毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

ただそこにあなたが

初恋に落ち、初めて家族から離れる女性のお話です。

幼い恋の真直ぐさは清々しいけれど、

やっぱり幸せにはなれそうにないだろうな、

というほろ苦さも感じます。

 

 

【タイトル】

ただそこにあなたが

 

【作者】

吉本ばなな

 

【あらすじ・概要】

大手印刷会社社長の娘である女子高生の美代は

貧しい父子家庭で暮らす安人に恋をする。

 

美代は交際を反対され、生まれて初めて両親に反発する。

安人とその父に祝福される誕生日にこの上ない幸せを感じながら

毎年恒例だった家族と過ごす誕生日が失われたことを悲しむ。

 

 

【感想・考察】

今時「身分違いの恋」というのは大袈裟かもしれないけれど

自分以外の何かに縛られた関係はお互いにとって不幸だと感じる。

 

本作では男女ともに幼くて、勢いだけが目立つ。

「あなたがそこにいるだけで」幸せと感じるられるのは素晴らしいが

自分自身の確立がなければ、依存に陥ってしまう。

 

家族から自立しているからこそ、家族を大事にできるし

恋人に依存せずにいられるからこそ、恋人に甘えられる。

 

初々しさの裏に老練さを感じさせる作品だった。

 

 

クドリャフカの順番 「古典部」シリーズ

米澤穂信さんの「古典部シリーズ」第3弾、

学園祭の3日間が、古典部員4人の視点で描かれます。

怪盗「十文字」のメッセージが何だか切ない。。

 

【タイトル】

クドリャフカの順番 「古典部」シリーズ

 

【作者】

米澤穂信

 

【あらすじ・概要】

古典部の4人、千反田える、折木奉太郎

福部里志、伊原摩耶花の視点が次々と入れ替わり

学園祭の3日間の出来事が描かれる。

 

古典部は学園祭で文集「氷菓」を売り出すことにしたが

連絡ミスで大量に印刷してしまい

売り捌くために奔走する。

 

そんな中、アカペラ部から飲み物、

囲碁部から碁石、占い部からタロットカードなど

連続盗難事件が発生し、

「十文字」からの犯行声明カードが届けられる。

 

文集売込みのために、壁新聞部や放送部の

力を借りようとする古典部も事件に巻き込まれ

事件を利用しようとする。

 

「十文字」は何を伝えようとしたのか。

 

【感想・考察】

4人の視点が目まぐるしく移り変わるが

書き分けがしっかりしていて読みやすい。

 

「省エネ」な生き方を標榜しながら

心の熱さを隠せない奉太郎、

深い思いを持ちながら

飄々とした仮面を外さない里志、

女子の派閥争いに辟易する摩耶花、

部長としての責任感から交渉に当たりながら

「交渉術」に疲れ切る える。

 

学園祭の賑やかな雰囲気が背景となることで

4人それぞれの物語が、

かえって切なく寂しい感じに浮かび上がる。

 

こういうコントラストは

自分の学生時代を思い起こさせる。

 

 

モーリスのいた夏

 

大人になると見えなくなる「人くい鬼」を巡る

17歳と10歳の二人の少女のひと夏の出来事です。

「少女時代の終わり」の切なくてさわやかな雰囲気が好きです。

 

【タイトル】

モーリスのいた夏

 

【作者】

松尾由美

 

【あらすじ・概要】

17歳の女子高生の信乃が避暑地の別荘で

10歳の「くそ生意気な超絶美少女」 芽理沙の

家庭教師のバイトをする。

芽理沙による採用面接は「人くい鬼 モーリス」が

見えることが条件だった。

 

モーリスは動物の死後の残留思念を食べ

死体を消してしまう。

ただモーリス自体が摂食のために

生き物を殺すことはなく、

他の原因で死んだ魂を取り入れる。

 

そして採用試験に合格した信乃は

近くの別荘に来ていた、会社社長夫婦と占い師、

映画監督と俳優と女優、アニメ監督などと過ごしていた。

 

取材日程を間違えてやって来た女性雑誌記者が

別荘地周辺で転落死しているところが発見され

ところが警察を呼んでいる最中に死体が忽然と消えてしまう。

 

女性記者の死は事故だったのか?

