毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

この国のかたち(3)

【作者】

 司馬 遼太郎

 

【あらすじ・概要】

  明治開国後、それまで西洋文化を吸収してきたオランダから、重点が急遽移ったこと、社(しゃ)という共同体の原型が今日まで生き続けていること、七福神はほとんどが外国生まれの神であること、明治後初めての官立学校である東京帝国大学の生徒の報国の精神など、前巻までと同じく幅広い内容に触れた歴史考察の本。福沢諭吉の脱亜論では、脱亜入欧の勢いがあまり、中国や韓国の主権を軽視する内容で今日にも遺恨を残していることも初めて知り得た。

 

【感想・考察】

 特に興味をそそられたのは、秀吉の変節についてだった。

 信長の臣下として活躍していていた頃や、信長の遺志を継ぎ国内の対立相手と戦い統一を果たした時期は、気遣いの厚さや、明るい人格が周囲を魅了していたと言われる。また、信長が手がけてた施策を次々と実施徹底させ、封建的な統治方法を廃し、農業でも商工業で極力直接支配していった手腕はとても鮮やかだった。

 ただ、日本国内に敵がなくなり、権力の頂点に立った後の秀吉には、熟しすぎて腐ったような気分の悪さを感じる。派手好きが暴走し悪趣味と思われるような文物を残し、国内統一の時の精緻さとはかけ離れた安易さで、大した意味もなく朝鮮に出兵したりと、行動に重みが感じられない。

 出自が高くなかったことが、一方では”這い上がってきた”才覚への自尊心に繋がる一方で、引け目となっていたのかもしれないし、長期にわたって自分を殺してきたものが、蓋がなくなって一気に溢れ出たのかもしれない。

 品格を保って生きるためには、自分を律する強さが必要なのだが、権力の頂点に立つ者が自己を律し続けるのは相当に高い精神性が求められるのだと思う。

 

 

 

君の膵臓をたべたい

【作者】

 住野よる

 

【あらすじ・概要】

 人と交わることを避け、全てを自分の中で完結させようとしていた男子高校生である主人公が、女子クラスメートの”共病文庫”を読み、彼女が膵臓を病み余命が長くないことを知ってしまう。「人との関わりこそが生きることだ」と言う自分と正反対の彼女に振り回されながら、徐々に距離を縮め人と関わりを持つことの意味を考えていく。

 思いがけない別れを経て、彼女の残した”共病文庫”に描かれた”遺書”を読み、彼女も人との関わりの中でしか自分の存在を見出せないことに苦しみ、主人公の対照的な生き方に敬意を抱き多くを学んでいたことを知る。

 彼女の思いを受け取り、人との関わりを持つことを諦めずに粘り強く進めていく主人公は、徹底的に嫌われていた彼女の親友と友達になって、彼女の墓参りを果たす。

 

【感想・考察】

 最初はまどろっこしい文体だと思ったが、中盤以降ストーリーに飲み込まれ一気に読了した。

 彼女の死は予定されながら唐突で、命の不確実性とそれゆえ時間はかけがえのないものであることがくっきり書き出されていた。

 また彼女の遺書を見るまでの主人公は【相手が自分をどう見ているか】を想像し自己完結していたので、名前は出されず【相手にとっての自分の相対的位置】を自分の名前としていた。一方で主人公は相手を名前で呼ばず、自分にとっての彼女の位置づけを完結できなかった、完結させたくなかったことが察せられる。

 タイトルの”君の膵臓がたべたい” というのはちょっと猟奇的で、どういう文脈で語られるのか興味をそそるフックとなった。彼女がホルモンやモツなどの内臓肉が好きというところはちょっと笑わせるが、中盤から終盤の両者の思いのシンクロには鳥肌が立つ。周りの人に優しくしたくなる話だった。

 

 

 

 

またやぶけの夕焼け

【作者】

 高野 秀行

 

【あらすじ・概要】

  昭和40年代頃の少年の日常を描いた作品。一学年上の”カッチャン” を中心に集まったカッチャン軍団が、八王子を舞台に冒険を重ねていく。ドブ川の源泉まで歩いて見たり、ミヤマクワガタ取りや野球で盛り上がったり、手作り感溢れるゴルフ場を作って遊んだり、時には少女漫画を読んで結婚や恋愛に興味を持ってみたり、現代よりも大分おおらかな時代を感じられる話。”カッチャン”が小学校6年に進級し、徐々に”軍団”が失われていく中で、限りある少年の日々の美しさを鮮やかに書き出した本だった。

 

