P.F.ドラッカー 完全ブックガイド
【作者】
上田惇生
【あらすじ・概要】
ドラッカーの主要著作の大部分を翻訳し、日本においてその思想を広めてきた上田氏によるブックガイド。ドラッカー本人が著した全作品や、死後に編まれた関連書籍も含め全64冊を紹介している。
冒頭は糸井重里氏との対談。
糸井氏は「職人」として自分の技能に自信を持っていた時期は「経営」という言葉に反感を覚えていたが、徐々にチームで仕事をするようになり、マネジメントを意識するようになってドラッガーの言葉を重く受け入れるようになったと言う。
そのあとは上田氏がドラッカーとの関りを持った経緯を紹介。最初の翻訳の際に「わからないことは自分の机を通さない」という上司の教えを守り、細かいことまで徹底して問い合わせた。その真摯な態度がドラッカーの信頼を得、その後の協力関係につながっている。
その後は、ドラッカーの自著、関連作品の64冊を年代順に紹介している。各本の概要、目次や、主な作品については上田氏の論評を加えている。
・政治三部作
「経済人の終わり」、「産業人の未来」、「企業とは何か」
処女作である「経済人の終わり」で資本主義や社会主義といった経済のイムズは、社会的な目的を達成するための手段としての意味しかない。現在の経済社会の基礎を前提としつつ、自由で平等な脱経済至上主義社会を発展させなければいけない、とする。
続く「産業人の未来」では理想とすべき社会の在り方とその実現について述べ、「組織人として顧客を想像できる人」としての「産業人」を定義した。
「企業とは何か」では「企業が中心となる産業社会が成立する」と述べている。その前提として「企業と社会の価値観が共存し、企業が社会のための道具だと位置づける」ことが必要だとしている。
・マネジメント7作
「現代の経営」、「想像する経営者」、「経営者の条件」、「マネジメント」、「乱気流時代の経営」、「イノベーションと起業家精神」、「非営利組織の経営」
「現代の経理」で企業の機能はマーケティングとイノベーションの二つに尽きると断じ、顧客の創造という言葉を初めて使った。マネジメントの本質から経営者のなすべきことまで網羅されたマネジメント論。「マネジメント」ではマネジメントの役割として「自らの事業の使命を果たし」、「働く人を生かし」、「社会に貢献する」こととしている。それをマーケティング、イノベーションや、人材や条件としての利益など個別に落とし込んで論じている。800ページ超の大作であったが、上田氏が抜粋した抄訳、さらに厳選したエッセンシャル版が広く読まれている。
【感想・考察】
ドラッカーの残した言葉や思想の断片は、様々な場所で語られ聞いている。ただ他亜策であるため、何からどのように読むべきかの道しるべとなる本書のような手引きがあるとありがたい。また長くパートナーとしてかかわってきた上田氏のドラッカーへの熱い思いが乗っているため、無味乾燥なガイドとならず興味を引き起こしてくれる。
また、上田氏の翻訳のセンスにも感服した。例えば1000文字の英文を訳すのに日本語で数千文字になってしまうような、まどっろこしい訳をみると読みたくなくなるが、本質を拾い過不足なく絞り込んで、原文よりも短いくらいの文章で十分伝わる。俳句をたしなみ「削る」表現を身につけているということなのだろう。