毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

ウィンター・ホワイト~広島護国神社前殺人事件~ 弁護士穂積晃シリーズ

 先日読んだ「オータム・ブラック」と同じく、現役弁護士によるサスペンス小説です。弁護士の日常や裁判審理の裏側など、細かい部分にリアリティーがあって面白いですね。

 

【作者】

 乙野二郎

 

【あらすじ・概要】

 弁護士 穂積晃の妻 が逮捕された。

 友人が殺された現場に妻が偶然居合わせたため、殺人容疑で逮捕起訴された。穂積晃は妻の弁護を引き受けるが、真犯人につながる情報を得ることができず、一審では有罪の判決を受ける。

 二審の準備を進めながらも、状況を変えるような証拠はあらわれず、少しでも外に出たいという妻の仮釈放要求も却下された。穂積は妻とある計画を練り、そこから事態は急速に進展していく。

 

【感想・考察】

 真犯人が何らかのトリックを仕掛けたわけでもなく、話は淡々と進んでいく。その分、穂積弁護士の計画には唐突感があって驚かされる。タイトル通り全編が寒々しい雰囲気で、ラストも寂しい終わり方だった。

 自分が弁護士になったとして、家族の弁護をするような状況は非常に苦しいだろう。裁判官は民事・刑事とも身内の裁判に関わることはできなかったはずだが、検察官や弁護士にはそういった制限はないのだろうか。

 

【オススメ度】

 ★★★☆☆

 

屋上の名探偵

 著者デビュー作の「名探偵の証明」で、主人公の屋敷に憧れつつ彼に引導を渡した 蜜柑花子 の高校生時代を描く作品です。名探偵蜜柑が痴情のもつれを解決!

 

【作者】

 市川哲也

 

【あらすじ・概要】

 4つの連作短編集。超シスコンの高校2年生 中葉悠介を語り手に、探偵 蜜柑花子の活躍を描く。

 

・みずぎロジック

 授業中に悠介が慕う姉 詩織里の水着が盗まれた。名探偵だという噂のある転校生の 蜜柑花子に相談するが、彼女は探偵として前面に出ることを拒む。そこで悠介は自分が調査の前面に立ちながら、蜜柑の推理を聞くという手段を取る。

 

・人体バニッシュ

 生活指導の教師五唐が、校庭でタバコを吸っている生徒の室を見つけ追いかけるが、室は校舎の裏に回り込んだ後に忽然と消えてしまう。室はその日登校していなかったと主張し冤罪だと訴える。

 その先生は、喫煙した生徒の向出を処分しインターハイの出場機会を奪うなど、指導の厳しさで生徒から疎まれていた。室の冤罪事件で五唐は厳しい休職に追い込まれる。五唐から依頼を受けた蜜柑は悠介と一緒に調査に当たる。

 

・卒業間際のセンチメンタル

 詩織里のクラスで卒業制作として準備していた写真と木星のフレームが壊されていた。現場となった技術室に出入りしたのは3人。蜜柑と悠介は3年生のクラスのロッカーに隠れ状況を探る。

 

・ダイイングみたいなメッセージ

 詩織里が高校を卒業し東京の大学に行ったことで失意する悠介。偶然通りかかった詩織里や、友人の千賀千歳、千歳の彼氏である双紙たちの車に乗せてもらう。

 双紙が妹を迎えに行くため小学校に寄ったが、そこで双紙と話し合いをしていた千歳が何者かに階段から突き落とされてしまう。

 千歳は意識を失う寸前に 血で 「I」もしくは「1」とみえるメッセージを残していた。死んだわけではないのでダイイングみたいなメッセージ。

 

【感想・考察】

 名探偵の証明ででてきた蜜柑花子が印象的だったので、彼女を主人公とした話を読みたいと思った。かつての経験から探偵として目立つことを避ける蜜柑だが、事件解決への強い意志を見せる。言葉が少ないので考えが飛躍しているように見えるのが、ミステリ的な解決のカタルシスに繋がっていて爽快だ。

