池上彰と考える、仏教って何ですか?
池上彰氏による仏教の歴史と教義の概説が前半で、後半はダライ・ラマ法王との対談記録です。池上さんの説明はいつもとても分かりやすい。
【作者】
池上彰
【あらすじ・概要】
仏教の歴史
紀元前500年ごろにインド小国の王子として生まれた ゴータマ・シッダッタが、生きることの苦悩から逃れるためにはどうすればよいのかを悟り、その教えを弟子たちが伝えていったものが原始仏教。
非常に厳しい戒律を持ち、出家をした人しか悟りを開くことができないとし、修行者自身の内部に向かっていく当初の仏教から派生し、多くの人を救う利他をポイントとした大乗仏教も生まれる。中国を経由し日本にも大乗仏教が伝わる。
仏教では、「病老生死」の四苦があり、「愛別離苦(愛する人との別れ)、怨憎会苦(憎む相手と会う)、求不得苦(求めるものが得られない)、五蘊盛苦(五感と心の働きによる苦)」を加えた八苦をどのように逃れるかを主題としている。釈迦は、そのためには煩悩を捨て、最終的には輪廻からも抜け出し涅槃に至ることを目的とする。
日本では聖徳太子の時代に、国家体制の平定と共に仏教が定着していった。平安時代以降の戦乱期に、大乗仏教に神秘的要素を加えた密教系の天台宗、真言宗が広まっていく。江戸時代には国民管理の目的と結びついた檀家制度により民衆の生活にさらに深く入り込んだが、現在では「葬式仏教」としての位置づけが定着している。
後半はダライ・ラマとの対談で、東日本大震災の直後だったこともあり、日本人としてこの震災をどうとらえどうやって乗り越えていくべきかを問うている。
ダライ・ラマは震災は因果応報とは言えないこと、日本のすべてが破壊されたわけではないので、希望をもって立ち向かうべきことなどを述べている。
【感想・考察】
仏教の考え方は難しいところが多いが、池上氏の解説はシンプルにまとめられ分かりやすい。キリスト教など一神教が「神の栄光をこの世界に示すため」に積極的に布教し、よりよい生活を実践するのに対し、仏教は「生きることは根本的には苦しみだから、輪廻から抜け出そう」というかなり消極的な方向性だという対比は、分かりやすい。日本や中国韓国といった東アジア人でどこか共通していると感じるのは、利他をベースとした大乗仏教的な素養があるからなのだろうか。
【オススメ度】
★★★☆☆
六花抄
この作者さんの「静かな月夜」シリーズの不可思議な世界観が好きでした。この作品も、夢の中にいるみたいに現実から遊離した不思議な感覚に浸ることができました。面白いです。
【作者】
赤井五郎
【あらすじ・概要】
主人公のニコウはガコウと共に久賀爺の指導の下、千鶴江の家の使用人として働いていた。ニコウは千鶴江に淡い恋心を寄せる。
千鶴江には不思議な力があるとされ、祭りのときに村人の誰か一人の願いを叶えるという。今年の祭りが終わったあと、ガコウは急に怒りをあらわにし姿を消してしまった。
ニコウは、千鶴江と竹籠職人ゴザメと消えたガコウを探しながら、この村で行われてる祭りの意味と千鶴江の立場を理解することになる。
【感想・考察】
ニコウやガコウには食べてはいけないものがあったり、血を飲んだり、ちょっと不自然なところが、最初から出てくる。千鶴江の極端にクールな雰囲気や指の冷たさなども描写されている。「まあ何かの仕掛けがあるのだろうな」と思って読み進めたが、一番最後になって理解できたときには、伏線が回収されたことよりも、代々続くニコウたちの切ない境遇と、そのひたむきな思いに胸を打たれた。また印象深い作品です。
【オススメ度】
★★★★☆
これからの政治をゼロから考えよう おだやかに民主主義を取り戻すための5つの論点
行き詰っている感のある「民主主義」に未来はあるのか、幅広い視点からてみ提言している本です。短いですが内容は凝縮されています。
【作者】
佐々木俊尚
【あらすじ・概要】
以下の5つの論点から民主主義について語る。
論点1:権力は強大なのか
