『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する』 丸山 俊一
欲望の時代に立ち向かう「新実存主義」を提唱するマルクス・ガブリエル氏の言行録です。ポストモダンの思想家に感じるシニカルさを超えて、人間に対する愛と信頼を感じさせます。
タイトル:マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する
作者 :丸山 俊一
オススメ度
分かりやすさ ★★☆☆☆
斬新さ ★★★☆☆
アジテーション度 ★★★☆☆
総合オススメ度 ★★★☆☆
あらすじ・概要
- 日本を駆け抜けて
マルクス・ガブリエル氏の日本滞在時の断片的な言葉を集めている。
人間がインターネットという巨大有機体の要素となっている。技術のために人間が利用されている時代だとも考えられる。ある意味技術的特異点(シンギュラリティ)はすでに起きているともいえる。
ガブリエル氏の故国ドイツでは道徳的行為は主観的な判断で、客観的な視点はきにしない。日本では客観的な対面を気にしているようにみえる。日本は今でもアメリカをモデルとし続けて、ドイツはある時期からアメリカの影響を排除してきた。
「世界は存在していない」というガブリエル氏の新実在論のアプローチは日本人の感受性に近いものがあると考えている。日本では資本主義的な競争が苛烈でダーウィンの進化論のような生存競争が起きている。広告や看板はクレイジー。
- 戦後哲学史
ガブリエル氏による哲学講義。
第二次世界大戦の反省から「自分の人生に意味を与えるのは自分自身だけ」という「実存主義」の運動が広がった。その後、自分の人生に外部の構造が影響を与えていると考える「構造主義」が主流になるが、社会再構築の困難さにぶつかり「ポスト構造主義」に移っていく。ポスト構造主義ではデリダが、言語の構造は未来が現在に、現在が過去に影響を与えることを示し、「現在」を掴むことはできないと考えた。
「新実在論」では時の流れとは無関係に「確かに存在する」ことを想定する。現実は観察対象となるモノと、観察する人間が持っているイメージから構成されていると考える。
第二次世界大戦後には、アメリカとその同盟国は物質主義的な概念を持ち、科学的・技術的な進歩のプロセスが人類を救済すると考えた。
一方、それを中心とした共産圏では弁証法的唯物論に立ち、社会の進歩は科学的・技術的進歩だけではなく、人間がどこまでより深く理解できるかにかかっていると考えた。
冷戦は富の分配という現実の問題だけでなく、「物質主義」と「唯物論」の観念のレベルでの戦いでもあった。
1980年代以降、ポストモダンの動きからネオリベラリズムが台頭し始める。社会領域がイメージ投影を中心として組織されるという初期マルクス主義と精神分析学を受け入れ、広告産業に利用した。ドナルド・トランプはポストモダンの理論を政治に組み込んだ。
「真実在主義」はポストモダンの道徳的相対主義に異を唱え、絶対的な道徳的事実があると考える。
- ロボット工学石黒氏との対談
ロボット工学を最前線にいる石黒浩教授とガブリエル氏との対談。
日本で広く認められているヒューマノイド(人型ロボット)のコンセプトが、ドイツでは受け入れられないことについて、ガブリエルはドイツ観念論のベースに「人間の尊厳は不可侵である」という考えがあるからだという。
日本とドイツはどちらも技術的な先進性を持っているが、その思想には違いがある。日本人は基本的な理論に対して懐疑的であるのに対しドイツ人は強固な構造的思想を共有しているように見える。
また、石黒氏が「技術を使うようになった動物が人間だ」と考え、いつか機械が肉体を代替する可能性があると考えている。これに対しガブリエル氏は「人間は一生懸命に動物にならないようにしている動物だ」と定義し、人間が技術と同化するような状況になることは絶対にないし、それを試すべきでないと考える。
石黒氏が「倫理は時代を経るごとに進歩している」と考えるのに対し、ガブリエル氏は「倫理は発見されてきた」のだと考え、普遍的で変わることのない倫理があると考える。
感想・考察
西洋の哲学史をみると、古代ギリシアの時代から「相対主義」と「絶対的真理」との間を揺れ動いているように思える。
