毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

十万分の一の偶然

事故現場を写した報道写真を巡るミステリです。

松本清張氏による「社会派ミステリ」なのですが

本書で投げかけられた「メディアの能力や役割」への疑問が

昨今では大きく変質していることを感じました。

 

【タイトル】

十万分の一の偶然

 

【作者】

松本清張

 

【あらすじ・概要】

東名高速道路の沼津インター付近のカーブで

6人が死亡する事故が発生した。

その事故直後の様子を捉えた写真が

新聞社の「読者の最高賞」を受賞した。

 

被害者女女性の婚約者だった男 沼井は

撮影したアマチュア写真家が、功名心から

事故を誘発させ写真に撮ったのではないかとの

疑いを持ち始める。

 

沼井は追突事故の先頭にいたトラックが

急減速してハンドルを切ったのは

道路上に何かを見たからだと考え

地道に調査を重ねていく。

 

【感想・考察】

タイトルにあるように、本書が執筆された1980年頃であれば

事故現場がタイミングよく撮影されることは

「十万分の一の偶然」だったのかもしれない。

 

だが、数億人から数十億人がネットワークに接続できる

「カメラ」を常時持ち歩いていて、

街には監視カメラが溢れている現代では

事件の現場が写真やビデオに収められることは

全く珍しいことではなくなった。

 

高い確率で現場の証拠が残ることは

事件の原因究明や再発防止に役立つことだろう。

事故を記録する「目」が増えたことから

本書のように一部の報道カメラマンが恣意的な

演出をすることも難しくなっているのだと思う。

 

一方で、インパクトの強い写真やビデオが

入手しやすくなったことで、

それを利用して恣意的に扇動することもある。

 

本書で松本清張氏が投げかけたものとは質が変容しているが

メディアリテラシーを持つことが必要なのだと感じる。

 

 

才能に頼らない文章術

「 文章を書くことには才能がいるけれど

読者視点に立って読みやすいように編集することは、

後天的に身に付けられるスキルだ」という

編集者の経験をもつ著者の本です。

 

ライターではなく編集者の立場から

読者視点を大事にした文章力向上を説いています。

31のスキルが具体的なチェックリストの形で

まとめられていて実践的な内容です。

 

 

【タイトル】

才能に頼らない文章術

 

【作者】

上野郁江

 

【あらすじ・概要】

編集者の視点から

「読者の視点で考えること」

「伝わる内容にすること」 を説く本。

対象は「目的をもって何かを伝える文章」で

小説などの文章は対象外。

 

31項目のスキルを上げている。

 

レベル1 文章基礎力

文法

1. 「てにをは」 が正しく使われているか

2. 主語と述語は近くに置かれているか

3. 文頭と文末は対応してるか

 主語と述語の対応は必ず確かめる。

4.「形容詞+です」を使っていないか

 「多いです」などの表現は間違いではないが幼稚な印象を与える。

  

文体

5. 「である」、「ですます」は統一されているか

6. 「という」、「することができる」など冗長な表現はないか

7. 口語的すぎる表現などはないか

  文章の趣旨にもよるが、口語体中心だと稚拙に見える。 

 

表記

8. 「?」後の半角空け、カッコと句読点の対応などは正しいか

   「?」や「!」の後は半角空ける。

   文末に( )が来る場合はその後に句点を打つ。

『』(二重カギカッコ)は作品名やカギカッコ中の括弧に使う。

9. 表記ゆれはないか

  「終わる」と「おわる」など文中では表記を統一する。

10. 横書きで英数字は半角になっているか

  横書きで英字や数字は半角。

  縦書きの場合は原則漢数字。

11. 誤字脱字、人名間違いはないか

 

レベル2 文章表現力

単語

12.  一般的でない単語を説明しているか

   曖昧な言葉や初出の専門用語などには説明を加える。

13. 同じ単語が文章中で一貫して使われているか

   「メンバー」と「スタッフ」など

   同じことを示すのに異なる単語を使わない。

 

14. 指示代名詞を多用していないか

   「これ」「どれ」などの指示代名詞は極力使わない。

15. 事実と解釈は区別されているか

   事実を述べる箇所と私見を述べる箇所は離しておく。

16. 過剰な比喩は装飾はないか

   過剰な比喩は文章を安っぽく感じさせる。

17. 1文の長さが最大120文字程度に抑えられているか

  1文は80字以内が目安。最大でも120文字に抑える。

18. 読み手を意識した文章表現になっているか

   学生対象であれば学校での出来事を引き合いに出すなど

   読む人が共感しやすい内容にする。

 

