去年の冬、きみと別れ
【作者】
中村文則
【あらすじ・概要】
2人の女性を殺害したとされ投獄されている写真家「木原坂雄大」。彼に取材しノンフィクションを書こうとしているライターの手記や、木原坂の手紙を並べた構成になっている。
父親の虐待から逃れた木原坂雄大と姉の朱里は児童養護施設で育つ。雄大は「自分自身の欲を持たない空っぽの存在」で他人の思いを無制限に受け止めてしまう。空っぽゆえに相手の抜き取るような視線を持つ彼は写真家として才能を現す。
スランプに陥った雄大は「モデルの死により作品に命が宿る」話に興味を持つ。最初に彼のモデルとなった盲目の女性が焼死したときは事故として処理されたが、二人目の女性が焼死した事件は明確に殺人だったため、両件を殺人として起訴され死刑がほぼ確定する。
ライターは雄大や姉の朱里、雄大の知人や交流のあった人形師等に話を聞き、事件の真相に近づいていく。
【感想・考察】
「地獄変」に象徴されるような芸術家の狂気、人間の執着の恐ろしさが全編に染みとおり「怖さ」を感じさせる作品だった。また本という作品自体を仕掛けに組み込んでいるのは叙述トリックとして新鮮だった。
ただ途中での視点切り替えが頻繁だったり、事件真相の説明が長かったりと、乾くるみのように「最後の数行でひっくり返る」ような鮮やかさはない。
本作は映画化されるらしいが、映像化は難しそうだ。どうするのだろう?