絶対的真理の追求が第二次世界大戦を盛ら多したことの反動から相対主義が優位となり、結果「何でもあり」の資本主義の暴走に繋がった。資本主義による「欲望の暴走」に反旗を翻すのが普遍的で絶対的な倫理を肯定するガブリエル氏の思想だ。
誰もが情報発信できる現代では、少数の思想家が世界の流れを変えるほどの影響力を持つことは、20世紀以前よりも難しくなっているのだと思うが、潮目を変えるきっかけを作ることができれば、変化はむしろ早いのかもしれない。
ガブリエル氏の今後の活動が気になるところだ。
『おらおらでひとりいぐも』 若竹千佐子
グルーヴィーな東北弁で語る、パンクでファンキーなお婆ちゃんのモノローグ。
老いることの悲哀から逃れ、孤独ゆえの自由と解放を高らかに謳う。
タイトル : おらおらでひとりいぐも
作者 : 若竹千佐子
オススメ度
老いの悲哀度 ★★☆☆☆
東北弁のグルーブ感 ★★★★☆
読みやすさ ★★☆☆☆
総合オススメ度 ★★☆☆☆
あらすじ・概要
74歳になる桃子は夫に先立たれ、子供たちとは疎遠になり、一人孤独に暮らしている。
自分の中の別の自分たちと語らいながら、捨ててきた故郷の風景、夫に尽くした半生、夫に先立たれてから一人で生きた日々を思い出す。
孤独を自覚しながらも、従順に世界に迎合して生きた日々から解放された喜びを感じる。「おらおらでひとりいぐも」と世界と伍していくことを宣言する。
それでも死を身近に意識したときには、孫に繋がっていく命を感じ魂を救われる。
感想・考察
とりとめのない桃子のモノローグが区切れなくダラダラ続くので相当読みにくい。が、東北弁のリズム感と畳みかけるようなイメージの重なりが、徐々に不思議な浮遊感を醸し出してくる。やけに音楽的な文章だ。
一人の人間が常に論理的に整合した生き方をするわけではないし、矛盾したいくつもの思念がある。本書では「孤独を恐れるわたし」「自由を謳歌するおら」「夫に尽くしたわたし」「夫を愛したおら」、と桃子の多様な側面が多層的に描かれている。ストーリーを理解しようとして読むと混乱してしまうので、感情の流れに寄り添うような読み方が必要なのだろう。
『あなたを変える52の心理ルール』 メンタリスト DaiGo
「実践する3%の人」が成果を出す!
タイトル : あなたを変える52の心理ルール
作者 : メンタリスト DaiGo
オススメ度
役立ち度 ★★★☆☆
読みやすさ ★★★★★
Daigoさんらしさ ★★★★★
総合オススメ度 ★★★☆☆
あらすじ・概要
「〇〇すれば、△△になる」という形で、実践しやすい行動指針を52個挙げている。
- 謝罪は午前中
午前中は理性の時間、午後は感性の時間、悪い報告は午前中にした方が相手を感情的にしない。
- 良い話を先に
人は「初頭効果」で先に触れた情報を重視する習性がある。「スリーポイント・プロフィール」などを掴みに用意しておくのも有効。強み3+弱み1など。
- ユニークな肩書で覚えてもらう
肩書でインパクトを与えるのも有効。
- 簡単な質問をしてから頼み事をする
「ドアインザフェイス」で、最初にお願いを断らせてから簡単なお願いをすること絵承諾率が3倍になる。
「イエスセット」で「イエス」と答えられる質問を繰り返した後に、本命のお願いをする。
依頼の前に質問を投げ、答えさせるだけでも承諾率は2倍になる。
- 飲み会を中座して好感度を上げる
飲み会の前に「ドクターストップ」の情報を流すなど事前に手を打っておく。また忙しいことが周知されれば、途中退出はマイナスにならず「無理に時間を作ってくれた」という好感度に繋がる。
- 一対一にこだわり評価を上げる
大勢の飲み会より付き合いを深めたい相手との一対一の付き合いを大事にする。
- ラベリングで相手を変える
見方によってイメージは変わる。自分の理想となるラベリングを相手にすることで、相手を変化させていくことができる。
- すべて「イエス」で答え、口論に勝つ
「イエスバット法」で、一度相手の主張を全面的に受け入れた後にこちらの主張を出す。対立構造を避けて自分の意志を伝える方法。
- カジュアルなミーティングが良い結果につながる
敢えてプライベートな話題を出すなど親しさを演出すると「認知的不協和」を嫌うのうは、本当に親しい相手だと認識する。自己開示は有効、またホームとアウェイを使い分ける。