段落

19. 段落ごとのロジックが通って意味が伝わるか

    演繹的な三段論法や帰納的な論理があるが

    段落内で論理が破綻しないよう気をつける。

20. 記述内容に過不足はないか

  5W1Hを基本に抜け漏れを防ぐ。

21. 接続詞は必要最低限になっているか

    使わなくても意味が通じる箇所では接続詞は使わない。

    「つまり」などはポイントでだけ使う。

22. 音読してリズム感があるか

23. 文末表現が単調でないか

  「〜でした」などが何度も続くと単調になる。

    体言止めや時制の変化で文章に波を作る。 

 

レベル3 文章構成力

タイトル

24. 文章の目的が達成されているか

  「誰に何を伝えたいのか」を明確にして書く。

25. タイトルと内容にズレがないか

   「タイトル詐欺」は長期的に信頼をなくす。

26. 読者の興味を引くタイトルになっているか 

   ・「3つの〜」など数字を使ったタイトル、

   ・疑問形を効果的に使ったタイトル、

   ・ 常識をひっくり返すようなタイトル、

   ・「〇〇初!」など、これまでにないことを示すタイトル

   ・「〜で大丈夫?」など不安を煽るタイトル

 などは読者の興味を引く。

 

見出し

27.  飽きずに読み進められる見出しになっているか

  見出しだけで内容が推測できるレベルに抽象度を下げる。

28. 見出しと内容にズレはないか

 

全体構成

29. テーマを確実に読み取ることができるか

  まずは文章全体で伝えたいことを明確にする。

  メインの主張は「〜だろうか」など曖昧な表現にしない。

30. 文章全体の論理構造は明確か

  「 タイトル」、「サブタイトル」、「見出し」をみて

   構成が論理的になっているか確認する。

31. 読者が興味を持って読み切れる構成になっているか

  説明の順序などで「流れを止めない」ようにする。 

 

 

【感想・考察】

上にあげたチェックポイントも具体的でわかりやすいが

「文章添削の例題」が非常に参考になる。

「読者の視点に立った編集者」の目線で修正するやり方が

この上なく具体的に解説されている。

 

文章執筆に即座に反映できそうな内容だった。

 

 

モモ

初めて読みましたが、素晴らしい作品です。

児童文学であると同時に、

現代社会の大人たちへのメッセージでもありました。

むしろ大人こそ読むべき本なのかもしれません。

 

 

【タイトル】

モモ

 

【作者】

ミヒャエル・エンデ

 

【あらすじ・概要】

ある都会の町外れ、かつての円形劇場の廃墟に

少女モモが住み着いた。

 

モモはただ黙って相手の話を聞くことで相手の心を解放した。

喧嘩をしている大人の仲直りを手助けしたり、

子供たちの想像力の翼を広げたりして、

モモの周りにはたくさんの友達が集まってきた。

 

中でも寡黙な掃除夫のベッポと

おしゃべりな観光案内人のジジは

モモの良き理解者で大切な友達だった。

 

その頃「灰色の男たち」が密かに活動を始めていた。

彼らは時間貯蓄銀行と名乗り、

人々に未来のために時間を節約するよう呼びかける。

 

時間貯蓄銀行と契約した人たちは

灰色の男のことや、契約したこと自体は忘れてしまうが、

「時間を節約しなければ!」という思いだけが残る。

 

町中の誰もが

老いた親の面倒を見たり、

セキセイインコの世話をしたり

愛する人に花を贈るような時間は無駄で

仕事を効率的に一部の隙もなく、

こなしていく必要があると考えるようになった。

だが、そうして節約した時間は

時間泥棒である灰色の男たちに盗まれていき

そしてみんなが時間に追われ、

心を失った生活をするようになった。

 

モモは時間に追われる人々の話を聞き

その心を取り戻すことを助けていたので

灰色の男たちから危険視される。

モモは灰色の男たちからの誘惑に乗らず

彼らの目的を聞き出した。

 

モモと友達は子供を集め

時間泥棒の真の姿を訴えるデモを行ったが

大人たちには時間がなく、気にされることもなかった。

 

