ま、いっか。
【作者】
浅田次郎
【あらすじ・概要】
浅田次郎氏が女性ファッション誌などに寄稿した記事を集めたエッセイ集。小説を読むだけでも浅田氏の人となりはよく理解できるのだが、自分の来歴について語るエッセイを読むとより理解が深まる。
浅田氏が「きちんとしていること」に拘るのは、江戸武士の価値観を引き継ぐ祖父母からの教えによるもの。特に服装については厳しかった。
銀座が故郷というような感覚を持つような都会っ子。また幼少の頃から祖母に連れられ歌舞伎鑑賞をしていた。
祖父母が亡くなり、両親の仕事がうまくいかなくなった頃から家族は離散し、「自己責任で自由に生きる」道を選ぶ。
高校生の頃から「小説家になりたい」という思いを抱き、様々な職業を経験しながらも愚直に努力を重ねてきた。
自衛隊に所属していた時期がある。戦争の描写にリアリティーがある理由の一つか。
アパレル業界に身を置いた時期も数十年ある。祖父母が身なりを整えることにこだわっていたことが関係しているのだろうか。小説でも女性服飾の描写が細かいと感じることもある。
本を読むことを最大の娯楽と捉え、青年期から一日一冊の本を読み続けている。
旅行が好きで、国内の温泉巡りや海外への旅行も頻繁にしている。ラスベガスでの買い物の楽しさや、パリで「文化」が大切にされている様子なども伝えられている。
【感想・考察】
「礼とは何か」という話には感銘を受けた。
「法」が整う前に、他者との関係を律するための自発的な社会秩序が「礼」である。権力により「法」が整えられても永遠に完成することはなく、「礼」はいつまでも必要なのだが、「礼」が退行し「法に反し罰せられなければ何をしてもいい」という考えが蔓延している。挨拶や身なりを整えること、ちょっとした心遣いは「法」に強制されるものではないが、「礼」として守り続けるべきものだという話に感銘を受けた。
タイトルになっている「ま、いっか。」には、十七条憲法の「以和為貴(和を以って貴しとなす)」を充てている。誠実に生きようとすると時に諍いを招く。謙譲と譲歩の精神は「ある程度のいい加減さ」を必要とする。「ま、いっか。」は「誠実に生きようとする真摯さと、絆や和を大切にしたい思いのバランス」を示しているものだ。
浅田氏の文章はエッセイでも面白い。