風鈴
【作者】
松浦理英子
【あらすじ・概要】
まだ小学生だった「アオイ」と「ワタル」は、田舎の町で暮らしていた。俳優の父親を持つ「ミヤビ」が父親の撮影に付き合って、夏休みの時期に二人の住む街へ訪れる。ミヤビは二人にボルダリングを教えつかの間の田舎の生活を楽しむ。
当初は三人で遊んでいたが、アオイかワタルのどちらか一方だけを誘って出かけることも多く、アオイとワタルの間に微妙なわだかまりが生じてしまう。そんなぎこちなさを嫌い、アオイは一人で木製の風鈴づくりをする。いつしかワタルもミヤビも合流し、三人はそれぞれの風鈴を仕上げる。ミヤビの作った風鈴は崖の壁面のような鐘の部分に6人の人間を模した木片が当たりカラカラと音を立てる。ミヤビは「この6人は私たち三人とその子供だよ」という。
アオイが都会に帰ってから、別の撮影部隊が訪れた。その中の一人の男性にアオイは嫌悪感を覚えるが、ワタルは親しく交流を深めていく。ある日ワタルが行方不明となり、その撮影班の男に殺害されたワタルをアオイが発見してしまう。
【感想・考察】
子供の頃の出来事を追想するような淡々とした筆致。おそらくジェンダーの問題を提起したいのだろう。まだ自己認識が固まらない男の子と女の子が、少し年上のお姉さんに翻弄される姿や、同性愛傾向のある大人に殺害された少年など、ジェンダーに揺らぎを感じる読者に響く話なのかもしれない。