モモを恐れた時間泥棒たちは、彼女を捕獲しようとしたが

モモは甲羅に文字を浮かび上がらせる亀のカシオペイアに導かれ

時間を司る マイスター・ホラの元にたどり着く。

モモは時間の花が咲くところを見、星々の音楽を聴く。

 

その頃、灰色の男たちはモモを通してマイスター・ホラと会い、

人間の時間の全てを手に入れようと画策していた。

モモを操るため、彼女の友達を時間で縛り奪っていった。

 

モモは交渉には乗らず、再び出会ったカシオペイアとともに

マイスター・ホラの元に向かう。

灰色の男たちはホラが人間たちに時間を届けることを妨害し、

ホラは対抗するため、眠りに落ち全ての時間を止めた。

ホラから時間の花を受け取ったモモは1時間のうちに

灰色の男たちが集めた人間の時間を解放しなければならない。

 

モモと時間泥棒の戦いが始まる。

 

【感想・考察】

「人生で何事かをなすためには

すべての時間をそのために集中させなければならない、

目的に繋がらない時間の使い方は浪費だ」という。

そして効率を上げ時間を節約するほど、時間は無くなってしまう。

 

この本が書かれた50年前と比べても更に

現代人には時間がなくなっているのではないだろうか。

 

文明の機器は人間の仕事を軽減し時間を生み出すのではなく

24時間世界中どこでも繋がっていることで、

休むことなく、永遠に終わらない目標に追われ続けている。

 

自分たちが生み出した「灰色の男たち」に

首を絞められ続けている。

カシオペイアの言うように

「ゆっくり歩けば早く進む」のかもしれない。

 

ゆっくり生きる時間を取り戻したい。

 

 

お父さんのバックドロップ

4つの父と子の物語です。

「親も中身は結構がきんちょだ」

と理解するとき、子供は大人になるのかもしれません。

 

【タイトル】

お父さんのバックドロップ

 

【作者】

中島らも

 

【あらすじ・概要】

子供視点から父親を描く4つの短編集。

 

お父さんのバックドロップ

下田くんのお父さんは「悪役プロレスラー下田牛之助」だった。

息子のカズオは、オリンピック出場経験もあるレスラーだった父が

「真剣勝負を逃れ役割に安住している父は尊敬できない」と言った。

 

牛之助は事務所も通さず「熊殺し」の異名を取る空手家に戦いを挑む。

 

お父さんのカッパ落語

仁の父は、売れない落語家 来福亭バッタだった。

父は全てのことを「シャレ」として

面白おかしく流してしまうところがあった。

 

ある日父は、師匠の来福亭トンボから

落語家は諦めるよう諭される。

父は「お笑い新人賞」が取れなければ諦めるといい

その日から「シャレ」の仮面を脱ぎ去った真剣勝負が始まる。

 

お父さんのペット戦争

田中セミ丸はクラスメートの鈴木馬之助とペットの珍しさを競っていた。

それはかつて名前の平凡さで苦しんでいたお互いの父、

田中一郎と鈴木太郎の代理戦争の様相をみせる。

魚市場で働く一郎と動物園で働く太郎の戦いはエスカレートしていく。

 

お父さんのロックンロール

テレビの番組制作に携わる 小筆の父は風変わりな男だった。

小筆の先生が家庭訪問に来ると聞き、

父はパンクロッカーの仮装で先生を迎えることを計画する。

もんじゃ焼き屋のばあちゃんに相談した小筆は対抗策を練っていく。

 

【感想・考察】

子供以上に子供っぽく、感情的で、少し情けない父たちだ。

 

子供たちは、そんな親の姿に失望することで

そこに反発しながら自我を強めていくのだろう。

 

一方で、その前提に確かな信頼関係があって

子供の中に「親は情けない奴だけどやっぱり好き」という思いが残れば

「自他の弱さを許容できる懐の広さ」が子供の中に育つのかもしれない。

 

本書に出てくるようなチャーミングな父親たちに育てられた子供は

やっぱりチャーミングに育つのだろうなと思う。

 

 

雨やどり

新宿を舞台に繰り広げられる「愚者たちの物語」です。

半村良さんの作品ですがSF的な要素はほぼなく、

バーで顔馴染みたちと一緒に飲んでいるような

こじんまりとした暖かさを感じる話でした。

 

【タイトル】

雨やどり

 