- 陰口を言われたら勝ち
陰口を言われるのは相手に意識されているから。陰口の内容は相手のコンプレックスの裏返し。
- 仮面を使い分け人間関係を修復する
一旦壊れた人間関係も「ペルソナ」を使い、自分の違う側面を見せることで修復することもできる。
- 出典を覚えると説得力が増す
情報の出典を示すと「権威効果」で説得力が増す。
- 身長を高く見せるとプレゼンテーションが通りやすい
身長の高い人の方が説得力が増す。また人には地位の高い人の身長を高く見積もる傾向がある。
- ナッツで集中力を回復
GI値が高く血糖値を急激に上げる食品は反動で集中できなくなる。脳に供給される糖分を一定にするためナッツなど低GIの食品が好ましい。
午前中の運動、2分以内にできることはすぐやる、といった習慣も集中力を維持するのに有益。
- 漫画のワンシーンを説明し、トーク力を磨く
漫画のワンシーンの説明で自分のトークの弱点が見える。細かい部分が抜けやすいとか、感情に関する説明が弱いなど。
また自分のトークよりも、トークが上手い人のビデオを見る方が勉強になる。
- 一度断らせて、イエスを引き出す
一度断らせるとその後の依頼の承諾率は3倍になる。その効果は将来にも続く。それでもうまくいかないときは他の人の紹介を頼むのも有効。
- 猫の写真で生産性がアップ
可愛いもの、守るべきものを見ると集中力が高まる。
静かな場所より適度な騒音がある方が集中力は高まる。
- メモを持ち歩いてアイデアを出す
アイデアは出ているがすぐに忘れている。常にメモを携帯し、いつかくのか決めることでアイデアを集めることができる。
- プライベートのつぶやきを止めてフォロワーを増やす
自分のプライベートに興味ある人はそういない。フォローしてもらいたい人を想定して書くべき。
- 夜と朝の二回復習で覚えられる
覚えたいことは夜寝る前に見た後、朝起きてもう一度見ると定着する。
- ノートを一冊にすると記憶しやすい
ノートは分けずに一冊にまとめる。記録するためでなく記憶するためにあるので復習しやすいことが大事。ノートはある程度の大きさがある方が良い。著者はA4を使っている。薄いモノの方が、過去のものと並べてみることができるので良い。
- タイトルに相手の名前を入れると開封率が上がる
タイトルに名前があると無視しにくい。改行の使い方などで視覚的イメージも考える。追伸は記憶に残りやすい。
- 場所を変えれば誰でも一番になれる
強みは他者との比較で生まれる。ブルーオーシャンを探すべき。
自分の核となる強みは維持したまま、それを活かす業界は広く考える。
- 小さなお願いを先にして、大きなお願いを通す
人は一度スタンスを決めると一貫性を保とうとする。簡単な依頼を承諾した後はその後の大きな依頼も承諾されやすい。
- 二枚の紙とペンで会社嫌いを克服する
二枚の紙に、会社の空気と自分の性格を書き出し見比べる。対立している点を見つけそこを是正する。
空気は「読んで合わせる」ものでなく「読んで動かす」もの。
- 一芸を身に付けるとすべての評価が上がる
ひとつの長所があると全体の評価が引きずられて上がる「ハロー効果」がある。全体ではゼネラリストの方が優秀でも、スペシャリストの方が評価が高くなる傾向がある。
- 部屋が片付くと、食生活が整う
汚い部屋にいると能率も落ちる。自己コントロール感が失われる。
- 夜逃げのことを考えると整理整頓がはかどる
整理整頓をしないで済むようものを減らすのがベスト。物を買ったり処分したりするルールを決めると部屋はきれいになる。
- 30分間の運動で憂鬱な気持ちが晴れる
乳製品などに含まれるトリプトファンがセロトニンの原料となり、うつを防ぐ。トリプトファンをセロトニンに変えるには適度な日光浴と運動が必要。午前中の30分程度の運動が特に有効。
- オルゴールで疲れがとれる
オルゴールに含まれる3万ヘルツ以上の高周波音が脳のアルファ波を活性化させる。自然には溢れている高周波音が都会にはない。
- 5分の瞑想で苛立ちが解消される
5分間の瞑想でもイライラを抑えられる。
ラクな姿勢で身体を動かさず、呼吸に全神経を集注させる。
日々の行動を記録するライフログからもイライラの原因が見える。
- ニュースを見なければポジティブになれる