21世紀に入り権力構造が変化してきている。大きな権力というよりネットワーク的な相互作用で世界が動くようになっているという見方をしている。
論点2:誰が正義を決めるのか
自分の正義に固執し、議論が成り立たないような状況が増えている。民主主義は「多数決」が鍵なのではなく、そこに至るまでの「議論」に意味がある。「正義はフェアであることが必要だと」し、ジョン・ロールズの「正義論」から、以下の点を挙げている。
・基本的に人は自由
・平等であるためチャンスは誰にでも与えられる必要がある
・一番困っている人が「今のところ不平等でも、その方が平等であるより暮らし向きが良いので、不平等でも構わない」と考えたときだけは不平等が許される。
論点3:助けられるのは誰か
守られるべきは弱者だが、悪平等となり「伸びゆく人」を押さえつけてはいけない。「伸びゆく人」に十分機会を与えながら、その成果を社会に還元するような仕組みを作ることが必要。
論点4:誰が政治を担うのか
低成長の状況下で従来の「政治・官僚・マスコミ・業界・市民」のダイナミズムが変化している。ポピュリズムは極端に振れがちだが、見逃されていた弱者が発見されることもある。タレントのコメンテイターが分かりやすく善悪を述べるよりも、隠れた弱者を見出すような自由な議論が必要。
論点5:民主主義に未来はあるのか
政治は感情に走りやすいので、リーダとなる人は感情・理論に加え信頼を重視する必要がある。思想的リーダと市民の相互信頼を築き上げていけば、現代に即したより良い民主主義は可能。
【感想・考察】
元新聞記者として政治的発言には、自分の正義を振りかざす人の感情的な反感を引き起こしがちであることを体験しているのだろう。相互信頼を得てから、理論を出して議論すべきというのは、先日読んだ弁護士の本にあった「まず感情に対処し、次に理論で説得し、最後にも相手の感情を処理する」という流れに近いものを感じる。
ネットワークの相互関係が世界を動かすと考えると、非常に複雑でシンプルな方法でコントロールすることは難しい。実際には小規模の集団でも十分に複雑な力学で動くので、大きな組織をシンプルに操作することは現実的ではないのだろう。
であれば、ネットワークのインフラを握る部分と、非常に抽象度の高い部分で思想的リーダとなる人が重要になるのだろうか。
【オススメ度】
★★☆☆☆
神様のカルテ0
神様のカルテ1~3の登場人物たちのプロローグのような作品です。真摯に生きる主人公たちの生き方に心打たれ、水墨画のように静謐に描かれた信州の風景に圧倒されます。素晴らしい作品です。
【作者】
夏川草介
【あらすじ・概要】
神様のカルテの前日譚となる4つの中編。
・有明
一止たちが医学部で国家試験を目指している時期の話。
一止の友人辰也の視点で語られる。一止と辰也の三角関係など、それまでのシリーズ作品にあった出来事が別の視点から書かれている。
社会人を経験してから大学に入り医師免許を取ろうと奮闘している シゲさんや、元カレに惑わされる まどか たちを通して、一止と辰也の変人なりに誠実な生き方が見られる。辰也の視点から見る一止は格好良すぎる。
・彼岸過ぎまで
神様のカルテシリーズの舞台となる「本庄病院」の話。
事務局長として採用された金山は病院の経営を立て直すために、入院期間の短縮などに取り組む。
金山の金勘定ばかりを優先させる姿勢に、本庄病院 古株の 乾先生、大狸先生、 古狐先生たちは衝突を繰り返す。しかし金山は圧倒的な経営手腕を発揮して、数十億円もする最新鋭の設備を導入し、医師たちが最高のパフォーマンスを出せることを目指していた。
大狸先生たちは、自分たちとは違う形で医療の理念を追い求める金山を、共に戦う仲間として認めていく。
・神様のカルテ
一止が研修医として本庄病院に赴任した直後の話。
一止が初めて胃カメラ検査を行った患者は胃癌を患っており、状況も悪いことから早急な抗がん剤治療が必要だった。しかし患者は娘の結婚式がある1か月後までは治療を待ってほしいと言った。
