足音にロック
【作者】
奥田徹
【あらすじ・概要】
ブラックな職場で働く主人公福岡は、ある時から自分に迫ってくる「死の足音」が聞こえるようになる。「息継ぎもせずに走り続けるような毎日」を惰性で過ごして居たが、少しずつ日常が動き出す。
両親が離婚しかけニグレクトされている隣室の少年「心」が自室にやってきて、長らく失っていた「人と一緒にいる」感覚を味わったり、職場の地味な女性「馬乃石」さんが、街の雑貨店で自然で美しい笑顔を見せていたり。
ある日無くなった財布が交番に届けられ拾いにいくと、無くした以上のお金が入っていた。届けてくれた女性「鈴音」さんに誘われ、今まで経験したことがないような、高級レストランや上流社会の社交場で、未知の世界に触れていく。
馬乃石さんや心との交流で「僕はどこかへ行くことが出来る。何かを選ぶこともできる」と感じていく。
【感想・考察】
冒頭の一節が好きだ。
『漠然としたイメージだけど、「丸くて温かくて柔らかなもの」を大事に抱え、それが「壊されないように」と、僕は願う。
純粋な物が傷つけられることがないまま、どうか幸せであって欲しいと。例えば、バス停で見かけたベビーカーの中にいる赤ん坊の柔らかな笑顔や、暖かな日差しに目を細め座っている犬。少し背伸びしてオシャレした少女の今日への期待。反応を期待して家族へお土産を買うサラリーマン。それらが、どうか「温かなもの」として、決してきずつけられませんようにと。』
息苦しい日常に追い詰められながら、傷つきやすい「温かいもの」を必死に守って生きて行く主人公たちは逞しく美しい。
「ラブ&ピース&フリー、僕たちは自由だ、ロックンロール」という「呪文」は心に残る。