ネガティブなニュースは無意識に悪い影響を与える。意識は無意識を支配できない。
- 願い事を紙に書いて持ち歩くと願いが叶う
無意識の力を買率と有利。自分が意識しているモノにはアンテナが立つ「カラーバス効果」を有効に使う。
- 本を選ばなければ面白い本に出会える
気になった本はレビューを気にせず買う。レビューが正しいとは限らない。
また、前書き・目次・あとがき・真ん中を見て判断する。特に真ん中はダレやすいので本の質が分かりやすい。
- 睡眠時間を記録すると早起きができる
自分には何時間の睡眠が必要なのかを把握する。7〜8%のショートスリーパー、同じ比率でロングスリーパーがいるがそれ以外の80%超はヴァリアブルスリーパーである程度睡眠時間を変えられる。
睡眠記録を取り、一番快適な睡眠の長さや眠りにつく時間を見つけるのが良い。
- 目標を公言すると達成しやすくなる
情熱は内に秘めたままでは枯れてしまう。人間の行動は感情にフィードバックされる。
- 鏡の前で笑顔を20秒間作ると幸せになれる
将来なりたい自分であれば取る行動を今する。鏡の前で20秒間笑顔を作るだけで「認知的不協和」を嫌う脳は自分が幸せだと認識し、それに見合った行動を取る。
- 乗客を観察すれば座れるようになる
誰がどこの駅で降りるか観察するのはプロファイリングの練習になる。これを日常全般で行うと洞察力を高める。
- 一日にすることを3つに絞ればスッキリする
「一日にできることは3つしかない」と決めてしまう。その3つができれば成功と考えると頭がすっきりする。
- 複数の仕事を持てば不安が消える
ひとつの会社に全人生をかけると不安になる。人生にもポートフォリオを組むと安心感が生まれる。
- プライドをくすぐれば男の怒りは収まる
男の怒りは「プライドが傷つけられた時」に生まれる。慰めるのは逆効果。
- 過去から謝れば女性の怒りは収まる
女性の怒りは共感の不足から生まれる。またマルチタスクである女性脳は過去のことも同時に考えられる。過去にさかのぼって謝るのが良い。
- 選択肢を提示すれば満足度が上がる
選択肢が多いと選べない。 相手に適度な選択肢を示して相手に決断させると満足度が高まる。
- プレゼントは品物よりも渡し方
プレゼントは何を上げたかよりも、どれだけの 手間をかけたかが重要。
- 恋人の写真を捨てないほうが失恋から立ち直れる
別れた恋人の写真を捨てて忘れようとすると、思い出を美化してしまいかえって忘れられない。良いことも悪いことも無理に忘れようとしない方が結果的にきれいに忘れられる。
- 物理的な距離を近づけると心の距離も近づく
パーソナルスペースを意識する。苦手な人とは距離を開け、親しくなりたい人には敢えてパーソナルスペースに入ってみる。
- 一緒にスポーツをすると恋仲になれる
「吊り橋効果」でドキドキすると、一緒にいる相手にときめいていると勘違いする。一緒にスポーツをするのも同じ効果がある。
- 「私は悲しい」というと浮気を防げる
禁止されるとかえってやりたくなる。男性の場合「私は悲しい」と 言われると浮気をしにくい。
- 一言添えると好意が伝わる
褒めることは好意を伝えること。相手を気遣う気持ちを表現する。
- 見え見えのお世辞も言いきれば相手は喜ぶ
「肯定的な言葉と否定的な言葉を混ぜた」場合より「肯定的な言葉だけ」の方が喜ばれる。お世辞と分かっていても褒め切った方が相手に好意が伝わる。
- キャラクターを変えてストーカを撃退
告白されて断る場合「理由は自分にある」とした方が相手が傷つかない。また相手が「改善すれば受入れらる」と思うこともない。
相手がストーカー化してしまった場合、相手が求めるキャラクタから変わると離れていく可能性が高い。
- お勧めの店を聞いてデートの誘いを成功させる
デートに誘う場合、相手のお勧めを聞いてからその店に誘うと成功率が高い。「良い店なのに行きたくない=それほどあなたと一緒はイヤ」とは言いにくい。
感想・考察
Daigoさんらしい畳みかけるような知識の投げかけ。自分に合うモノをいくつかピックアップして実行してみよう。
『月光ゲーム Yの悲劇’88』 有栖川有栖
火山の噴火で閉じ込められた大学生たちによる「クローズドサークル ミステリ」です。
