Kennie の読書録

毎日1冊本を読み、記録を残したいと思います。

団地のナナコさん

 

【作者】

 ヤマダマコト

 

【あらすじ・概要】

夏休み前に新潟の地方都市 新津市 に引っ越してきた主人公の少年 拓海。

学校で友達ができる前に夏休みになってしまうが、団地でであった年上の少女 七恵と友達になり、虫取りをしたり図書館に行ったりして充実した夏休みを過ごす。

ある日、七恵は「猫に生まれ変わりたい」と、拓海は「学校の友達が欲しい」と願い、お互いの願いをかなえるために相手に呪文をかける。

数日後の登校日、拓海は友人を得たがその後七恵と会うことはなかった。

 

十数年後拓海は新津に戻り、小学生の時に埋めた「タイムカプセル」を掘り返し、あの夏に起きたことの真実を知る。

 

【感想・考察】

1980年代の地方都市の雰囲気は何故か懐かしく感じる。

まだ大手資本やチェーン店が行き渡っておらず、個人経営の店が活気をもっていたり、大人になってみると「こんな狭いところだったのか!」と驚くような場所で、大冒険をした気分になっていたり。

「小学生の夏休み」というのは鉄板でノスタルジーを掻き立てる題材だなと感じた。

 

この作者は「天下」シリーズで初めて知ったので、アクション・ミステリを軸にした ジュブナイル小説がメインだと思っていたが、本書や「魚」のように、民話や怪談をベースにした幻想的な怪異譚でも素晴らしい作品を残している。

幽霊や死後の世界が出てきてもそこは恐怖の対象ではなく、むしろ現世の人間関係に怖さや醜さを見出している。

だからといって厭世的になるのではなく、醜さや不条理が溢れる世の中で、強く生きていこうとする人々への賛歌となっている。

 

科学的とはどういう意味か

【作者】

 森博嗣

 

【あらすじ・概要】

 科学的であるというのは「再現性のある法則を、数字などの客観的基準で、複数で評価し共有する」こと、とする。

再現性があることで「未来を予測」できることに価値があり、客観的な情報でコミュニケーションすることで、知恵を広く共有することができる。

 

勉強には「情報」を覚える科目と「方法」を理解する科目がある。

日本で教える「九九」などは実用的で有用だが、算数など方法を理解するべき科目でも覚えることが中心になっていることには弊害もある。

その法則を現す「言葉」を覚えた時点で、理解が止まってしまう。

算数や数学に苦手意識を覚えてしまうと、私は「文系」で、科学的なことからは距離を置きたいだという意識を持つ人も出てくる。

科学的な思考や、数字などで説明される事柄から逃避し、「分かりやすい結論」、「主観的なイメージ」を求める。

 

数十年前の少年は雑誌の付録でラジオを作ることもあったが、最近は専門家以外が携帯電話やパソコンの動作原理を理解するのは難しくなっている。

ある意味魔法のようなものであり、原理原則を理解することが難しくなっているのは間違いない。

細かいことまで追求する必要はないが、科学的な説明を忌避する態度は、科学がベースになっている現代で生きるには「損をする」ことになるとする。

 

例えば「津波」という言葉から海岸に打ち寄せる波をイメージすると、対処を誤ることにつながる。

普通の波は風が海の表面に波紋を起こし伝播するので、たとえ5mの高さであっても、5mの堤防に当たれば打ち消される。

ただ「津波」は海底の隆起によるエネルギーなので発生範囲が広く、高さが低くてもトータルでの水の量は段違いに大きい。

仮に5mの津波でも、5mの堤防では防ぎきれない。5mの堤防に当たっても後から水が押し寄せてくるので乗り越えてくる。水流が集中すると5mの波が10mにも15mにもなりうる。「津波」に対する理解の有無で対応が変わってくる。

 

科学を「好き」になる必要はないが、科学的なことを頭ごなしに拒否する「思考停止」から離れ、科学の語ることに耳を傾ける態度を持つべきだとまとめている。

 

【感想・考察】

 森博嗣氏の書く小説は「科学的」な素材を扱うが、人の主観や定性的なことも深く描かれている。本書では「理系」・「文系」をステレオタイプに描いているが、相互の要素は相反するものではなく、共存することでより深みを増す、ということを理解したうえで書かれているのだろう。

 

「情報を覚える」ことと「方法を理解する」ことの違いは重要だと思う。

例えばルービックキューブを解こうと思えば、解説書を見ながらその手順を「覚える」ことはできる。ただ覚えた手順は時がたつことで忘れてしまう。手順を覚えるのではなく、どうしてこういう挙動になるのかを「理解」すると、深いところに入り込む。簡単には忘れないし、自分なりに改善方法を考えたりもできる。手順書を覚えようと繰り返し練習するよりも、理屈を理解しようとする方が効率がいいし、先の発展性もある。

