毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

夏美のホタル

 とても美しいお話です。写真家の卵である慎吾が描写するノスタルジックな景色が、鮮烈な色彩を伴って目に浮かびます。

 作品の冒頭と最後に登場する仏像彫り「雲月」が「神は細部に宿る、だからこし、爪の先ほども妥協はするな」と言っていますが、この作品の風景描写も、妥協なく細部まで積み上げられていることを感じます。

 日本の風景を見に帰りたくなりました。

 

【作者】

 森沢明夫

 

【あらすじ・概要】

 写真家を目指す慎吾は恋人の夏美と房総半島まで写真に収める景色を探しに来ていた。夏美はトイレを借りるため、山間の集落の寂れた商店「たけ屋」に入り、店の 地蔵と呼ばれるおじいさん、ヤスと呼ばれるおばあさんに歓待される。その地で蛍が見られることを聞く。

 

 初夏の梅雨の晴れ間に、再び「たけ屋」を訪れた慎吾と夏美は、地蔵じいさんに導かれ、川面に舞う蛍の群れを見、蛍が内側で光るホタルブクロの花の美しさに心を奪われる。 

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蛍の光を湛えたホタルブクロ 

 

 慎吾と夏美は夏休みの間、物置となっていた「たけ屋」のはなれに住まわせてもらい、写真撮影をすることにした。ヤスばあさん、地蔵じいさんや、近所の子供、愛想のない仏像彫りなどに囲まれながら、充実した夏を過ごす。

 夏美は地蔵じいさんはヤスばあさんの息子であること、かつて事故で半身不随になり、その時に妻子と分かれたことなどを聴く。

 

【感想・考察】

 人間愛を描く物語だ。ヤスばあさんの息子に対する愛、地蔵じいさんが妻子に対し抱く愛情と後悔など、渦を巻く様々な感情を通して人間愛を讃えている。

 自己啓発や宗教などがストレートに語る「生きる指針」が必要な場面もあるのだろうが、美しい物語を通して、様々な「生き方のテンプレート」に触れ、生き方を考える方が好きだ。

 そしてこの作品は風景の表現が美しい。丹精を込め仏像を彫るように、言葉を選び、無駄を削ぐように描写しているのが分かる。とても映像的な作品だと感じた。

 

【オススメ度】

 ★★★★☆

 

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