一止は患者の意志を尊重し治療開始を延期したが、自分の判断に自信が持てない。指導医である大狸先生は「神様が書いたカルテで人間の命は決められている。医者が命の形を作り替えることはできない。限られた命の中で何ができるかを真剣に考えることだ」といい、一止の判断を支える。
・冬山記
榛名が一止と出会った直後の話。
雪山で滑落した男は、足を骨折し身動きが取れなくなっていた。離婚を迫られ帰る場所もなく、雪の中で生きる気力を失っていた。
登山写真家である片山榛名は、山小屋に辿り着いていない男を心配して吹雪の中を一人捜索し、男を見つけて小屋まで連れていく。
小屋にいた夫婦は、自分だけがつらいのだと考え、生きる意志を失った男を軽蔑していた。しかし榛名が男に「私も帰る場所がないと思っていた時期があった。帰る場所なんて、自分で作るものだ」と伝え、男は生きる気力を取り戻していく。
榛名が一止に「帰る場所」をもらったことを反対の視点から描いている。
【感想・考察】
この作者の作品が好きだ。
まず景色の描写が美しい。時には静けさを讃えた水墨画のように、時には心に刺さる色鮮やかな写真のように、風景が眼前に迫ってくるような迫力がある。その景色を味わうだけでも素晴らしい作品だと思う。
また、登場人物たちがそれぞれに違う立場で、それぞれに誠実に生きている姿に励まされる。神様のカルテ2で出てきた「良心に恥じぬことだけが、我々の確かな報酬である」という言葉のように、自分自身も良心に恥じぬ生き方をしたいと思わされる。
胃癌に罹った元国語教師が「小説は良い。小説を読むことで他人の考え方を創造することができる。優しさとは想像力だ」と語る。このシリーズでも登場人物たちはそれぞれが違う立場で、違う理想をもって生きているが、自分だけの正義に囚われず、他人の理念を理解しようとする優しさがある。
正義や理念は人それぞれだが、「絶対的な正義などないから相対的な生き方で良い」ということではなく、真摯な姿勢で理念・良心を追求しているのであれば、自己も他者も尊重して生きることができるのだと感じられる。
【オススメ度】
★★★★☆
日本サイバー軍創設提案: すでに日本はサイバー戦争に巻き込まれた
現代の戦争は物理的な武器での戦い以前に、サイバーで勝敗が決しているという話です。苫米地氏というのは認知心理学から宗教・ハッキングの技術まで著作の範囲が広いですね。
【作者】
苫米地英人
【あらすじ・概要】
サイバー世界での戦争が実際に起こっているが、日本は圧倒的に遅れているという。
現実にNSA(アメリカ国家安全保障局)はイランのウラン濃縮プラントのコンピュータにハッキングし、遠心分離機を破壊することで、その後の6ヶ国交渉を有利に進めた。ここで使われた「スタックスネット」はアンチウィルスソフトを乗っ取ることで高位の権限を入手し、完全に支配することができていた。
中国のサイバー攻撃能力は飛躍的に上がっている。人海戦術による大量のAPT(標的型攻撃)と、ゼロデイ・ウィルスの組み合わせ、米国企業などを攻撃している。
また、COTS(Commercial Off-The Shelf)の流れで軍事施設などにも、汎用ハード・ソフトが使われるようになってきて、より攻撃側に有利な状況になっている。外部ネットワークから遮断している場合でも、人的な脆弱性を突く攻撃が行われている。
一方で日本は国も民間もサイバー防衛の必要性が認識されておらず、極めて無防備な状況。スマートグリッドや IoT、公衆無線LANなどリスク要因は増加してきている。
苫米地氏は日本政府が十分なサイバー防衛予算を投入し、本格的なサイバー戦争に備えること、ブラックボックス化された日本独自のOSを開発すべきこと、などと提言している。
【感想・考察】
例えば「お金」のことを考えてみても、印刷された紙幣を見る機会は減り、給与振込をネットバンキングで確認し、クレジットカードからチャージした電子マネーを店頭で使うような流れになってきている。実際にオランダでは現金の使えない店が多い。