死体が消えたのはモーリスによるものなのか。

 

 

【感想・考察】

「死体を消してしまう人くい鬼」とか

ファンタジー要素が強いので

ミステリ要素はあるけれど

推理して正解を追うタイプではない。

 

二人の少女の感じている生き辛さと

その裏返しとしての強かな強さ、

事件を乗り越えて成長する姿などが

繊細に描かれているのがメインだと思う。

 

映画 Stand by me みたいに

「もう戻らない最後の少年期の夏」の

切なくてさわやかな雰囲気があった。

 

大人のADHD ――もっとも身近な発達障害

本書はADHDについての解説ですが

診断方法や混同されがちな他疾患との区別など

診断する側の視点から書かれている部分が多いです。

 

【タイトル】

大人のADHD ――もっとも身近な発達障害

 

【作者】

岩波明

 

【あらすじ・概要】

ADHDとは

注意欠如多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)

以前は小児科の病気だと思われていたが

成人期の発達障害の中で特に症例が多いことが判明した。

小児期のADHDが成人するまでに改善するケースも多いが

ある程度知性が高いADHDの場合、

小児期には症状が明確に出ていなくても

社会人となってから適応が上手くできず発現するケースもある。

家庭環境や養育状況によって発現するのではなく

生まれながらの生物学的な要因に関連している。

遺伝的な要因が最も重要。

 

症状

脳などの器質的な異常は明確には認められない。

・不注意

 集中ができず、ケアレスミスが多い。

 忘れ物、なくしものが多い。片付けが苦手。

 時間を守れない、等。

・多動性

 落ち着きがない。一方的なおしゃべり。

 感情が高ぶりやすく衝動的な行動を取る。

 

成人になると衝動性の高さから、

喫煙や薬物の過剰摂取、危険な運転、

衝動買いなども見られる。

ADHD患者はギャンブルや薬物などの依存症を

発症する確率も健常者の2倍ほどだった。

 

社会生活

小児期のADHDは軽症であれば問題視されないことも多いが

成人してからの社会生活では、責任の重さが上がり

不注意によるミスなどが許されず、

対人関係も構築も難しくなる。

就業しても継続できないケースが多く

社会生活上困難な状況にある患者も多い。

 

ADHDと他の精神疾患

ADHDはうつ病や不安障害などと併存するケースも多い。

ADHDを有する者のうつ病や健常者と比較して

おおむね2倍以上となっている。

 

ADHDを原因とした適応障害でうつ病を引き起こした場合でも

背景にあるADHDは見落とされがちで、うつ病の治療だけが

行われるケースも多い。

統合失調症や境界性パーソナリティー障害などとも

共通する病状があるため、誤診されたり見逃されたりすることもある。

 

ADHDとASD

ASD(自閉症スペクトラム障害)は自閉症や

アスペルガー症候群などなどが含まれる。

「同一性へのこだわり」と「対人相互反応の障害」が

基本的な症状で、特定のモノに強い興味を抱いたり

相手の表情や言葉のニュアンスを読むのが難しかったりする。

 

ADHDとASDは併存することもあるが異なる病気。

ただ行動には類似する点も多い。

ADHDの不注意さと、ASDが対象に集中するあまり

注意の配分ができないことは一見同じに見えたり、

ADHDが不注意で相手の表情を見逃すのと

ASDの相互反応障害が、結果的には似て見えることもある。

 

診断・治療

ADHDで特徴的な臨床検査は存在しない。

児童期かそれ以前の情報が重要となる。

本人や家族の記憶があいまいなことも多い一方で

学生時代の通知表などは重要な情報となる。

 

ADHDの基本的な障害はノルアドレナリンと

ドーパミンの機能障害であると考えられ

それらを改善する薬物療法が効果を示す。

また認知行動療法で改善するケースも多い。

 

【感想・考察】

発達障害の捉え方は難しい。

 

器質的な異常は認められないといっても

遺伝要素が強い以上、何か物理的な原因はあるのだろう。

そしてその発現は、環境要因などの影響を受けて

程度が異なってくるのではないだろうか。

 

ただそうなると「個性」と「障害」の区別も難しくなってくる。

例えば少し前に読んだ、さかなクンの本を見ると

彼は明らかにアスペルガーでADHDの傾向もありそうだが

環境に恵まれ個性を強みとして活かしている。

投薬や認知行動療法で、彼の行動を「修正」するべきでは

無かったと言えるだろう。

 

一方で、社会適応が上手くできず困っている人たちにとっては

投薬などで状況が改善する可能性があると知ることや

「生まれ持った病気の一種」だということの周囲に理解されることは

救いになる可能性があるのだろう。

 