 

【オススメ度】

 ★★★☆☆

 

 

世界史とつなげて学べ 超日本史 日本人を覚醒させる教科書が教えない歴史

 周辺国との関係から日本の歴史を語った本です。日本の教育では「日本史」と「世界史」が分断されていて、一貫した視点が持てないことに著者は懸念しているようです。

 

【作者】

 茂木誠

 

【あらすじ・概要】

 縄文・弥生時代から江戸時代くらいまでを対象とし、外国との関係から日本の歴史を見ようとしている。

 

  女系のミトコンドリア解析から、「日本人は東南アジア系の縄文人に、大陸から来た弥生人が混血したものだ」と結論付ける。また男系のY染色体解析から、侵略的に混血し特定のY染色体の占有率が高い状況ではないため「平和的な混血だった」とみている。記紀の神話でも、外来系の天津神が権力を握っても土着系の国津神をきちんと祀っているのはその傍証だという。

 

 大和時代の聖徳太子、蘇我馬子らのグローバリストが大陸との交流の端緒を開く。その後も平清盛や足利義満など貿易の実利を重視する勢力が、国内をベースとする勢力とパワーゲームを繰り返していく。大陸の文化を吸収しつつ大陸が衰退した時期には国風文化を育ててもいる。

 

 16世紀の大航海時代以降は、ポルトガル・スペインが宣教師によるキリスト教布教を先鞭とし、アメリカ大陸や東南アジアを侵攻していったとする。

 その時期の日本では応仁の乱以降戦乱が続き武器の需要が極端に高かったことから、鉄砲の伝来以降数年で実用化・実戦配備をした。そのためアメリカ大陸やフィリピンには武力で進行したポルトガル・スペインも日本への侵攻はリスクが高いと判断し、欧州側の状況変化もあって日本は独立を保つことができたとみている。

 実利を見た信長がキリスト教の布教を許可するが、リスクを感じた秀吉がこれを制限する。徳川時代の初期には余剰戦闘員である浪人を海外に傭兵として送ったが、彼らが海外勢力と結びつき攻めてくることを恐れたのが、「鎖国」といわれる管理貿易体制を敷いた一因だと分析している。鎖国が実現できたのは日本の地理的な条件だけでなく、諸外国が日本の武力を警戒していたからだという見方もしている。

 

【感想・考察】

 海外でのできことと並行して日本の歴史を見て、その因果関係を考える視点は面白い。現存している史料から推測することしかできず真実は分からないが 、多様な視点を持つこと自体にも意味があるのだろう。

 

【オススメ度】

  ★☆☆☆☆

 

NHK「100分de名著」ブックス 般若心経

 いくつか仏教に関する本を読んで更に興味が深まってきました。日本では般若心経はとくに有名ですが、ブッダの時代の原始仏教とは大きく異なる密教系の思想がベースになっているということを初めて理解しました。

 体系的に説明されていてわかりやすいです。

 

【作者】

 佐々木閑

 

【あらすじ・概要】

 ブッダが悟りを開いた原始仏教では、全ての苦しみから逃れ涅槃に至るという「自利」を求めて、苦しい修業を行うという自分自身のための哲学だった。それを求める人には道を示すが積極的な不況があったわけではない。

 一方、その後に生まれた大乗仏教は、広く人々を救うためより入りやすいようなつくりになっている。「般若心経」は仏教の神髄を示すと考えている人が多いかもしれないが、原始仏教でベースとなっていた五蘊や縁起や四諦も全てが「空」であるとしている。論理的な哲学ではなく、理解できないものに対する神秘的なアプローチだ。

 般若心境の構成は;

 釈迦の弟子である舎利子に対し、観音様が釈迦の教えの要諦である五蘊等を否定し、「羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶」という呪文を唱えれば一切の苦しみを鎮めるという。それを聞いた釈迦が「そうだ、そうだ」とお墨付きを与える。

