死体格差 解剖台の上の「声なき声」より
遺体を解剖し死因などを調べる法医解剖医が書いた本です。私の日常とは大きく違う視点から
【作者】
西尾元
【あらすじ・概要】
病院で亡くなったのではない「異状死」と日々向き合う著者。
日本での生活保護受給者は1.7%程度だが、著者が手がけた「異状死」の症例では、身元が分かった人の20%以上が生活保護受給者だった。
経済的に困窮していると、独居での孤独死、事故や自殺、犯罪の被害者となる等、「異状死」を迎える可能性が高い。
「死」に関しても格差が生じている。
また、ミステリのネタになりそうな検死のポイントの話も興味深い。
・低温だとヘモグロビンと酸素の結合度合いが高まり、動脈の血液が鮮やかな赤になる。静脈と動脈の色合いの違いが大きい時は「凍死」の可能性がある。
・青酸系の毒が自殺などに使われる可能性は低いので、決め打ちして調べないと判明しない。
・死斑は体の下になっている方に現れる。裏表両面に死斑が出ていると5時間前後で誰かが死体をひっくり返した可能性が高い。
・火災で死んだ人の気管には「スス」が付着しているが、死んでから火災が起こった場合は「スス」の付着はないので、殺害後の放火でも順序は分かる。
・日本の夏では虫などによる損壊で遺体は1ヶ月程度で白骨化する。冬はミイラ化する可能性もある。水中や地中深くでは「屍蝋」として脂肪組織が蝋になるケースもある。
・外傷である「アザ」は腎毒性を持つミオグロビンが筋肉から流出させる。広範囲のアザは腎不全を起こすこともある。
・殺人事件で55%は三親等以内の親族が加害者。親族による殺害手段は頚部圧迫が多く、刺殺や鈍器による殺害は相対的に少ない。
【感想・考察】
検死の仕事は大変そうだが、意義深い仕事だと思う。
・家族の死因が分からず気持ちの整理がつかない親族の助けになったり、
・見逃されそうになった犯罪を見つける手がかりとなったり、
・感染症や病気について臨床に反映できるような発見があったり
死んでしまった人だけでなく、生きている人々にも貢献している。
普段知ることのない世界を垣間見ることができるのは、読書の面白さだ。
【オススメ度】
★★☆☆☆