【作者】

半村良

 

【あらすじ・概要】

バー「ルヰ」のマスター仙田を中心とした

新宿の夜の街の人間模様を描く8編の短編集。

 

おさせ伝説

仙田はバーの客で会った建築士と意気投合し

いつか仙田の店を持つ計画を立てていた。

 

そのころ仙田が働いていたバー「壺」には

多可子というホステスがいたが、

彼女は客に口説かれると断ることができないたちで

夜毎男の誘いに乗っていた。

多可子に惚れた誠実な室谷も

彼女の素行を知り離れていってしまう。

 

そんな折、建築士が仙田にバーを持つという

かつての約束を果たす時が来た。

彼は仙田に交換条件として

「母の面倒を見て欲しい」と頼む。

 

ふたり

和風美人の芳江と洋風美人の京子は

新宿の小さなバー「ふたり」の共同経営者だった。

芳江と京子の二人は、店に訪れるようになった客で

渋みのある山崎に好意を抱き始める。

仙田から「山崎は殺し屋らしい」と聞いた二人は

その怪しげな魅力により深く惹かれていく。

 

新宿の名人

仙田が自分の店「ルヰ」を開店することとなり

仲間たちは開店祝いを贈ることを計画する。

「ふたり」の芳江と京子が中心となって取りまとめ

高額な贈り物をしようと計画したが、

「壺」のママが合同で贈ることに難色を示し

計画は分裂してしまった。

噂を聞いた仙田は「新宿の名人」

と呼ばれる男の力を借り事態を収拾する。

 

そして後日「新宿の名人」は「ふたり」の京子と

新宿で店を出す計画をぶち上げる。

 

新宿の男

かつての新宿の女「おまき」の息子が学生運動の内ゲバで狙われ、

滝口は彼を自分の店で匿っていた。

滝口の店を包囲するように集まった男たちに

入店させないため、界隈の仲間たちが集まり

やがて「おまき」が導きによる「同窓会」のような夜になる。

 

かえり唄

かつて仙田が働く店の客だった 谷本まさる は歌手だったが

1曲だけヒットした後は全く売れず、今では工場で働いていた。

工場近くの食堂で働く女性は、ただ一人谷本のファンとして振る舞う。

しかし谷本があるバーで歌い、心からの賞賛をもらった時

その女性は谷本のファンであることを止めてしまう。

 

雨やどり

ある雨の朝、仙田は自分が住むアパートの前で

雨やどりをしていたホステス邦子に会う。

その後、仙田と邦子はお互いに店を行き来するうちに親しくなり

やがて一緒に暮らすようになる。

 

昔ごっこ

関西の地上げ屋が、歌舞伎町の老舗キャバレーである

「ゴールデン・ベア」の土地を狙ってきた。

地上げ屋がゴールデン・ベアの周囲の土地を買い上げ、

クラブを出店してきたのに対抗し、

「古い新宿」を守ろうとする仲間たちが集う。

 

愚者の街

銀座から新宿の店を転々としてきた駒井は

数十年ぶりに再会した友人に身の上話をする。

 

かつて駒井たちが働いていた店の客の飯田は

小説の新人賞に入賞したのを機に退職したが

その後全く売れず、易者として生活をしていた。

 

駒井自身もいつか小説家となったが

いつか飯田のような「愚かな人間」への共感を失いつつあった。

 

【感想・考察】

どこかで打ち手を間違えてしまうような

「人間の愚かさ」を愛し慈しむような話。

後半の3作、「雨やどり」、「昔ごっこ」、

「愚者の街」が素晴らしい。

 

人間は愚かで、

正しいと思ってもできないことがあるし

正しくないと思っていてもしてしまうことがある。

SNSの影響か「正しくないことを糾弾しないこと」が

リスクとなり得る風潮だが

「愚かさを赦す」ことが必要な時もあるのだ思う。

 

「昔からの友達と、古い小さな店で、

酒を飲みながらバカ話をしたくなる」

あまり酒が好きではない自分でもそう思うような話だった。

 

 

君はフィクション

中島らも氏による短編集です。

 抜群に「格好の良い」生き方が描かれています。

 

【タイトル】

君はフィクション

 

【作者】

中島らも

 

【あらすじ・概要】

 12編の短編集。

ホラー的な作品から、1970年代のロックを描いたものなど幅広い。

 

