純喫茶「一服堂」の四季
【作者】
東川 篤哉
【あらすじ・概要】
四季になぞらえ春夏秋冬の4編からなる短編集。
純喫茶店「一風堂」を経営する度外れた人見知りの店主、安楽椅子(ヨリ子)は優秀な安楽椅子探偵だった。一服堂に集うミステリー作家や刑事やOLなどが語る「猟奇殺人事件」の謎を話を聞くだけで解決してしまう。
「春の十字架」
十字架に磔られた被害者の謎を解く。十字架が作り上げた密室。
「最も猟奇的な夏」
これも十字架に磔られた死体。夏の風景が浮かぶ叙情的な作品。
「切りとられた死体の秋」
売れないミステリ作家と売れっ子ミステリ作家のお話。「ユリア」とは誰か。
「バラバラ死体と密室の冬」
ちょっと品のない密室ミステリ。
【感想・考察】
同じく東川氏の作品である「謎解きはディナーのあとで」の執事と同じく、「敬語で毒舌」というのが面白い。あるいは別作家の作品だが「ビブリア古書堂の事件簿」の栞子さんのように、人見知りだけど事件の話を聞くと突然スイッチが入ったりと、「キャラクター探偵もの」とでも呼ぶべきフォーマットを踏襲している。しかしながら、扱う事件はグログロした猟奇事件だったり、最後に仕掛けた叙述トリックで続編の道は閉ざしたり、そういったシリーズ化は考えていないようだ。
安楽椅子探偵ものは、口頭で伝えられたことが全てで、地の文に何かを仕掛けることができないので、犯人当てミステリとしては意外感を出すのは難しいのだと思った。「Who Done It」は分かりやすい。
東川氏の描くキャラが好きな私には楽しめたが、ミステリとしてはまあまあ。
アナタはご本人様でいらしゃいますか〜動的平衡の中で考える〜明日の日本人たちへ
【作者】
福岡 伸一
【あらすじ・概要】
「生物と無生物の間」を研究対象としている生物学者による「未来授業」というラジオ企画の講義を本にまとめたもの。
自分は何人で何人種か、何人というのは主観が決めるのか、他者との関係性から決まってくるのか。
自己同一性は何を持って保たれるのか。人体を構成する細胞は数年でほぼ入れ替わる。記憶が本質だとしても記憶の正確性をどのように担保できるのか。というような疑問を受講者に投げかけ考えさせている。
分子生物学的に見れば客観的な自己同一性はありえず、他者との関係性が本質ではないかという見方をしている。要素と要素の関係性、その動的平衡の中に本質があるのではないかという捉え方。
生命は全ての可能性を最初から備えていて、時間をかけて過剰さを刈り取っている、そこから得意不得意が出てくるという考え方も示している。
【感想・考察】
自分が自分であるとする根拠は何であるのか非常に難しい。たとえば10年前の自分と今の自分が同一の存在であることの根拠としては、「記憶」が最も重要だと考えていたが、記憶を失ったら自分は自分ではないのか、記憶を部分的に忘れたり、記憶が変形しりしたら自己統一性は保たれないのか。そう考えると今の自分と10年前の自分は相当に異なるし、ある意味別人と言えるだろう。
関係性を根拠としても、周囲との関係は常に流動的で変わっていくものだが、自分は変わり得る、変えてもいいというのは希望でもあるという提言は極論ではあるが、一部納得もできる。
自己について考えさせられる本。
パッとしない子
【作者】
辻村 深月
【あらすじ・概要】
男性アイドル佑の小学生時代に図工を教え、その弟の担任だった女性教師 松尾が主人公。
小学生時代の佑と直接の関わりは少なく目立った印象はなかったが、芸術面の才能を発揮する機会を与えたとの記憶はあった。佑が母校で撮影する企画で松尾は佑と話す機会を持ったが、自分の意識と佑の受け取り方のギャップの大きさや、教師が生徒に与える影響を知ることになる。
【感想・考察】
この作者は、ストーリー上で大きな展開があるわけではなく、デフォルメされていない生々しい人間関係の怖さを描き出すような話が多いように感じる。相手の言葉がナイフのように突き刺さり鳥肌が立つ。今作では最後にミステリ的な落ちもついていてさらに後味が悪い。
リアルな人間関係の怖さを垣間見れる作品。
嫌われる勇気
【作者】
岸見 一郎、古賀 史健
【あらすじ・概要】
自分に自信がなく生きることに悩む”青年”と、アドラー心理学を信奉する”哲人”の対話形式で進む本。非常に内容が濃い。
・原因ではなく目的によって状態は発生している。
例えば、「過去に起こったトラウマを原因として人間不信が起こるのではなく、人との関わりで傷つきたくない、人との関わりを避けたいという目的があるから、人間不信の状態であることを自ら選択している」と捉える。
過去に起こったことの結果であれば、動かしようがないが、自ら設定した目的によるものであれば、自分で買えることができる。
・「何を持っているか」ではなく「どう使うか」
与えられた条件の中でできることをしていく。自分に変えられないことは変えられないが、それでも自分の意思でできることはある。
・課題の分離
自分が対処できる自分の問題と、自分には解決できない他者の問題を分離し
自分の問題だけを扱う。他者の問題に踏み込んではいけない。
・全ての悩みは人間関係による
嫌われる勇気を持つこと
誉めることは他者を下に見ている、対等な関係で感謝を示す。
行為のレベルではなく存在のレベルで必要とする人がいる。
・幸せになる勇気を持つこと
自己肯定感、他者貢献が自分の肯定感につながる。貢献する「他者」は世界であり全宇宙。