また、診断自体もとても難しいのではないかと感じる。

臨床診断で判断できない以上、患者本人や周囲の情報が基になるが

自分で診断テストをしてみても、

「正直版」と「医者を前にしたらこういうだろうな版」で

回答が異なるし、こういう部分を補正するのは本当に大変だと思う。

 

病気を治すのではなく、社会適応の道を開くことが大事だと思うが

一人ひとり異なる状況で、医者がまとめて対応することは難しいだろう。

 

自分自身と身の回りの人のことを考えるのが精いっぱいだ。。

 

 

 

ウサギの天使が呼んでいる ほしがり探偵ユリオ

浜村渚の計算ノート」 の作者さんの作品です。

 

マニアックな古物商探偵というマニアックな設定です。

ドラキュラの棺桶から古い家電まで、

色々とウンチクが語られますが、たぶん役に立つことはないでしょう。

 

【タイトル】

ウサギの天使が呼んでいる ほしがり探偵ユリオ

 

【作者】

青柳 碧人

 

【あらすじ・概要】

マニアックな古物販売を手掛けるユリオは

興味をそそるものに出会うと、欲しくて仕方がなくなる。

ユリオと妹のさくらが事件に巻き込まれ解決していく

5話の連作短編集。

 

誰のゾンビ?

ゾンビに扮した客が集まる、「ゾンビパーティー」の最中、

一人のゾンビが参加していた女性首を絞める。

周囲の客に制止されゾンビは逃げ出したが階段を転げ落ち、

階下にあったドラキュラの棺の中で死んでいた。

 

ゾンビに扮していた死体には身元を示すものが何もなかったが

首を絞められた女性がストーカー被害にあっていたことから

そのストーカーの犯行ではないかと思われた。

しかし検死の結果、男は転落の数時間前に死んでいたことが分かり

捜査は暗礁に乗り上げる。

本当のゾンビが犯行に及んだのか。

 

棺を買取に向かっていたユリオとさくらは

貴重な品が証拠品として押収されるのを防ぐため

事件解決のために推理に取り組む。

 

デメニギスは見ていた

美術展の展示物を物色しに来たユリオとさくら。

展示会場に4つ並べられたガラス製のブースに

4人がそれぞれの展示物を並べていた。

 

一人の出展者の妻が「透明家具」のポーズを取ったとき

急に血を吹き出し倒れてしまう。

捜査の結果、すぐ横のブースにあった像に仕込まれた

銃が暴発したものと思わたが

ユリオは仕掛けがあったのではないかと疑った。

 

ウサギの天使が呼んでいる

ライターであるユリオは「ゴミ屋敷のヌシ」 についての

本に記事を書くよう迫られ、編集者と共にあるゴミ屋敷に向かった。

そこでは古い時代の家電製品がコレクションされており

ユリオの食指が動いたが、部屋でヌシが殺されているのが発見される。

クリスマスツリーから消えていたウサギのマスコット、

死体の頬に押し付けられたウサギの型、

千枚近く集められた Suica は何を意味するのか。

 

琥珀の心臓を盗ったのは

老人ホームの入居者に、オルメカ文明の巨人頭像を

納入しに来た ユリオとさくら。

そこで、ある老人が孫からもらったテディベアの

胸が割かれる悪戯が起き、犯人探しが始まった。

マヤ文明の生贄の儀式を模したものだとして

南米古代文明マニアの老人が疑われてしまう。

ユリオは彼の疑いを解くため、

事件の真相を探っていく。

 

顔ハメ看板の夕べ

「観光地にある顔だけくりぬかれた看板」コレクターの別荘に

注文品を納入しに来たユリオとさくら。

通いの家政婦だという女性と、主人の息子だという男が

別荘にいたが、その時が初対面で互いに面識はなかった。

不在だった主人を探したところ、鍵のかかったコレクション部屋で

主人の死体が発見される。

ユリオは「アーモンド臭がする」といい

青酸系毒物による殺人の可能性があるとして警察を呼んだ。

 

【感想・考察】

エキセントリックで飄々としている「名探偵」だ。

マニアックすぎるウンチクはある意味面白いが

ミステリとしてはツッコミどころが多い。。

サラッと楽しむのにちょうどよい作品。

 

 

ゴーストフォビア

幽霊の話とか、普段あまり怖いと思わないのだけれど

この話は結構マジで怖い。

 

 