【感想・考察】

  まだゲームなどが入り込んでくる前で、少年たちが近所で集まって、何だか分からないけれど、とても楽しかった少年の日々を思い出した。自分の少年時代よりは前の話だが、意味のないことが無性に楽しくて夢中になっていた時代の匂いを感じることができた。線路を歩くシーンなどでは和製 Stand By Me の様な雰囲気もあったが、日本に生きた自分にはこちらの方がダイレクトに伝わってきた。

 最後は戻らない時間を思い切なくなり、ただ楽しかった時代を思い出し暖かい気持ちにもなった。

 

 

黒猫の小夜曲

【作者】

 知念 実希人

 

【あらすじ・概要】

 ”優しい死神の飼い方” に続く死神シリーズ。前作の主人公である”レオ”と同僚の”高次な霊的存在” である道案内役が、猫の”クロ”となって未練を残して死んだ人々の魂を導いていく。

 死に際の”記憶をなくした” 地縛霊が、昏睡状態にある女性の体に入り込み、クロの仕事を助けながら、自らの記憶を取り戻そうとするところから話は始まる。

最初の章ではうまく心を通わすことができなかった老夫婦を救う話から入り、捜査途中で未練を残して世を去った刑事の話から、主人公たちを巻き込んだ事件の全貌が徐々に見えてくる。

 

【感想・考察】

 前作と比べて、ミステリー色が濃いが、主人公たちの交流が優しく描かれ、同じように心があたたくなる作品。登場人物がそれぞれ誠実に生き、自分以外の誰かを心から大切に思う姿がとても美しい。前作の死神”レオ”も、今作の”クロ”も 最初は”感情という不合理なものに振り回される理解不能な生き物” と人間を見ていたが、不合理で儚い人間に惹かれていくが、同時に読者としても改めて人間に惹かれている。

 良作だと思う。

 

この国のかたち(2)

【作者】

 司馬 遼太郎

 

【あらすじ・概要】

 全巻と同じく、歴史上の考察をいくつかの切り口から、作者自身の圧倒的な知識量と考察力から解説していく本。

 まず印象に残ったのは天領と藩領の話。幕府直轄領である天領は、ほとんどの藩領よりは税率が低かった。中央集権的な大勢でありながら、実態として特に軍事力などの面では地方の諸藩に力があったという見方。天領の住民の財政的余裕が濃厚な文化を醸成してきただろうということや、その後の日本の行政体制にも影響しているだろうことが述べられている。

 また、婚姻に関する話として、儒教の影響が圧倒的に強い韓国では同性婚が厳しく禁じられていて、中国でもやや緩やかではあるが同様。中国の唐代に日本で大宝律令が編まれたが、道教や宦官の制度は導入されず、同性不婚も入れられなかった。似たような文化圏ではあるが、結婚一つ取っても違いがあるという話。

 さらに13世紀ごろの文章語の話。日本の文章語は詩歌の分野から発達し始めたが、論理的な文章を書くのには適さず、公文書には漢文が使われていた。親鸞の「歎異抄」が明晰な文章の例としてあげられていた。

 

【感想・考察】

 小説でもエッセイでも同様だが、この作者が ”話はそれるが” や ”本筋から外れるが” などと言って触れる雑学がどれも面白い。雑多な話をばらばらにしているようだが、多くの著作や雑記に触れることで作者の歴史への見方が徐々に浸透してくる。歴史をもっと学びたいと思わせる本。

 

 

 

「思考軸」をつくれ あの人が「瞬時の判断」を誤らない理由

【作者】

 出口 治明

 

【あらすじ・概要】

 60歳になって独立系の保険会社 ライフネット生命を立ち上げた作者が、思考軸を持つことの大切さを語る本。

 直感を信じ即断していくが、直感のベースとなるのはインプットの幅と量を上げていくことが大事だという。ココ・シャネルの言葉として紹介していたが、毎日一つでも謎が解決されていけば、その分だけ決断はシンプルになっていく。新しいことを知れば知るほど、不確定要素が減っていくという考え方を紹介する。

 自分を開き、幅広い世界に触れ、自分自身の思考の軸を作ることで、どのような世界でも生きていくことができるというのが最大のテーマ。

 

 作者自身の思考軸の例として5つの項目を上げていた。

 ・人間は動物である

  人間は万物の霊長として特別な存在と自認しているが、行動の根本原理は動物であり、性欲・食欲・睡眠欲が支配している。そこをベースに考えると人の動きを理解しやすい。

 ・人間はそれほど賢くない

  人間は同じ過ちを何度も繰り返す。賢い人とそうでない人はいるが、その差も実は大したことがない。「人間はみんなちょぼちょぼや」という小田実の言葉を紹介していた。

 ・人生はイエス・ノーゲーム

  人生はイエス・ノーを選び進んでいくゲームのように選択肢によって進む方向がどんどん変わっていく。良い選択も悪い選択もあるが、「禍福は糾える縄のごとし」であり、その時の決断が良いか悪いかその時点では結論付できない。そう考えてその時点で最良の意思決定をするよう心がけていくのが大事だという趣旨。