山紫館の怪

地図を作るための調査で男は山紫館に泊まる。

宿の女将に牡丹鍋をごちそうになった後、

夜中ふと目覚めると、天井に幽霊が浮かんでいる。

 

君はフィクション

作家の伊藤は清楚な女性の香織と付き合っていた。

 

ある日、香織が約束の場所に来れなくなった時

香織の双子の妹詩織が現れた。

伊藤は姉と全く違うタイプの詩織と話すうち

あっという間に打ち解けていった。

 

コルトナの亡霊

新聞記者の可児は、恐怖のあまり途中で観客が全員帰ってしまう

「コルトナの亡霊」という映画の噂を聞く。

映画評論家や字幕翻訳者たちも

「60分で耐えられなくなり、見るのを止めた」という。

サブリミナル効果を研究する心理学者にも話を聞き

フィルムをコマ割りで確認するが、異常は見つからない。

可児は椅子に縛り付けてもらい、映画を最後まで見ようとする。

 

 DECO-CHIN

音楽雑誌の記者である松本は、上司の命令で

つまらないバンドの取材をさせられ腐っていたが、

その後にでてきた「COLLECTED FREAKS」というバンドの

演奏に度肝を抜かれる。

COLLECTED FREAKSは、巨人症や双頭など

身体的な異常をもったメンバーの集まりだったが

外見以上に演奏レベルが稀有なものだった。

松本はCOLLECTED FREAKSへの加入を希望するが

「健常者」は加入できないと拒否される。

 

水妖はん

フリーライターの横山は、とある村落で「水妖はん」の噂を聞く。

平家に滅ぼされた地域の原住民たちが残した

「小さな虫、半ばの虫、大きな虫」の呪いの

大きな虫が水妖はんなのだという。

 

43号線の亡霊

鈴森はあらゆる快楽に飽き、新たな刺激を求めていた。

「43号線に競輪選手の亡霊が出る」と聞いた鈴森は

夜毎、ポルシェで43号線を走っていた。

 

結婚しようよ

おれとポコは、椛の湖で行わる

「第3回フォーク・ジャンボリー」を見に来ていた。

錚々たるメンバーが集う野外フェスだったが

途中「フォークソングが商業主義に堕した」と

煽る集団に占拠される。

帰りのバスの中で、おれはポコに「結婚しようよ」を歌う。

 

ポケットの中のコイン

夜の街に立ちすくんでいた僕は、

「世界と共に滅びるかどうか」をコイントスで決めようとした。

16年後の今、その時のコインはポケットにあるはずだが

いつかは何かに使い、巡り巡ってどこかの街角に立ち尽くす

少年のポケットに納まるだろう。

 

ORANGE'S FACE

地方出身の娘 「オレンジ」は

部屋の窓から見かけた男と瞬間的に恋に落ちる。

オレンジと男は二人で暮らし始めるが

男は交通事故であっけなく死んでしまう。

それからオレンジは「夢」に襲われ続け静かに老いていった。

 

ねたのよいー山口冨士夫さまへー

京都のライブハウスで「村八分」のライブをみた俺は

山口冨士夫の爆音のギターに魅了される。

 

狂言「地籍神」

コントの台本のような体裁。

太郎と次郎が「地籍」のため測量しているとき

邪魔だった祠をのこぎりで切断してしまう。

すると眠りを覚まされた地の神が登場し

太郎次郎と一緒に踊りだす。

 

バッド・チューニング

調律師である私は、人間の歪みも正そうと考えている。

恋人の和美は「私を調律することはできない」といい

私のもとを去っていった。

母の葬儀の日、家にある楽器をすべて完全に調律していて

葬儀の時間に遅れてしまい、兄からは縁を切られる。

「正しさを求めることが狂った行為である」ことに気づいた私は

整然よりも混沌を好む人間になることを誓う。

 

 

【感想・考察】

 中島らも氏は「調律された生き方への反発」が徹底している。

 

束縛を嫌い、自由に生きたいと願う気持ちはあっても

社会の同調圧力の多重攻撃に抗い続けることは難しく

楽な生き方に落ち着いてしまっている自分の目から見ると

らも氏の強さに惹かれるものがある。

 

