毎日一冊! Kennie の読書日記

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社会心理学講義 ──<閉ざされた社会>と<開かれた社会>

 集団と個人の関係を読み解く

社会心理学についての講義です。

 

「決定論」的な立場を取りながら、

社会の「虚構」を肯定的に捉え、

「同一性」と「変化」の矛盾に切り込んでいます。

 

学際的で話が飛ぶところもあるのですが

主張がはっきりしているので内容は掴みやすいです。

長い割にサクッと読めました。

 

 

【タイトル】

社会心理学講義 ──<閉ざされた社会>と<開かれた社会>

 

【作者】

小坂井敏晶

 

【あらすじ・概要】

 

今日の 「社会心理学」は社会環境における個人の

心理の研究が主体になっているが、

本来は社会と個人の関係そのものを読み解く

ものであるべきだとする立場を取る。

 

 

1.社会心理学の認識論

 

科学的に「事実から始め、理論を事実に合わせる」

というのは誤り。

実験値が理論の予想と大きくずれない場合、

正しいと暫定的に認定され、

科学者が合意した理論によって結果が解釈される。

この解釈が事実である。

 

各人の行動を理解するうえで。

人格などの個人的要因はあまり重要ではない。

ミルグラムの実験やホロコーストの解釈でも

「分業によって作業が分割」されると

責任転嫁が自然に起きる。

人格や国民性などの「本質」で行動は説明できず

社会と個人の倫理が絡み合っていると認識すべき。

 

脳神経生理学の見地からは

意識が行動を起こそうとするよりも前に

行動を起こすための信号が発生している。

人間の意志というのは後付けの説明に過ぎない。

脳は後付けで自分の行動に「理由」を見つける。

 

自由意志での行動はあり得ないとすると

「責任」をどうとらえるかという問題が生じる。

責任者を見つけなければならないから、

行為者が自由であり意志によって行為がなされた

と社会が宣言する。

悪い行為だから非難されるのではなく

我々が非難するから悪い行為になる。

 

 

2.社会システム維持のパラドクス

社会心理学は人間の社会性・他律性を強調するが

我々が自律感覚を持っているのは何故か。

 

外界の刺激に対して直接反応するのではなく

各個人がフィルターをかけてから反応が生じるとし

そのフィルターを「態度」とする説があったが

態度と行動にはあまり関係がないことが分かった。

 

また「認知不協和諭」も唱えられた。

周囲から影響を受け、考えが変わり

その結果として行動が変化するのではなく、

社会の圧力が行動を引き起こし

その行動を正当化するために意識内容を適応させる。

 

自分の信条と異なる説明をさせられて

それに対し高額の報酬をもらえば

「報酬をもらうために嘘をついた」と納得できるので

信条自体が変化することはないが、

ごくわずかな報酬しか受け取れなかった場合、

自分の行為の辻褄を合わせるため、

信条を無意識のうちに変えてしまう。

 

また認知不協和による解釈の変化は

権威あるものからの説得と比べても

より深くより長期に影響する。

 

生物は体温など内部環境が一定でないと

安定して生きていることができない。

同様に、認知的に外部に開かれた人間は

体外に創出された内部として「文化」に依存する。

 

例えば、

多民族主義のアメリカで文化の均質が進む一方、

民族固有性を認めない普遍主義のフランスで

文化的多様性が残っているように

自分の外部に「民族」というフィクションがあれば

自己同一性を保つことができ、

かえって異文化を受け入れやすいが、

普遍主義においては文化の差は本質的なものとみなされず

認知における差異化が働かないため、

他者の価値観の需要が自己同一性を脅かすと考え

文化的均質性に歯止めがかかる。

 

3.変化の謎

社会システムは同一性を維持しながら変化し続ける。

何故そのような矛盾が可能なのか。

 

負のフィードバックに依存するホメオスタシスモデルが

変化を抑制しシステムを維持するのは理解しやすいが

変化をもたらすプロセスはどのような物なのか。

 

権力をもつ多数派が影響力を行使する場合、

表面的で浅薄な追従の形を取るのに対し、

少数派の影響効果は間接的かつ無意識的な形となる。

影響力が行使されてもその事実を見逃しやすい。

 

社会からの逸脱が犯罪となるのか、

創造的な行為となるのかは

その行為自体に内在的な根拠はなく、

社会的歴史的に決まる。

犯罪と創造はどちらも多様性の一部。

 

少数の逸脱者が生み出した多様性が

社会に影響を与えていく。

 

4.社会心理学と時間

 文化も血縁も実際には断絶があるが

連続しているように錯覚する。

 

「部分」の変化にもかかわらず、

「全体」は維持されるという感化右派なぜ生まれるのか。

例えば、百数十年前から生きている日本人はほぼいないが

日本として同一であるという感覚はどこから来るのか。

 

実際には万物は自己同一性を保っていないが

連続的に生ずる変化に観察者が気付かないので

同一性維持を錯覚できる。

 

時間が経ちシステムがある状態に至るとき

現在から過去に遡ればその筋道を知ることはできる。

ただその筋道を法則に還元することはできないし

情報量の圧縮もできないから、時間が生まれる。

 

【感想・考察】

「固有の本質」ではなく「社会関係」が

行動を決めていくという考え方だ。

 

「責任」はフィクションであり

人間の意志も「認知不協和」を避けるための

後付けだとする。

 

自分や相手の行為を俯瞰して、

大きな社会的背景に還元することができれば

細かいことが気にならなくなるかもしれない。

あんまり常識的な視点から離れてしまうと

変な人になってしまうかもしれないが。。

 

世界の見方を広げてくれる一冊だった。 

 

 

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