蓮コラをイメージするお岩さんの衣装とか、

血まみれでビルの階段を這って自殺を繰り返す女子高生とか

口をひん曲げて笑う人形だとか合わせ鏡の部屋とか、

ビジュアル的に怖いシーンが多いし、

内面の心理描写も不気味でした。

 

深夜に一人で読まないほうが良い本です。

 

 

【タイトル】

ゴーストフォビア

 

【作者】

美輪 和音

 

【あらすじ・概要】

サイキック探偵を名乗る 等々力芙二子は

妹の三紅を無理やり連れ出し捜査に乗り出す。

 

三紅は接触恐怖症 だったが、

事故物件を扱う不動産屋の男 神凪怜 と

体が触れると、聴力を失ったはずの右耳から

霊の声が聞こえるようになった。

また 怜 の方も三紅と触れている時には

怜の姿が見えるようになる。

 

芙二子と三紅と怜の3人が事件を解く

4話の連作短編集。

 

ゴーストフォビア

サイキック探偵となった芙二子は

演劇部部長から依頼を受け、行方不明になった

主演女優 向日葵を探しに行く。

 

失踪した向日葵の部屋は、かつて女性が監禁され亡くなり

ハコさん呪いとして都市伝説になった現場だった。

 

その物件を扱っていた不動産屋の 怜 も

部屋に来ていたが、三紅と怜が触れ合った瞬間に

三紅は助けを呼ぶ声を聞き、

怜は風呂蓋の下から伸びる白い手を見た。

 

空飛ぶブラッディマリー

とあるマンションで女子高生が飛び降り自殺をした後

彼女の友達2人も相次いで同じ建物から飛び降り自殺した。

最初に自殺したマリが血まみれで彷徨い

道連れにする人をさがしているという

「ブラッディマリー」の都市伝説が広がっていた。

 

芙二子と三紅は、マンション住人から依頼を受け

真相を探る。

 

ドールの鬼婚

人形作家の九条月子は娘の雛子を事故で亡くした。

自分の作った人形に雛子の霊が宿っていると言い

黒板を通じて伝えられる彼女の望みを全て叶えようとしていた。

 

心配した妹の佐代里はサイキック探偵の芙二子に

姉を説得するよう依頼したが、

ある時から月子は人形を恐れるようになってしまう。

 

雨が降り出す前に

連続殺人犯だった堂平大吾の霊を呼ぼうとした清水鏡子は

急遽姿を消してしまう。

心配した友人はサイキック探偵の芙二子に捜査を依頼した。

 

芙二子たちは堂平の実家に赴くが、

そこはかつて怜の親戚が命を失った場所でもあった。

三紅と怜との過去からの因縁が明かされる。

 

 

【感想・考察】

ホラー作品とかを読んでいても

「結局怖いのは人間だよねー」みたいに落ち着くのだが

「幽霊怖っ!」と思わされた。

 

「○○フォビア」として様々な恐怖症の例を挙げているが

「怖さ」を追求している作者なのだと思う。

 

探偵役の3人のドタバタしたやり取りで

雰囲気を中和するところもあるのだが

かえって白々とした虚無感を覚えることもある。

 

ミステリとして読んでも、

ちゃんとオチがありどんでん返しもあって

面白いのだが、

怖さを味わう話として読むのもいいと思う。

 

 

社会心理学講義 ──<閉ざされた社会>と<開かれた社会>

 集団と個人の関係を読み解く

社会心理学についての講義です。

 

「決定論」的な立場を取りながら、

社会の「虚構」を肯定的に捉え、

「同一性」と「変化」の矛盾に切り込んでいます。

 

学際的で話が飛ぶところもあるのですが

主張がはっきりしているので内容は掴みやすいです。

長い割にサクッと読めました。

 

 

【タイトル】

社会心理学講義 ──<閉ざされた社会>と<開かれた社会>

 

【作者】

小坂井敏晶

 

【あらすじ・概要】

 

今日の 「社会心理学」は社会環境における個人の

心理の研究が主体になっているが、

本来は社会と個人の関係そのものを読み解く

ものであるべきだとする立場を取る。

 

 

1.社会心理学の認識論

 

科学的に「事実から始め、理論を事実に合わせる」

というのは誤り。

実験値が理論の予想と大きくずれない場合、

正しいと暫定的に認定され、

科学者が合意した理論によって結果が解釈される。

この解釈が事実である。

 