 

 国語や社会、外国語のような文系科目でも、情報を覚えるだけではなく「どうしてそうなっているのか」の原則を見抜くことで、理解が急に深まる瞬間がある。量をこなして覚えることは必須だが「量を質」に転換するには、「情報の記憶」から「方法の理解」への跳躍が必要なのだろう。

 

 

不確定世界の探偵物語

【作者】

 鏡明

 

【あらすじ・概要】

 ノーマン・T・ギブソンは、タイムマシンによって過去が書き換わってしまう世界で、私立探偵を営んでいた。

 「ワンダーマシン」と呼ばれるタイムマシンを管理し、世界のコントロールしているエドワード・ブライズが、自分に干渉している敵を探るようノーマンに依頼する。

 ブライズが送り込んで来た、ジェニファーと共に常に変わり続ける世界で起こる事件を解決し、自分自身の因果と戦っていく。

 

【感想・考察】

 タイムパラドックスを描いたSF小説だが、過去を変えれば現在も変わる、変えられた時間と変えられなかった時間が並列し、人々は記憶を微かに残しながら「アザータイマー」として別の時間軸に移っていく。

 タイムマシンというよりは「多重宇宙」の中でより良いものを選んでいくイメージなのかもしれない。世界を認識する主体としての「人」の記憶は、別の時間軸に移ってもリンクしている。完全に独立した並行世界ではなく「人」の認識をエネルギーとした相互干渉が起こっている多重宇宙なのだろう。

 SFとしての設定は面白いし、主人公ノーマンの視点で描かれた「確かなモノがない世界」での人々の生き様は興味深い。因果関係がなくなった世界で「努力して何かを生み出す」ことの価値がなくなり退廃的な雰囲気もあるが、因果を超えて強く生きようとする人々の強さもある。

 なかなか新鮮な作品だった。

 

変態だ

【作者】

 みうらじゅん

 

【あらすじ・概要】

 大学でバンドに誘われた音楽を始める主人公。大学卒業後もソロで活動を続ける。ファンとして近づいて来たドSの香子とは、結婚後も関係が続いていた。

 香子との関係を終わらせるつもりだった、冬の青森での野外フェスで、妻に似た女性を観客席に見つける。妻と香子の鉢合せを恐れた主人公は、香子と一緒に雪の中を逃亡するが、雪中でのプレイの後、木に結ばれたまま放置されてしまう。

 

【感想・考察】

 みうらじゅん氏のサブカル臭は大好きだが、この本はあまりにくだらない。

電子書籍の普及で半素人の小説などを読む機会が増えて来たけれど、Kindle Store等で目に触れる作品はある程度の品質は担保されているものだなぁ、と感じていたがこういうレベルの話も流通してしまうことがあるのは、一つの発見だった。こういう「くだらなさ」を楽しむのが流儀なのだろうか。

 

目撃証言

【作者】

 西村健

 

【あらすじ・概要】

 昭和の三池炭鉱で起きた傷害致死事件を倒叙形式で語る短編ミステリー。

 三池炭鉱で働く労働者 十時が語り手となる。新任の警察官が15年近く前に起きた死亡事件を追求する。

 当時は大規模なストライキに対し会社が揺さぶりをかけ、労働組合が分裂していた。「裏切られた」と感じた十時たちが属する「旧労働組合」は、分裂した「新労働組合」のメンバーを恨んでいた。そんな中 十時は「裏切った」同僚を突き飛ばし結果的に殺してしまったが、当時は徹底した調査もされずまもなく15年の時効を迎えるところだった。

 

【感想・考察】

 昭和中期の「炭鉱」で生活売る人たちの雰囲気が生々しく伝わってくる。現代の視点からは「危険と隣り合わせで、劣悪な環境での労働を余儀なくされている」ように見えるが、その場にいた人々はどのように感じて生きていたのだろうか。現代の労働者を数十年後の人々が見たら、どのように映るのだろう。

 倒叙形式ミステリの追いつめられる感覚も面白かったが、背景として描かれる「炭鉱」の世界観に興味を持った。

 

図解 ワイン一年生

【作者】

 小久保尊、(イラスト:田口コロ)

 

【あらすじ・概要】

 ワインの材料となるブドウの品種を擬人化し、それぞれの特徴をわかりやすく語る、ワイン初心者向けの入門書。

 

以下に挙げる6つの主要品種を押さえておいて、傾向の基準にすれば良い。

 

