堕落論
【作者】
坂口安吾
【あらすじ・概要】
第二次世界大戦時に、未亡人の恋愛を書くことは禁止されていた。「二君に仕えるべからず」という武士道の忠君の精神が、忠臣蔵のような作品を美化してきた。
戦時下の未亡人は夫を亡くし辛いだろうが、時が経てば新たな面影を胸に抱くものであるし、戦国時代の実際は智謀策略により主従関係は入り乱れていた。
未亡人の恋愛禁止や、武士道の説く内容は非人間的であるが、こういった規律ができる背景には、「人の恋は移ろうもの」、「人は打算で動くもの」という人間についての深い理解がある。
人が生きていれば必ず「堕落」していくが、落ちきれるほど強くもないので、武士道のようなフィクションを求める。
落ちろところまで落ちきって、自分自身を発見し、自分自身の「武士道的フィクション」を探し出し、自分自身を救うことが本当であるべきだという。
【感想・考察】
「伝統」の破壊が「堕落」であるなら、「それでいいじゃん」ということなのだろう。終戦直後の日本での急速な価値観の変化は、昨今の世界の変容以上のインパクトがあったのだと思う。「変わるなら変わるで、人間の本性の底の底まで降りてみて、初めてわかることがあるでしょう」という投げかけは、今現在の世界の新たなパラダイムを理解するためにも、未だ有効な提言なのだと思う。