・「幸せとは何か」という哲学ではなく「どうすれば幸せになるか」という方法論。
【感想・考察】
極めて内容が濃い。対話形式というのは思索を深めていくのには適しているが、それでも体系的に理解するのが難しい。微妙な観念を元に論理を積み上げていて、順序良く丁寧に理解しないといけない。この本は再読するか、類書を何冊か読んで理解を深めたい。
出口 汪 のマンガでわかるすごい!記憶術 本当に頭が良くなる一生モノの勉強法
【作者】
出口 汪
【あらすじ・概要】
頭が悪いから覚えられない、ということはあり得ない。ものは忘れるものという前提で、記憶を定着させる記憶術を駆使することで記憶力は高められる。
理解できていないことは覚えることができない。まずは理解が先行するので読解力、論理を理解する力が大事だとしている。論理の基本としてイコール関係、因果関係、対立関係に基づくと理解しやすくなる。
理解-記憶-実践(記憶した知識の活用)を繰り返し定着させる。
記憶には4段階あり、
①ファミリア-観念に馴染む、聞いたことがあるレベル。
②リコグニション-認知するレベル。
③リコール- 必要に応じて思い出せるレベル。試験で記述する英単語など。
④オートマチック- 意識せずに取り出せるレベル。会話レベルの英単語など。
全てのことを④に持っていく必要はない。必要に応じて習熟度を上げていくこと。
睡眠する時間に記憶は整理されるので、十分眠ることが大事。
【感想・考察】
マンガと文章が半々くらいで、読みやすく頭に入りやすい。「理解できないものは記憶できない」のは当たり前だが大事なことだと思った。新鮮味はないが役に立つと思われる本。
朝のコーヒー、夜のビールがよい仕事をつくる
【作者】
馬渕 知子
【あらすじ・概要】
コーヒー・ビールはうまく取り入れると健康に良く、生産性を高めることにも役立つとする内容。特に印象に残ったのは以下の項目。
・コーヒーは飲む時間が大事。
朝一番は覚醒ホルモンであるコルチゾールが分泌されてる。この時間にカフェインで目覚めようとすると、コルチゾールの分泌に問題が生じたり、耐性ができて効きが悪くなったりする。午前10時ごろ、コルチゾールの濃度が下がる頃に飲むのが良い。
また残業中の眠気を醒ますために遅い時間に飲むのも、夜の睡眠を阻害するためによくない。残業に入る前の5時から6時くらいに飲むのが良い。
カフェインは脂肪を血中に遊離脂肪酸として放出する効果があるため、運動する10分から30分前にコーヒーを飲むと脂肪を消費しやすくなる。
・食べ物との組み合わせも大事
極力砂糖は入れないほうがいい。入れるとしたら黒糖の方が良い。コーヒーを飲んだ直後に菓子パンなどを食べると、カフェインがインシュリンがブドウ糖を取り込む機能を阻害するため、血糖値が下がりにくくマイナスの効果をもたらす。
・ビールは糖質を含むが、糖質の代謝を助ける栄養素も豊富に含んでいるため、一緒に食べるつまみでカロリー過多にならないよう気をつければ、それほど太る原因とはならない。
・アルコールの分解には水を必要とするので、ビール1杯に対しチェイサーの水1杯を飲むようにするといい。
・アルコールを飲んでから3分くらいすると肝臓に刺激が届き、分解の準備を始める。一口飲んだ後3分待ってから飲み始めると酔いにくい。
【感想・考察】
あまり新鮮味のない内容が多かったが、アルコールを飲むときは最初の一口から3分待つべきことなど、いくつか新鮮な情報もあった。
コーヒーは最近健康に良いという消化のされ方が多いが、ビールは糖質の高さやプリン体が痛風の原因となり得ることなどから、健康面では良い話を聞かなかったが、「適量であれば」それほど悪い影響もなく、健康のためになる部分もあるという主張も理解できた。
どんな食品・飲み物も適量であれば悪くはないし、度が過ぎれば害になるという当たり前のことなのだろう。
小さな習慣
【作者】
スティーブン・ガイズ
【あらすじ・概要】
何かを成し遂げたい時には、目標を「ばかばかしいくらいに」小さく分割して始め、習慣化するのが良いという話。
「1日に1回腕立て伏せをする」、「1日に50ワードの文章を書く」など失敗しようがないくらいの小さい目標を立て、100%の達成率でクリアする。必ずこなすことができるから達成できなかったことによる罪悪感が生まれることもない。
脳はできる限り同じことを繰り返そうとする。新しいことを始めるのはには意志の力が必要で、意志の力は限られている。モチベーションを高めて目標を高めようとしても、意志の力に頼っていてはいつか途切れてしまう。
小さい目標であれば、ほとんど意志の力を使わずに取り掛かることができるし、習慣化してしまえば、脳は自動的に繰り返そうとする。
目標をできる限り小さな行動に分割し、それができたら「成功」と判断する。目標が小さすぎて実際には目標以上の行動をこなせたとしても、目標は「絶対に」上げずに、当初の目標を上げてはいけない。「毎日ランニングシューズを手に取ること」を目標として設定したのであれば、実際には毎日500mは走ることができたとしても、目標自体はどんなことがあっても絶対に変えてはいけない。ランニングシューズを手に取ったら「絶対的に目標達成」なのだということが大事。
【感想・考察】
「小さなことから取り掛かる」、「良い行動は習慣化するまで続ける」という話はよく聞くが、この本では体系的に具体的に説明されていてすっきりと腹に落ちる感じがした。実際に小さな習慣付けを始めてみようと思えた。