ドーナツと彼女の欠片
大切な人を思い出す、日々を大切にしたくなるような素敵なお話でした。
【作者】
奥田徹
【あらすじ・概要】
3つの短編小説集。
・十四歳じゃない(十三歳の少年と、十五歳の少女の物語)
自堕落な父親と暮らす十三歳の少年は自由を求めて家出を計画する。
ところが少年が家出を決行する直前に父親が家に帰らなくなる。
家から出ることではなく「父親から離れる」ことが目的だった少年は家出をする理由がなくなってしまう。
十四歳の少女は公園で空き缶を「最高の踏み方」で潰す。
少女は母親の再婚相手である義父を憎んでいた。実の父に義父への不満を言うごとに「殺してしまいたい」気持ちが募る。いつしか包丁を持ち歩き殺す機会を伺うようになる。
少女が空き缶を踏み潰していた公園で二人は出会い、少年と少女の人生が重なっていく。
・彼女の噂
十年以上あっていない高校時代の同級生が死んだ。
高校卒業前の冬のある日、「僕」は彼女が実の父親から暴力を受けている現場に出くわし、彼女の話を聞く。彼女は真剣な顔で、傘の上で空き缶を回す。
・ドーナツと彼女の欠片
突然現れたズングリ体型の男は「しばらく何もしないでくれ」と「僕」に言う。前日から妻が家に戻らないが、彼女は無事で必ず戻るという。僕は妻からの連絡を待つことにする。
調査会社で働く僕は、ドーナツの大口顧客である大場が急に買わなくなった理由の調査を依頼されていた。
彼はドーナツを独り占めした後、妻のいないこの世界にたどり着き、ドーナツを釣り竿に吊るし、元の世界への入り口を探していた。
若者に暴行を受けていた大場を助けた後、僕は世界の「ズレ」に気付き始める。
【感想・考察】
最初の二編は思春期の少年少女を描く作品だ。
あの時期の自意識過剰な過敏さとか、自分で自分の世界をコントロールできないことへの苛立ちが、生々しく描かれている。空き缶を踏み潰したくなるような、あの頃の刺々しい気持ちを思い出した。
最期の話はとても切ない。
「妻がいた世界」と「娘がいた世界」がほんの一瞬だけ交差する。
昨日と繋がる今日があるのは確かなこととは言えない。誰かといる時かnは「一期一会」と大切にしていきたい。
【オススメ度】
★★★★☆