というもので、9割が釈迦の教えの否定と般若心経自体の権威付けで、残りが本体となる「呪文」となっている。

 

 般若心経が否定した釈迦の教えのポイントは以下の通り。

・釈迦は「五蘊」の要素が影響しあうのが人間だとしたが、「五蘊皆空」としてこれを否定した。

 五蘊とは

  色:外界の物質全般、肉体

  受:外界の刺激を受ける心の働き

  想:考えを構成する心の働き

  行:何かを行おうとする心の働き

  識:心理作用のベースとなる認識

 

・釈迦は全ては「諸行無常」であるとしたが、存在要素が流転しているよう見える見方も錯覚だ推して否定した。

 

・釈迦が人の認識作用を分析した十二処の存在を否定した。

 十二処とは

  六根: 眼、耳、鼻、舌、体 と それを受ける 意

  六境: 六根に対応し、色、声、香、味、触、 法

 この考え方は、例えば「石」に固有の形や硬さがあるのではなく、色や手触りが実在していて「石」はそれを心の中でくみ上げたものだとみている。

 般若心境では「石」だけでなく「心の作用」も無いとしている。

 

 

【感想・考察】

 般若心経についての本であるが、著者はブッダの原始仏教を信奉する視点から書いているので、他の解説書とは違う視点で見ることができる。

 それにしてもブッダの思想の先進性は凄まじいいと思う。認知心理学でいう「クオリア」に着目し、それこそが人間存在の本体であるという考え方が二千年以上前にされていたというのは驚きだ。

 VRゲームのキャラクタが、世界の本質は「刺激に対する反応のアルゴリズムだよ」と見抜き、「なんだか苦しいから、そこから抜け出そう」という言いだしたようなものなのだろう。

 一方で般若心経は、VRゲームのキャラクタが「アルゴリズムを作った創作者もVRのキャラで、本当は何にもないよね」というくらいアナーキーな内容だ。

 中二感満載だ。

 

【オススメ度】

  ★★★★☆

 

 

名探偵の証明 《名探偵の証明》シリーズ

 1980年代に活躍したかつての名探偵が、2010年代の名探偵と共に事件を解決する話です。「名探偵」という伝説上の職業が実在したら、こういう悲哀を背負うのだろうか、というハードボイルド寄りのストーリーでした。

 

【作者】

 市川哲也

 

【あらすじ・概要】

 1980年代、名探偵の「屋敷」は、巡査長の「武富」と共に数々の事件を解決するヒーローだった。冒頭では、外部から断絶された孤島での連続殺人事件の謎を解決する。

 それから30年の時が過ぎた現代、屋敷はとある事情で探偵職から半ば手を引いていたが、かつての戦友である武富から発破をかけられ、脅迫状を受け取った資産家の別荘に訪れたが、そこには「現代の名探偵」である蜜柑も呼ばれていた。内側から鍵にテープが張られ、外に側には鍵穴すらない完璧な密室での殺人で、新旧名探偵が推理をたたかわせる。

 蜜柑との対決の後、屋敷は探偵を辞め別居していた妻の元に帰る。平穏な日々に幸せを感じる屋敷だったが、満たされない思いも抱え続けていた。

 

【感想・考察】

 屋敷は論理的に推理をするだけでなく、相手をどのように追い詰め、どのように降伏させるのか、心理的な駆け引きを行う様子が描かれている。探偵の一人称視点で描かれているので「ここでは相手を興奮させないように」とか「相手の動揺を確認して次の手を出す」など、心理戦の内側が見えるのが面白い。

 一方で蜜柑は最近のミステリでよくあるような「不思議美少女系の探偵」だ。昔からの探偵が老い衰え、現代の美少女探偵が批判を受けつつ持てはやされているのは、「本格ミステリ」が古臭く感じられる一方で「ラノベ風ミステリ」が批判されつつも売上は悪くない、という状況をメタ的に書いているのだろうか。