澄み切った夏の月夜の下、青春の日々を思い出させる導入から、一転して「火山噴火+連続殺人」というパニック展開をぶち込んでくる唐突感が素敵です。
タイトル : 月光ゲーム 江神シリーズ
作者 : 有栖川有栖
オススメ度
本格推理度 ★★★★☆
読みやすさ ★★☆☆☆
青春度 ★★★☆☆
総合オススメ度 ★★★☆☆
あらすじ・概要
大学のミステリ研究会に所属する有栖川有栖は、江神たちと共に矢吹山までキャンプに訪れた。そこで出会った他大学の学生たちと意気投合し、キャンプファイヤーやマーダーゲームなどで一緒に遊んでいた。
ところがキャンプ3日目になり火山が噴火し下山道がふさがれてしまう。噴火直前に一人下山した学生の安否が気づかわれる中、キャンプ場に閉じ込められた学生たちが一人、また一人と殺されていく。
感想・考察
本格推理ものとしてよく練られていて論理展開が分かりやすい。「読者への挑戦」 が挟まれているので、きちんと考えてみる気になる。有栖川氏の初の長編とのことだが論理パズルとしての完成度は高いと思う。
一方、やたら登場人物が多いのと、やたら迂遠な言い回しがあることで、正直かなり読みにくい。犯行動機も「えっ、それで。。」というコナン感だった。
初稿は1978年と40年以上前なので、フィルム式カメラとかマッチとかのアイテムが時代がかっているのは仕方ないが、これらが浮いて見えてしまうのは自然な伏線配置という面からは残念。
もう少しこなれてくることを期待して、シリーズ続編を読んでみよう。
『ハッタリの流儀 ソーシャル時代の新貨幣である「影響力」と「信用」を集める方法』 堀江貴文
「ハッタリをかませ!」そして「そのハッタリに追いつけ!」
堀江氏著作の集大成的な感じですが、今までにない重みを感じます。ハッタリをかましながら生きる堀江氏の本音が漏れちゃってます。
タイトル : ハッタリの流儀
作者 : 堀江貴文
オススメ度
分かりやすさ ★★★★★
実用性 ★★★☆☆
ホリエモン度 ★★☆☆☆
総合オススメ度 ★★★☆☆
あらすじ・概要
挑戦とハッタリの効用、共感を呼ぶ方法を堀江氏自身の経験を交え解説する。
- 労働は要らない
AIやロボット技術の発達で面倒な仕事は機械が肩代わりしてくれるようになってくる。またネットやシェアの技術で、その気になれば生活コストを下げることも可能になっている。
「食うために働かなくてはならない」という考え方はなくなっていく。
- ハッタリで共感を得る
損得勘定を超えた「好き!」という思いで遊び尽くす。「役に立つ」より「面白い」が価値を持つようになる。仕事も学びも遊びも同列に考えられる。
荒唐無稽なレベルのハッタリをかまし、その挑戦の過程を公開することで共感を得て、影響力を持つこともできる。
現代はカネ余りの状況にある。「応援したい」と思われることができれば金は集まってくる。
- 捨てるべきもの
「こうあるべき」という世間一般の常識を捨てる。
「親の教え」は時代に合わない。
「プライド」を捨てる。恥をかくことが最大のプロモーション。
- ハッタリの後始末
実力が追い付かないハッタリをかました後は、必死で辻褄を合わせる。
やりながら学んでいく。体系的に学ぶ必要はなく、成果に集中する。
また既存のものを徹底的にパクりまくる。
好きなモノであればオリジナリティーを出していくこともできる。
- ハッタリをかますために
ハッタリをかます人は「根拠のない自信」を持っている。まずは自分に対し「やったことないけど、自分ならできるはず」というハッタリをかましている。
ノリの良さも大切。新しいこと始めるのは面倒くさいが、小さな成功体験の前には必ず小さなチャレンジがある。
ハッタリを悪いモノと考える必要はない。言い換えれば「覚悟を示す」ということ。
- ハッタリのからくり
人生は掛け算で飛躍する。だが掛け算の土台となるのは足し算という下積み。一つのことに集中して成功をおさめた後は、それをベースに掛け算が可能になる。
「努力」を楽しむことが大切。最初は辛くても、ある程度できるようになると楽しくなってくる。がむしゃらに徹底的にやり切って自分のレベルを上げることから始める。「努力」の型を身に付ければ横展開することもできる。
「大人」になる必要はない。周囲の声に振り回されない。
感想・考察
無茶苦茶なレベルのハッタリをかまし、それを実現させるため死ぬ気で努力する。
