毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

イシュタム・コード

【作者】

 川口 祐海

 

【あらすじ・概要】

 主人公「雄」の少年期から青年となるまで、行方知れずの父に導かれ、友達に支えられ、「人間とは何か」、「自分は何のために生きているのか」を問い続ける。

 「雄」が小学生の頃から自殺者が徐々に増え、20代半ばとなる頃には世界で毎年数千万人まで急増してきた。特に自殺をする原因が思い当たらないような人も多く、特には集団自殺となることもあり、本当にただの自殺なのか不審に思う動きもあったが、あまりの数の多さにあえて取り上げられることもなくなっていた。

 人々はWorLDと呼ばれる仮想世界をSNSのように使い、交流をするようになっていた。またWorLDの中では、Self Development Program と呼ばれる自己成長を促す計画があり、教育コストが低下で貧富の差による教育機会の差が解消されつつあった。

 「雄」は人とは違う情動の使い方で長期記憶を保持活用できる能力を持っていた。重要でない時系列などは捨ててしまうため、一見すると記憶障害と思われるが、蓄積した記憶から導かれる「直観」に優れ、空気を読んで人を動かすことに長けていた。ベンチャー企業で働く中で頭角を表したが、最終的には「変わりたくない」大勢の人に埋もれ、計画は実行に至らなかった。

 そんな日々の中で、WorLD内で「賢者」と出会い、「この世界の問題は何なのか」、「人は如何に生きるべきなのか」語り合い、また、父の残した足跡を辿ることでいつしか世界の真相に気づいていく。

 

【感想・考察】

 主人公が成長する青春小説であり、人間社会の歪みを描き出すSF小説でもある。

「共感」をすることが人間の本質である。進化論的な社会の進歩は偶然の産物かも知れないが、自分の生きる理由を考えるから、「価値」を生み出すことができる、という主張が滲みるように理解できた。仮想世界であるWorLDの仕掛けなどもよく考えられている。2011年の作品だが、最近の状況を見ても違和感がない。個性豊かな友人たちとの討論や、さまざまな薀蓄もそれぞれ非常に面白い。

 それぞれは非常に面白いのだが、ちょっと詰め込みすぎた感じはしなくもない。本筋のストーリーと中心となるメッセージに絞るともっと読みやすいかもしれない。

 主人公が父に導かれながら、その足跡を追っていくストーリーからは、ハンター×ハンターを思い起こさせる。

 

 

超訳 孫子の兵法

【作者】

 許 成準

 

【あらすじ・概要】

 孫氏の兵法を現代語訳し、現代での戦争であるビジネスに当てはめ解説している本。

孫子の構成に合わせ13編に分け解説している。私自身が役に立つと感じた高項目は以下の通り。

・戦いは慎重に行うこと

 どのような決着をつけたいのか、勝算はどの程度あるのかを冷静に考え、憎しみなど感情の勢いで戦ってはいけない。

・戦いの基本は謀略であること

 正攻法と裏を描くトリックと織り交ぜ、多様な戦略を縦横無尽に繰り出す。

・戦いは素早く終わらせること

 勝つことができても長期戦は自分も消耗し失うものが多い。素早く勝つことが大事。

・戦わず勝つことが最前

 相手の戦う意思をくじく、相手にとっての戦いの利を失わせてしまうなどの方法で戦いを避けることが最前となることもある。

・有利なポジションをとることに全力を尽くす

 実戦でもビジネスでもポジションの有利さが決定的な意味を持つ。

・個人の能力ではなく全軍の勢いを使う

 平凡な能力を統率し一つに向けることができれば、どんなに優秀な個人より強い。

・先手を打つ

 相手の一歩先にでることは決定的に有利。

・情報を活用する

 孫子の時代から情報流通は圧倒的に増えているが、そのコントロールはよりむづかしくなっている。情報を制することで有利に戦えるのは不変。

 

【感想・考察】

 中国古典の翻訳は意味が取りにくいこともあるが、大胆な意訳で非常にわかりやすい。また解説も近現代の比較的身近なことがらを例に語っているので理解しやすい。

 義よりも実を取る考え方、自分の兵をあくまで道具として扱うなど、冷徹に見える部分もある。それでも、現代社会でもよりよく生きるためには、冷徹な戦いを仕掛けてくる相手にも負けない戦略を身に付けることが必要なのだと感じる。

 本の内容とは直接関係ないのだが、一部のページはイメージとして扱われており、iPhoneの画面では拡大しないと見難かった。電子書籍は様々なデバイスで読めることが魅力なので、極力汎用的な見せ方をしてほしいと願う。