こういう状況でネットワークを支配できれば、改ざんされた履歴自体残さないような改ざんができれば、根本的に経済を混乱させることが可能だろう。にもかかわらず、リスク意識が低いというのは間違い無いと思う。
利便性とセキュリティのトレードオフで便利さを取りたいと思う方だが、依存度が高まり不可欠なインフラとなったところで、攻撃を仕掛けられるのは本当に怖い。まずは自分の周りから防衛していこう。
【オススメ度】
★★★☆☆
本来無一物: 恵能宗入門書
著者が中国赴任時代に禅宗に触れ、六祖恵能の教えを研究していった流れが掛かれています。禅宗の教義について語るというよりも、著者自身の備忘録という感じでした。
【作者】Aは
若島宏造
【あらすじ・概要】
中国禅宗の6代目の祖である恵能禅師の教えを紐解くうちに、「六祖壇経」を読み、そこに流れる「空の思想」を理解するため「般若心経」について学んだ著者自身の軌跡を残した本。
恵能が六代目の祖となった経緯として、もう一人の後継者候補であった神秀は、肉体や心の「実在」から離れることができず、恵能は「金剛経」を聞いた瞬間に理解したというエピソードを紹介している。
恵能は人間の心は本来仏性を持っており、善悪や良否に囚われない心で、全ては空であることを掴めば、自ら帰依し仏性を得ることができるという。仏は外部でなく内側にあり、誰の中にもあるとする。
著者はこの方法を「頭の知識に捉われず、心の智恵に従う」と解している。棒高跳びのため棒は必要で「文書化された教え」などは助けになるが、飛び立つ瞬間は棒から手を放し、飛ぶことに集中しなければいけないと例えている。
恵能の教えは頓教で、細かい戒律に縛られなくても、理解すれば即悟ることができるとしており、中国人の現実主義的な気風にあったのだろうと著者は分析している。
【感想・考察】
著者自身の中国広州赴任経験など自伝的内容が結構多く、寄り道が多すぎると感じるかもしれない。1980年代の中国の様子など、それ自体は面白い話なのだが。
「空」の考え方は論理ではつかみ切れず、苦戦している。色々な人の書いた本を読み重ねていくうちに理解できるのだろうか。やはり頭でっかちはダメなのだろうか。
【オススメ度】
★☆☆☆☆
正しいツボの見つけ方・押し方
ツボの探し方を丁寧に図解してくれている本です。ツボの位置は当たると「痛気持ち良さ」で分かるのだけれど、言葉や大雑把な図解だけでは見つけにくいので、ここまで懇切丁寧な図解は役に立ちました。
【作者】
福辻鋭記
【あらすじ・概要】
骨を基準とした探し方。人それぞれに違う指の幅を尺度とする探し方を基準に、大きな図でツボの位置を説明しています。
まずは万能ツボとして以下を紹介。
・頭頂部の百会(頭痛、不眠などに特に有効)
・後頭部髪の生え際で僧帽筋上端の天柱(肩こり、集中力改善)
・肩の中央の肩井(肩こり、疲れ目など)
・へそから指4本分上の中脘(胃腸の改善、抗ストレス)
・親指と人差し指の骨の合わさる合谷(目や鼻、肩こりなど万能)
・膝の外側下端から指4本分下がった足三里(疲労回復、冷えの改善)
・内くるぶしから指4本分上の三陰交(血行促進、生理不順など)
・膝の内側のシワの先端の曲泉(血液循環の改善、下痢生理痛など)
・足の中央から少し指側寄りの湧泉(新陳代謝の改善、高血圧、不眠など)
・ウエストライン指2本分下、背骨から指2本分外の腎兪(腎臓)
その後に、疲れや頭痛鼻づまりなど、個別の症状に応じたツボや、美容や体質改善に効果のあるツボも全て写真付きで紹介している。
【感想・考察】
寝違えに効くという「落枕」が超絶気持ち良く、重い酸痛が首まで響く。この情報だけでも99円の価値はあった。(人差し指と中指の付け根の丸い骨の下端を結んだ部分、図がないと説明しにくい。。)
こういう情報は大体はネットで調べられるが、書籍であれば情報がまとまっていて、オフラインでも見られるのは大きな利点だ。筋トレなど動的な情報は動画サイトには敵わないが、まだまだ書籍の存在価値もあるのだとは思う。
【オススメ度】
★★☆☆☆