 ・すべてのものは「トレードオフ」

  何かを得ようと思えば必ず何かを失う。何かを失う決意なしに何かを得ることはできない。このことを思考軸に据えておくことが大事だと述べる。

 ・「おおぜいの人」を「長い間」だますことはできない

  一時的に騙したり、ごく少数の人を騙し続けることはできるかも知れないが、大勢を長期に渡り余すことはできない。結局は正攻法で誠実に生きることが最良の選択肢なのだということ。

 

 また思考軸として、歴史的な時間を縦軸に、地域や文化などの広がりを横軸に捉え全体を見る努力が必須だとしている。

 

 思考軸を作るためには、幅広く大量のインプットが必要だが、そのために本を読み、昨日と違う経験を積み、新しい人と触れ合い、自ら辺境へ出ていく意気込みが必要としている。

 

 リーダーシップには、「やりたいことを持ち」、「旅の仲間を集め」、「目的地までチームをまとめ引っ張っていくこと」が必要だと述べている。これは何が何でもやりたいという強い気持ちが必要で、そのビジョンでメンバーを引っ張っていくことが必要。

 

 また最も勝率が高い戦術は常に正攻法であることを、自身の保険会社設立の時の話を絡め信念をもって述べている。

 

【感想・考察】

 メッセージが非常に頭に入りやすい。自分の設立した保険会社の話が長々と続いたり、自社の社員に自分を賞賛するコメントを述べさせたり、ちょっと詰まるところはあったが、全体として非常に意義深い本だった。

 思考軸の一つとして、人は所詮動物だと述べていたが、人の行動原理が根本的には動物としての本能によるものだというのは、人間関係や行動を読み解くのに有用だと思う。実際には高度に社会化しているため、個人レベルの本能では説明できない利他的行動があっても全体としてみれば、根本にあるものは動物と変わらないのだと思う。

 また、正攻法が最短ルートというのは、実績を残してきた人の言葉として重たく、また清々しい美しさを感じた。

 

 一読を勧めたい本。

 

虚ろな十字架

【作者】

 東野 圭吾

 

【あらすじ・概要】

 娘を強盗に殺され、その事件のわだかまりから離婚した前妻が殺された。元妻の足跡を追い、犯人やその親族・関係者達の隠された過去を探り歩いていく話。

 元妻は自分の娘を殺された時の苦しさと、その苦しさを乗り越えるために犯人の死刑という過程が必要だったという実感から、死刑廃止論に反対する運動を行なっていた。一方で主人公は、ペットの葬儀社で働き、小さな命を供養して残された人たちの心が浄化されることに心の安寧を求めていた。

 プロローグから始まるいくつかのストーリーが紡がれ、後半では一つの物語に収束していくのは、流石の筆力で圧倒的。

 

【感想・考察】

 ”さまよう刃” や ”手紙” などから続き、犯罪被害者や加害者、その家族親族などの苦悩をテーマとした作品。

 現在の懲役刑で犯罪者の更生を望むことはできず、再犯の可能性を無くし、被害者遺族が苦しみを乗り越えるための過程とするためにも死刑は必要だと主人公の元妻は述べる。一方で過去に犯した罪を償うため、真摯に生き、数多くの人を救い、そういう贖罪の方がよっぽど意味があるのではないかと、ある登場人物は述べる。

 自分の犯した罪を真摯に償えるかどうかは、その人の魂の貴賤に関わっていると思う。罪を犯しつつ刑罰から逃げ切ろうとする卑しい精神の持ち主が、何かのきっかけを得て真摯な贖罪に向かうということが、この小説のように起こるとは思えない。犯罪には厳罰をもって処し、少なくとも再犯を防ぐという意味で死刑に意味はあるとは思う。

 一方で東野氏は意図的に言及を避けてはいるが、冤罪の可能性はどうしても拭えず、人間による不完全な判断で人間の命を奪うことが正しいとは思えない。

 東野氏の作品でも社会的メッセージが強い内容の時は、著者は明確な立場を示さず、読者に考えて欲しい、考える契機として欲しい、という意図が見える。初期の”本格推理”の鮮やかさが好きな作者だが、こういう話も読み応えがある。

 

 一つ本編とは関係ないが、東野氏はどうも電子書籍嫌いのようだが、利便性を考えると電子書籍化に寛容であって欲しいと切に望む。紙の本だけで読む場所が限定されてしまう。作品を広く伝えるためにチャネルは増やして欲しい。

 

 

 

 

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