そのハッタリを実現できれば「信用」を積み上げることができるし、実現できないにしてもその過程を後悔することで共感を得て影響力を持つことができる。
堀江氏が著作で「努力」というからくりを明かすことはあまりなかったが、本書では種明かしをしてきた。
「すし屋で10年も修行をするのはバカだ」というような発言を捉えると、視野の狭い軽薄な人間だと思えるが、その背景に「どうせ努力するなら前のめりで!」という思いがあるのを知れば、深く共感できる。堀江氏の生き方を重ね合わせれば、まさに「言動一致」である。
『誘拐遊戯』 知念実希人
「僕を見つけて。ずっと待ってるよ」
全てが奪われようとしている元刑事と「ゲームマスター」の闘い。
戦慄のラストに鳥肌が立ちました。
タイトル : 誘拐遊戯
作者 : 知念実希人
オススメ度
ハラハラ度 ★★★☆☆
どんでん返し ★★★★☆
プロットの緻密さ ★★★☆☆
総合オススメ度 ★★★★☆
あらすじ・概要
上原真悟は「ゲームマスター」と名乗る誘拐犯に振り回され、最後には人質を殺されてしまった。その後、ゲームマスターと目された容疑者が自殺して事件は終息したが、上原は刑事を辞め、離婚して妻娘とも別れて失意のうちに生きていた。
その4年後、女子高生誘拐事件が発生し、死んだはずのゲームマスターが上原を交渉相手として呼び出す。ゲームマスターは上原に指示し池袋、豊洲、代々木八幡、スカイツリーと振り回して、最後に自分を見つけられるか勝負を仕掛ける。
感想・考察
なぜゲームマスターが、一人の元刑事にそこまで執着するのか。
「お前から全てを奪う」でも「僕を見つけられたら一番欲しいものをあげる」と言う。やけに優しかったり急に激昂したり、ジョーカーっぽい不気味さを感じさせる。
知念さんの作品には優しい人物が多いが、クレイジーな犯人の魅力もうまく描けている。最後の展開には鳥肌が立った。
医療ミステリの要素はなく、どちらかというと警察サスペンスで、いつもの知念さんの作風を期待している人には違和感があるかもしれないが、文句なしで面白いので是非読んでほしい作品。
『秋期限定栗きんとん事件 上・下』 米澤穂信
「春季限定いちごタルト事件」「夏季限トロピカルパフェ事件」に続く小市民シリーズ第3弾です。
もうすでに全然小市民ではない小佐内ゆきのダークヒロインっぷりが格好いい。大好きなシリーズです。
タイトル
秋期限定栗きんとん事件 上・下
作者
米澤穂信
あらすじ・概要
「夏季限定トロピカルパフェ事件」の後、互恵関係を解消した小佐内ゆきと小鳩常悟朗。高校二年生になった二人はそれぞれの道を歩んでいた。
新聞部に入部した一年生の瓜野は、校内新聞に自分の足跡を残したいと考え、何か新しいことができないか画策していた。小佐内たちが関わった誘拐事件を記事にすることを提案するが、自身も事件に関与した新聞部長の堂島は、小佐内たちのプライバシーも考え却下する。
その後、瓜野は小佐内と付き合い始めることになる。小佐内の応援を得てから事態は動き出し、自由に書くことのできるスペースが与えられた。瓜野は学校周辺で起きている連続放火事件に着目し、その法則を発見して次回の事件発生を予言した。
その頃、小鳩は同級生の仲丸と付き合い始める。小市民であろうとする小鳩だが、自分の論理的な推理力を表現したい気持ちを隠し切れず苦悩する。
翌年度、二年生になった瓜野は新聞部部長となり、エスカレートしてゆく連続放火犯を自分たちで捕まえようと動き始める。三年生になり既に新聞部を退部した堂島は小鳩と協力しながら瓜野たちの暴走を食い止める。
感想・考察
「夏季限定トロピカルパフェ事件」で真の姿を見せた小佐内ゆきが、さらに圧倒的な力を見せる。米澤穂信さんの作品だけあって仕掛けが巧妙で小佐内の恐ろしさが引き立つ。絶対に敵に回したくないタイプだ。割と好青年の瓜野君がかわいそう。。
高校生の恋愛ストーリーであれば、前作で別れた二人が、お互い違う相手と付き合いながら納得できず「やっぱりあなたが必要だった!」とよりを戻したと読めばいいのだろうが、小佐内も小鳩も実にまどろっこしい。
甘ったるいタイトルだが全然甘くならないシリーズだった。
ちゃんと物語内時間が流れて高校の3年間が終わりそうなので、シリーズとしてはこれが最後だろうか。続きが読みたいので残念だ。