マンガで分かる心療内科 アドラー心理学編
【作者】
ソウ/ゆうきゆう
【あらすじ・概要】
アドラー心理学の中心となる考え方を抽出し、ゆうき先生の解釈を加えわかりやすく説明している。項目として以下のポイントを挙げている。
・「原因論」ではなく「目的論」
何かの原因で今の現象があるのではなく、何かの目的のために今の現象を選択している。例えば「過去に誰かにいじめられたトラウマで人との交流がうまくいかない」のではなく、「人と交流しないことで傷つくことを防げる」から「自分の意思」で「うまく交流できない」ことを選択している、という考え方。
「原因論」であれば過去に起こったことに縛られてしまうが、「目的論」で考えれば、正しい目的設定ができれば、自分を変えることができる。
・感情には「目的」がある
感情も目的のために自分が選択している。例えば「抑えがたい怒りの感情」というのは幻想で、「誰かを責めて優位に立ちたい」とか「怒鳴ってストレスを発散させたい」から怒りの感情を「意図的に」選択しているとする。
・劣等感はエネルギー
劣等感と直接向き合わず「劣等コンプレックス」に陥ると、「自慢」や「嫉妬」など、成長に向かわない方向にエネルギーを使ってしまう。自らの「不完全さ」を認め、行動をしていくしかない、とする。
・人は対等
褒めることは上から目線。褒めるのではなく、相手の良い面を見つめ、感謝の気持ちを「アイ・メッセージ」で自分の気持ちとして伝える。
・他者を信頼し貢献する
人の悩みは全てが人間関係に依るものだとして、人間関係の中で重要な点として、「他者信頼」、「他者貢献」、「自己受容」を挙げている。
自分は完全ではないし、他者もそれぞれ完全ではない、それぞれが問題を抱えながら成長しようとしていることを感じ、他者を信頼すること。また自己の存在意義は他者への貢献で自覚できること。他者信頼と他者貢献を通じ、人を心から信頼しその人の役に立っていると感じることで、自己を受容できるようになる。
・課題の分離
「自分の課題」と「相手の課題」を分けて考えること。相手の課題を自分が抱え込んでは自分のためにも相手のためにもならない。また自分の課題に相手が立ち入ることも断固として拒否すべき。
・嫌わらても気にしない
全ての人に認められることはできない。相手のためと思って行動しても受け入れない人も必ず一定数はいる。全ての人に対し八方美人になっていては誰に対しても貢献できない。一部の人には嫌われることになっても、自分が良いと信じた他者貢献は積極的にしていくべき。
・自分をレベルアップさせる
ゆうき先生独自の解釈だが、他者から感謝を受けたり、人を幸せにしたぶんだけ自分が成長したと考え、ゲーム的に「レベルアップ」したと捉えることを提言している。性格を変えるのではなく、「ライフスタイル」を変え自分のできることで世界に貢献していくことが、自分の成長であるとする。
・大事なのは「今」、「ここ」
様々な口実を作って今やるべきことをしないのは「人生の嘘」だとしている。「過去にこんなことがあったから今できない」とか、「どうせ将来はこうなるから、今しても意味がない」など、過去や未来に縛られるのではなく、今このときを全力で生きることが大事だとする。
【感想・考察】
「嫌われる勇気」 を読み、アドラー心理学に興味を持ったが、理解しにくい部分もあったので、マンガで説明されている本書を読んでみた。この本はだいぶ前にも読んだことがあり今回は再読だが、非常によく理解できた。前回読んだときは「当たり前のこと」を当たり前に言っているだけとしか捉えられなかったが、別書籍で関心を深めアウトラインを把握してから読むと、段違いに頭に染み込んでくる。本の種類によるが、マンガの概説本は入門書として読むよりは、ある程度内容を把握した後のまとめとして読む方が有意義なのかもしれない。
エヴォリューションがーるず
【作者】
草野 原々
【あらすじ・概要】
進化をテーマとし古代生物を擬人化した「エヴォリューションがーるず」というソシャゲにはまり、生活の全てをつぎ込み課金に埋もれていった洋子が主人公。
宇宙の始まりの描写から急にソシャゲの説明に移るが、ソシャゲをキーとした異世界転生もので最後にうまくまとめられている。