 終わり方をみて続編はないのかと思ったが、蜜柑を主人公に据えた話がシリーズ展開されているようなので読んでみよう。

 

【オススメ度】

 ★★★☆☆

 

 

 

闇の島のヴァンパイア

 壮大な設定の序章部分という感じでした。バンパイアが出てきますがホラー要素はなく、少女漫画的なノリの恋愛小説でした。

 

【作者】

 Bella Forrest

 

【あらすじ・概要】

 17歳の少女ソフィアは、思いを寄せていたベンが元カノとよりを戻し自分の誕生日を忘れていたことで落ち込んでいた。

 一人海岸を歩いていると不気味な男に攫われ、バンパイアたちが住むシェード島に連れていかれる。そこで数百年の眠りから覚めた王子 デレクの奴隷としてささげられる。

 デレクは長い眠りから覚めた空腹感による衝動で、奴隷のソフィアたち襲い掛かろうとするが、ソフィアの繊細でありながら芯の強い姿を見て驚き、徐々に彼女に惹かれていく。

 ソフィアも最初は自分たちの自由を奪った怪物であるバンパイアたちを恐れ嫌悪していたが、デレクが自分を守り大切に扱いってくれることに気づき徐々に心が傾いていく。

 

【感想・考察】

 まだ話の序章というところで終わってしまった。続編が出るのだろう。

内容は完全に恋愛小説で「強大な力を持つ王子が、傷つきやすい自分の中に特別なものを見つけて恋に落ち、最初は拒んでいた私も徐々に魅かれていく」というベタな感じのある展開。

 バンパイアとハンターの戦い、魔法使いのたくらみなど、舞台設定的に面白そうな部分はあったが、そのあたりに本格的に踏み込む前に終わってしまった。

 

【オススメ度】

 ★☆☆☆☆

 

 

ラプラスの魔女

 ベテランのベストセラー作家、東野圭吾氏の作品だけあって安定して面白いです。 新しい能力を持つ女性ヒロイン円華にも魅力があり、シリーズ化を予感させます。

 

【作者】

 東野圭吾  

 

【あらすじ・概要】

 映像クリエイターの水城が、温泉近くの山道で硫化水素中毒で死亡した。その数か月後には、別の温泉地でも売れない俳優の那須野も硫化水素中毒で死亡した。

 調査を依頼された大学教授の青江は、噴出した硫化水素が一時的に高濃度となったことによる事故だと、腑に落ちないながらも結論付けえる。しかし青江が両方の現場で会った円華の話を聞き、二つの事故をを調べるうち、同じく硫化水素による中毒で妻と娘を無くした映画監督の甘粕の存在に辿り着く。

 青江は円華と行動するうちに彼女の持つ驚異的な「未来予測」の能力に気づく。彼女は何者なのか。事件の背後には何があるのか。

 

【感想・考察】

 登場人物はかなり多く、場面・視点が頻繁に切り替えられるが、とても分かりやすい。登場人物の書き分けが上手でないとこうはいかないのだろう。熟練のベストセラー作家だけあって文章力には圧倒される。

 ドラマチックな山場の作り方とか、主人公たちの苦悩などに引き込まれ、あっという間に読み終わった。事件の全体像は中盤くらいには見えてしまうが、それでも飽きさせることなく引き込む力を感じる。

 ただ「秘密」など初期の作品と比べると、最近の作品では登場人物たちが「擦れた」感じで、「一途な生き方に共感する」ような感動はなくなってしまっているのは残念だ。

 

 本の内容とは直接関係ないが、東野圭吾氏の本が電子書籍化されないのには困っている。海外在住だと紙の書籍を入手する機会は限られていて、読みたいときに読むことができないのは残念だ。

 違法コピーの問題や版権など、課題がたくさんあることは理解できるが、作者・読者双方にとってメリットのある解決ができるよう、Amazonなどのプラットフォーマーに期待したい。

 

【オススメ度】

 ★★★☆☆

 

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