこのことを「きんとこさん」と呼ぶようになる。
ある日、奥さんが「今日はきんとこさんのお味噌汁よ」と言うのを聞いた時「赤の他人が家族になるというのは、こういうことなのか」と思う。
かつてなめこのことを「きんとこさん」と呼ぶ家庭は一つだけだったが、今は二つになった。そうやって他人が他人で無くなっていく。
【感想・考察】
上記意外にも、元気が出る話、笑える話、感心する話がたくさんある。それぞれは短くさっと読めるが、なかなか考えさせられる話も多い。
作者自身の話より作者が読んだり聞いたりした話が中心だが、どのような話を良いと感じ、どのような意味を見出すのか、に個性が滲み出るものなのだなと思う。