・カルベネ・ソーヴィニヨン(赤)

  パワフルなボディーで渋味もある、優等生的品種。ボルドーでは超高級ワインの原料にも使われる。

 

・ピノ・ノワール(赤)

 ブルゴーニュでの重要品種。育成できる気候条件が限られている。渋味は弱いが育成地によって重めにも軽めにもなる。わがままだけれども高貴なお嬢様のイメージ。

 

・メルロー(赤)

 ボルドーの重要品種。果実味があるけれど担任は少なめでまろやかで丸みがある味、腐葉土の香りがする。優しくふくよかな女性らしいイメージ。

 

・シャルドネ(白)

  シャンパン、シャブリからカルフォリニア白ワインなどに幅広く使われる。古ボディに近いが、スッキリ感がある。その土地ならではの味に染まる、誰からも愛されるアイドル的イメージ。

 

・リースリング(白)

 アイスワインなど高級甘口ワインに使われる。フルーティーだが、酸味もあるので甘口でも甘すぎない。ツンデレ系のイメージ。

 

・ソーヴィニヨン・ブラン(白)

 爽やかスッキリ系の味わい。涼やかにするクールな美少女イメージ。

 

 赤の場合、基準となるカベルネ・ソーヴィニヨンが好みに合うならメルローなどどう傾向の多品種に幅を広げ、重いと感じるならピノ・ノワールを試してみると良い。

 白の場合、基準となるシャルドネを飲んでみて、もっとフルーツ感が欲しいと思えばリースリングを試し、もっとスッキリしたいと感じるならソーヴィニヨン・ブランが合うかもしれない。

 

産地ごとの違いとして、

・ヨーロッパ諸国の旧世界ワインは複数の品種をブレンとしたものが多く、ブドウの品種は記載されず、代わりに産地を示されることが多い。

・ヨーロッパ以外の新世界(南米、オーストリアやアメリカなど)では単一品種を原料としたワインが多く、ラベルに品種が描かれることが多い。

 品種ごとの味の傾向を知るためには「単一」から始めるのが良い。

 

【感想・考察】

 上記以外のブドウ品種やフランスの主要産地ごとの特色、フランス以外の国の有名どころを紹介している。

 ワインを飲む機会が増えたので、最低限の知識は欲しいと思って入門書を読んで見たが、酒に関しては完全な「子供舌」で「超下戸」な自分には飲み比べて味を覚えることはできなかった。。

 とはいえ、ワインを選ぶときにある程度の知識がないと困ってしまうので、こういった入門書はありがたい。

 

蹴りたい背中

【作者】

 綿矢りさ

 

【あらすじ・概要】

 うまく学校の友達と馴染めない女子高生の”ハツ”は、ハーフのモデル ”オリチャン”の話をきっかけに、同じようにクラスで浮いている”にな川”から話しかけられる。オリチャンのラジオ番組を必死に聞く にな川にもの哀しさを感じながら、「無防備な背中を蹴り飛ばし、痛がる にな川を見たい」という衝動に突き動かされ蹴りを入れる。

 にな川に誘われオリチャンのライブに行った時にも、オリチャンに相手にされない惨めな にな川を見たい」という屈折した感情を持つが、友人の絹代からは「ハツは本当に にな川のことが好きなんだね」と言われてしまう。

 

【感想・考察】

 高校くらいの多感な時代には、周囲との距離感が気になって苦しくなることもあるのだろう。ハツの周りでは友達の絹代が友人たちとの間を取り持とうともするが、ハツは一人でいることを選ぶ。

 本当は周りのことが気になって仕方ない、自分がどう見られているのかを人一倍きにする自意識過剰さがあるからこそ、周囲と溶け込むことができず孤立してしまうのだろう。「自分が、自分が!」という意識を少し開放すれば、気楽に人と接することができるのに、と思う。

 そういうハツに対するもどかしさを「クラスで浮いているのにクラスの人間関係を誰よりも把握している私」と表現しているのは、ストレートで面白い。

 同じように友人との交わりがない にな川だが、極端な自分の趣味や、自分の素の生活環境を他人に見せることも厭わず、周囲から自分がどう見られているかを気にしないで、自然に一人でいることを楽しんでいる。

 ハツが にな川に向ける嗜虐的とも言える屈折した感情は、にな川のそういう自由さに対する憧れと嫉妬が混じったものなのかもしれない。あるいは「誰かが誰かに向ける感情は、それぞれが個別に違いもので、ステレオタイプに型に嵌めてとらえられるものじゃないよ」というテーゼなのかもしれない。

 軽く読みやすい文章だが、何となく心に残る話だった。