宇宙はエントロピーを増大させ徐々に死にゆくもので、進化は結果の決まったチューリングゲームだが、魂という決定論を打ち破る「自由意志」をもたらす異質なものであるとみている。決定論は「自由意志」を課金ガチャが吸い上げる仕組みを作り上げたが、洋子は転生を繰り返し「自由意志」が打ち勝つ宇宙にたどり着く。
【感想・考察】
宇宙の起源の描写にはかなりの知識があると思わせる。ソシャゲの仕組みもよく理解していて物語にうまく絡めている。「ソシャゲをテーマにしたアニメ」は完全に「けものフレンズ」のパクリだったり、最近の社会風俗を取り入れつつ、スケールの大きなSFとしてストーリをとめる筆力は素晴らしいと思う。
キャラの描写には入り込みにくいし、グロい描写が多くて引く部分もあるが、斬新な作風で楽しめた。
東大生が書いた世界一やさしい株の教科書
【作者】
東京大学投資クラブAgents
【あらすじ・概要】
株式投資の入門知識を、大学生と先生の講義形式で解説していく本。
「そもそも株とはどういうものか」から始まり、株価変動の仕組み、投資対象の選定方法まで具体的に解説してく。
まず株のメリットは、・配当・キャピタルゲイン・株主優待・議決権 等があるが、大きいのはキャピタルゲインであるとする。
また、投資対象決定のための分析手法として、ファンダメンタル分析とテクニカル分析を説明している。ファンダメンタル分析は企業の財務状況や収益力などの「実力」を評価する手法、テクニカル分析は値動きなどのパターンから予測して対象を決める。
ファンダメンタル分析では、P/LやBSといった基本的なものから、PER(株主収益率)、PBR(株価資産倍率)、ROE(自己資本利益率)などの代表的な視点を紹介している。
テクニカル分析の知識として、上値の抵抗線や下値の支持線の見方、チャートのローソク足の意味などを紹介。原則的にはファンダメンタル分析を重視することを推奨しているが、基本的なテクニカル分析の手法は理解しておくべきというスタンス。
株価を上下させる要因として、様々な経済指標や金利・為替の影響などを説明し、社会状況を広く知ることが株式投資に役立つし、裏返って株式投資について学ぶことで社会・経済について深く学ぶことができることから、株式投資を進めている。
具体的な銘柄をいくつか挙げ、強み弱みを討議する中で説明した内容の復習となるよう構成している。最後にはいくつかのクイズ形式での出題もあり、初級レベルとはいえかなりの知識が身につく。
【感想・考察】
ごく初歩的な内容から説明しているし、講師と生徒の会話をベースに進むので非常に読みやすいが、初心者に必要な項目を網羅している。これから株式投資を始めようという人にとって、この本だけでは不足があると思うが、ベースとなる考え方を身につけるために読んでおくとためになる本だと思う。
天久鷹央の推理カルテⅤー神秘のセラピスト
【作者】
知念 実希人
【あらすじ・概要】
天久鷹央シリーズの第5作となる短編集。
「雑踏の腐敗」:「人混みに入ると体が腐る」と訴える青年の話。田舎から出て姉と暮らす青年が渋谷の人混みで体が末端から腐ると言う。人混みを離れると症状がなくなるため、パニック障害によるものと診断されたが、鷹央は青年の訴えを真摯に受け取り診断する。
「永遠に美しく」:70歳を過ぎた女性が突然若返った。「気」を使い細胞を活性化させたという整体師のトリックを暴くと同時に、その女性の病気にも気づく。
「聖者の刻印」:2度にわたり白血病を再発した少女の母親は、骨髄移植による治療を拒む。母親は「預言者」の「骨髄移植を行わなければ必ず治る」という言葉を信じ、頑なに治療を認めない。鷹央は血の涙を流し、手のひらに十字架を浮かび上がらせる「聖蹟」のトリックを暴くため奔走する。
【感想・考察】
最近この作者の作品を色々読んでいるが、このシリーズが最もラノベ的な軽さがある。医療モノとして医学知識を必ず組み込んでいてミステリとしても工夫されているが、相当デフォルメされたキャラたちの掛け合いを楽しむのが正しい読み方だろう。
単純に楽しく読める作品だった。
魔法の色を知っているか? What Color is the Magic?
