毎日一冊! Kennie の読書日記

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千里眼 背徳のシンデレラ 完全版 (上・下)

【作者】

 松岡 圭祐

 

【あらすじ・概要】

 元自衛隊員の臨床心理士である岬美由紀がヒロインとして活躍する連作の最終作。もともと小学館から出ていた話を、全シリーズ全面的に改定して角川文庫から出版している。

 本作は上下巻を合わせて1200ページを超える長編。前作で岬美由紀が倒した友里佐知子の半生が記された日記をベースに話が進む。

 友里の祖母であった御船千鶴子は、無意識のうちに選択的注意集中を駆使して、情報を読み取り千里眼と言われたが、インチキ扱いされ失意のうちに死んでいった。戦時下で友里の母も国から危険視され不遇な生活を強いられた。終戦後、まだ幼い友里は米兵相手の幼女売春で生活の糧を得ていたが、世界の歴史を操ってきたメフィストコンサルティングのゴリアテと出会い、徐々に運命を変えていった。国家に対する敵意が当時の日本の反体制運動に惹かれていった。

 ゴリアテに導かれ、メフィストの幹部候補として育てられ、特殊な技術を身につけたが、やはり日本政府に対する敵意は消えず、メフィストを離れ既に下火となりつつあった学生運動に参加していった。

 メフィストは心理観察や催眠の技術に秀でていたが、友里が身につけた特殊技術として人の前頭葉を一部削除することで、通常の催眠では行わせることができない、被催眠者の意思に逆らう犯罪や自傷行為をも行わせ、メフィストの裏をかき歴史を翻弄していった。

 3億円事件やよど号ハイジャックなど、昭和の歴史にあった出来事をアレンジし、都市伝説的に語られていた内容も取り込んで、独自のミステリとしている。

 友里が自分の影武者であった女性の娘を 鬼芭阿諛子 として育て、前頭葉を削除した兵隊を多数作り出し、日本を転覆させる計画の直前で、岬美由紀の止められ世を去った。鬼芭阿諛子は母の意思を継いで日本政府の転覆を謀り、岬と対決する。

 

【感想・考察】

 耐震基準偽装建築などの時事問題や、GPSの精度の話など豆知識系の話が詰め込まれた、いつもの松岡流の展開だが、細かい部分まで伏線として回収され尽くしているのは驚いた。キーとなるミステリ部分で、前頭葉削除された意思のない共犯者がいる展開だけは興ざめで、展開に荒唐無稽なところが多すぎる気はするが、まあ、いつものように楽しめた。

 選択的注意集中で観察力は高まるが、本能に依存する能力なので本能的に拒否しているものは見えない、ということが一つのキーになっていた。見たくないものを見ることは自分の心の弱さを直視することに繋がる。友里も阿諛子 も自分の弱さに気づけなかったが、岬美由紀にはその強さがあったということだろうか。同じような能力と意思の強さを持ち、同じように為政者に失望することもありながら、善く生きようという意思を失わなかった美由紀をヒロインとして描ききっている、

 

千里眼シリーズを読んできた人であれば楽しめる作品だが、

未読の人にはちょっと取っ付きにくいと思う。

 

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