らも氏は、「サブカル」を表舞台に引っ張り出す過程で

酒・ドラッグ・ロックなど「社会からのはみ出し方」自体が

型にはまりつつあることを理解していたのだろうが、

それでも、縛る鎖を振りほどこうとあがき続ける姿勢が

著作を通して見えてくる。

 

特に印象に残った話は、

ストーンズはライブ前にギターを完璧にチューニングした後

ギターを床にたたきつけ、少し調弦を狂わせていたということ。

「バッド・チューニング」の美しさというものがあることは

間違いないのだろうと思う。

 

 

 

中途半端な密室

東川篤哉さんによる

5つの「安楽椅子探偵」ものの短編集です。

手紙や新聞から得た情報だけで

推理していくお話です。

ストーリーがすっきりとまとまっていて

会話のテンポが良いので、

読みやすく楽しむことができました。

 

【タイトル】

中途半端な密室

 

【作者】

東川篤哉

 

【あらすじ・概要】

5編の短編ミステリ集。

 

中途半端な密室

探偵役の十川と小説家の片桐が

喫茶店で新聞に載っていた事件について語り合う。

 

テニスコート内で男が死んでいた。

テニスコートは四方が4mの金網で囲われいて

唯一の出入口であるドアには内側から施錠されていた。

 

ただ、金網の上に屋根はなく

金網をよじ登っての出入りは可能なため

密室としては中途半端なものだった。

密室でないのであれば、

わざわざ鍵をかけてから金網をよじ登る意味が理解できない。

テニスコート内で起こった出来事を

新聞記事の情報から十川が推理していく。

 

南の島の殺人

大学生の七尾と山根は、旅行中の友人 柏原から手紙を受け取る。

手紙には柏原が旅先のS島で関わった事件について書かれていた。

 

柏原が旅先のS島で突然のザアザア降りにあい

あるイギリス人の家のカーポートに避難していた。

そのイギリス人は柏原を家に招きお茶をごちそうする。

翌日、そのイギリス人の家の庭のパラソルの下で

男性が全裸で死んでいるのが発見された。

 

 

山根と七尾は真相を推理していく。

 

竹と死体と

山根がバイトする古本屋で昭和11年の古新聞に

奇妙な事件が掲載されていた。

 

ある老婆が20メートル近くある竹の上部で

首をつって死んでいるのが発見されていた。

自殺にしても他殺にしても、それほど高い場所で

首を吊った意図が分からない。

 

山根は「新聞にある情報」だけをみて

真相に辿り着く。

 

十年の密室・十分の消失

再び、柏原が七尾と山根に送った手紙を基に推理する。

 

旅先で柏原は脱輪し困っていた女性 美也子を助ける。

美也子は10年前に父が自殺したという屋敷に向かっていた。

美也子は父が自殺したとは信じられず、

誰かに殺されたものだと確信していた。

 

柏原と美也子は、美也子の父が死んだ「丸太小屋」を見てから本館に赴く。

本館には美也子の伯父にあたる人が使用人夫婦と共に住んでいた。

伯父は美也子たちが丸太小屋を調べることを拒んでいた。

 

翌朝早く目覚めた柏原は、本館の部屋から、濃い霧越しに

丸太小屋を見たが、

その後、雪が降って視界がふさがれた十分ほどの間に

丸太小屋が完全に消えてしまっていた。

 

山根は手紙の情報を元に、悲しい真相を推理する。

 

有馬記念の冒険 

ある男が自宅で泥棒に殴られ意識を失った。

殴られたとき、有馬記念の出走のタイミングだったため

正確に3時25分の犯行であることが分かっていた。

 

一人の容疑者がいたが、

彼は 事件の現場から 2.5㎞ほど離れた場所で目撃されたいた。

証言では、有馬記念のゴール直後に目撃したとのことで

それは 3時28分ごろになり、犯行は不可能と思われた。

 

七尾と山根は、その証言をした友人から話を聴き

不可能を可能としたトリックに気が付く。

 

 

【感想・考察】

 東川氏の作品ではキャラクタ同士の掛け合いが気持ちよくて

コメディ風に楽しく読めるが、ミステリとしても

きちんと作りこまれていると思う。

 

本作の十川と山根は「安楽椅子探偵」として

手紙や新聞などの情報「だけ」を基に推理していて

追加で現場検証をしたり、人から話を聴いたりはしていない。

「限られた情報から推理する」という

安楽椅子探偵ものの醍醐味を味わえる。

 

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