屋上のテロリスト
【作者】
知念 実希人
【あらすじ・概要】
1945年、終戦受け入れが数ヶ月遅れたことにより、アメリカとソ連に分割統治され、西日本共和国と東日本連邦皇国に分断した日本の if ストーリー。
死に魅入られた男子高校生「彰人」と、その自殺を止めた同級生の女子高生「沙希」が主人公。彰人はアルバイトとして先の企てた「テロ」に関わり、徐々にその全貌を理解していく。
東西日本の統一を願う両国首脳、現政権の弱腰を嘲笑いクーデターを狙う軍部、デモを主導する活動家たちと、沙希たちテロリストの駆け引きが緊迫感を持って描かれる。
【感想・考察】
知念氏の作品では珍しく、医療ネタではなく政治・軍事抗争が主体となる小説。緊迫感のあるストーリー展開だが、キャラクタの抜け感はいつも通りで気持ちよく読める。
太平洋戦争の終結が原爆投下から数ヶ月後になった場合、ソ連が日本北東部を占拠していたことは十分あり得る展開だっただろう。その場合、ドイツや朝鮮のような形で日本が国として分割される可能性は低くなかったと思う。分断されなかったことと分断された場合のどちらがより良い状況なのか、仮定の話では分からないが、分断が原因となる悲劇は確実にあっただろうし、それが回避できたことは良かったと言えるのだろう。
彰人の視点で沙希の仕掛けた「手品」のタネが徐々に明かされるところは面白いし、全体のプロットがよくできていると感心したが、それ以上に良いのはキャラクタの描き方だった。とくに花火師の言う「粋」という感覚は美しい。明文化するのは難しいような、文化的、道徳的、社会的な 良し悪しの判断基準があって、そういう雰囲気を共有できることが一つの文化圏だということなのだろう。合理的な説明はされずとも「粋じゃねぇ」と言われれば納得できるし、そういう非言語の基盤というのはとても強いものなのだとも思う。国家分断の話の中に「粋」を持ち込んだのは粋だと思う。
0秒思考
【作者】
赤羽 雄二
【あらすじ・概要】
A4の紙に、思いついたことを制限なく書いていくだけで、思考能力を成長させることができるという話。
人間はそもそも頭が良いものだが、学校教育や社会生活のしがらみを経て徐々に思考能力が硬くなってしまう。思いついたことをどんなことでも制限なく紙に書き出すことで自ずと思考が整理される。また思考を言語化する訓練を重ねることで論理的思考力が向上するとしている。
やり方はシンプル。A4用紙を横にしてタイトルと日付を書き、思いついた項目を4から6項目書く。固有名詞なども省略せず誰にも見せない前提で気兼ねなく書く。スピード感が大事なので、1枚あたり1分以内で書く。思いついたらどこでも書けるように神は常に持ち歩くのがいい。1日10枚は書くようにする。以前書いた項目と重複しても気にする必要はない。内容は簡単に分類しフォルダに入れておく。
【感想・考察】
提唱している内容自体は非常にシンプル。一冊の本にはなっているが核となる内容は単純なもの。1ヶ月ほど試してみようと思う。