各人の行動を理解するうえで。

人格などの個人的要因はあまり重要ではない。

ミルグラムの実験やホロコーストの解釈でも

「分業によって作業が分割」されると

責任転嫁が自然に起きる。

人格や国民性などの「本質」で行動は説明できず

社会と個人の倫理が絡み合っていると認識すべき。

 

脳神経生理学の見地からは

意識が行動を起こそうとするよりも前に

行動を起こすための信号が発生している。

人間の意志というのは後付けの説明に過ぎない。

脳は後付けで自分の行動に「理由」を見つける。

 

自由意志での行動はあり得ないとすると

「責任」をどうとらえるかという問題が生じる。

責任者を見つけなければならないから、

行為者が自由であり意志によって行為がなされた

と社会が宣言する。

悪い行為だから非難されるのではなく

我々が非難するから悪い行為になる。

 

 

2.社会システム維持のパラドクス

社会心理学は人間の社会性・他律性を強調するが

我々が自律感覚を持っているのは何故か。

 

外界の刺激に対して直接反応するのではなく

各個人がフィルターをかけてから反応が生じるとし

そのフィルターを「態度」とする説があったが

態度と行動にはあまり関係がないことが分かった。

 

また「認知不協和諭」も唱えられた。

周囲から影響を受け、考えが変わり

その結果として行動が変化するのではなく、

社会の圧力が行動を引き起こし

その行動を正当化するために意識内容を適応させる。

 

自分の信条と異なる説明をさせられて

それに対し高額の報酬をもらえば

「報酬をもらうために嘘をついた」と納得できるので

信条自体が変化することはないが、

ごくわずかな報酬しか受け取れなかった場合、

自分の行為の辻褄を合わせるため、

信条を無意識のうちに変えてしまう。

 

また認知不協和による解釈の変化は

権威あるものからの説得と比べても

より深くより長期に影響する。

 

生物は体温など内部環境が一定でないと

安定して生きていることができない。

同様に、認知的に外部に開かれた人間は

体外に創出された内部として「文化」に依存する。

 

例えば、

多民族主義のアメリカで文化の均質が進む一方、

民族固有性を認めない普遍主義のフランスで

文化的多様性が残っているように

自分の外部に「民族」というフィクションがあれば

自己同一性を保つことができ、

かえって異文化を受け入れやすいが、

普遍主義においては文化の差は本質的なものとみなされず

認知における差異化が働かないため、

他者の価値観の需要が自己同一性を脅かすと考え

文化的均質性に歯止めがかかる。

 

3.変化の謎

社会システムは同一性を維持しながら変化し続ける。

何故そのような矛盾が可能なのか。

 

負のフィードバックに依存するホメオスタシスモデルが

変化を抑制しシステムを維持するのは理解しやすいが

変化をもたらすプロセスはどのような物なのか。

 

権力をもつ多数派が影響力を行使する場合、

表面的で浅薄な追従の形を取るのに対し、

少数派の影響効果は間接的かつ無意識的な形となる。

影響力が行使されてもその事実を見逃しやすい。

 

社会からの逸脱が犯罪となるのか、

創造的な行為となるのかは

その行為自体に内在的な根拠はなく、

社会的歴史的に決まる。

犯罪と創造はどちらも多様性の一部。

 

少数の逸脱者が生み出した多様性が

社会に影響を与えていく。

 

4.社会心理学と時間

 文化も血縁も実際には断絶があるが

連続しているように錯覚する。

 

「部分」の変化にもかかわらず、

「全体」は維持されるという感化右派なぜ生まれるのか。

例えば、百数十年前から生きている日本人はほぼいないが

日本として同一であるという感覚はどこから来るのか。

 

実際には万物は自己同一性を保っていないが

連続的に生ずる変化に観察者が気付かないので

同一性維持を錯覚できる。

 

時間が経ちシステムがある状態に至るとき

現在から過去に遡ればその筋道を知ることはできる。

ただその筋道を法則に還元することはできないし

情報量の圧縮もできないから、時間が生まれる。

 

【感想・考察】

「固有の本質」ではなく「社会関係」が

行動を決めていくという考え方だ。

 

「責任」はフィクションであり

人間の意志も「認知不協和」を避けるための

後付けだとする。

 

自分や相手の行為を俯瞰して、

大きな社会的背景に還元することができれば

細かいことが気にならなくなるかもしれない。

あんまり常識的な視点から離れてしまうと

変な人になってしまうかもしれないが。。

 

世界の見方を広げてくれる一冊だった。 

 

 

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