 

やつがしら

【作者】

 円城 塔

 

【あらすじ・概要】

 お金を払えば、頭脳に様々なサービスをインストールできる未来の話。翻訳サービスを使えば外国語へのアクセスができるし、優秀な自己診断サービスを使えば健康を維持し長生きができる。お金を積んで優秀なサービスを集めれば創造的な活動もできるが、安価なサービスは質もそれなりという現代社会のネットワーク上のサービスと変わらない世界を描く。

 

【感想・考察】

 AIとの競争か、共存かという視点ではなく、「脳の機能を拡張する」というのは意外と実現性の高い未来の姿かもしれない。人の思考や知能を拡大支援する形で技術が活用されるのが一つの理想形なのだとも思える。

 拡張サービスの必要性を理解しない古い世代の人間として描かれる「両親」の数少ないセリフに人間味を感じる。この作者の作品は、ものすごくアナログな視点で、マトリックスのような近未来世界を描写する独特の違和感が面白い。

 ちなみにやつがしらはこういう野菜らしい。頭がくっついているようにも見える。。

 

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改貌屋 天才美容外科医・柊貴之の事件カルテ

【作者】

 知念 実希人

 

【あらすじ・概要】

 現役医師である作者による 天才形成外科医「柊貴之」と名乗る男を主人公とした物語。「柊」のクリニックにアルバイトで働く麻酔科医の視点で描かれる。

 老齢の資産家に嫁ぎ、前妻の顔となることを了承した後妻の話、

 暴力団のフロント企業の金を使い込んだ息子の顔を変えて逃亡させる話、

 醜形恐怖症から整形依存に陥った女優の話など、いくつかのショートストーリーの連作となっている。その背後で、4年前に起きた連続殺人事件に関わる謎が動き出し、柊たちが巻き込まれていく。「柊」とその弟子が連続殺人事件にどう関わっているのか、意外な展開を見せて物語は進む。

 

【感想・考察】

 手術の対象が、遺産相続を狙う後妻だったり、金を使い込んだヤクザものだったり、整形依存の女優だったり、法的にも倫理的にも問題がありそうなボーダラインで、そこに高額の手術費用をふっかける「柊」は、ダーティーな医者とも見える。

 ただ、「柊」は自分の「美意識」に忠実で美しいと感じない施術はしないし、施術対象の外見だけではなく、内面からも美しさを引き出したいという思いから動いている。結果としては施術を受けた本人もその周囲の人も幸せにしていく。

 一見すると問題ありげな依頼者達も、その背景には愛が溢れていて、全てが美しく心が動かされる。この作者は本質的には人を信じ人を愛しているのだと思う。人の心を明るく描くのが天才的に美味いと感じる。

 ミステリとしては登場人物が少ない分、意外性は少ないが伏線の回収は美しく最後まで一気に読ませる。素晴らしい作品。

 

リスを実装する

【作者】

 円城塔

 

【あらすじ・概要】

 リスの生活をシミュレートするプログラムを走らせ、観察する主人公の話。

 人工知能的なものではなく、ごく単純化されたパラメータでリスの生態を表現している。覚醒と夢の推移を「+1」、「−1」 と表現していて、覚醒状態と夢と夢の中の夢を極めて単純に表現している。餌を食べた、隠した、餌を隠したことを忘れたなど、多くの項目をシンプルに表現している。

 後半では別れた妻と独立した息子の回想を通して、シミュレーションの世界と現実世界を重ね合わせている。

 

【感想・考察】

 パラメータが単純化されている分だけ、抽象的な観念が具体的に理解しやすくなっている。 覚醒と夢を単純な数値のネストで表現しているのが、現実世界と重なってくる。今自分が見ているのは覚醒状態なのか夢なのか確かな基準は何もない。映画「インセプション」と同じような感覚をはるかにシンプルに示している。非常に高い筆力を感じた。

 

未来を変える選択 未来授業〜明日の日本人たちへ

【作者】

 養老 孟司

 

【あらすじ・概要】

 「未来授業」というラジオ番組で放送された講義を書籍化したもの。「バカの壁」などのベストセラーを持つ解剖学者である養老氏の、若者世代に向けた講義録。

 印象に残った点は以下の通り。

・「好きな仕事と仕事を好きになること」と題して、仕事との関わり方を述べている。自分の好きなことを仕事にできれば素晴らしいが、好きなことを仕事にする中でも、やりたいことと苦手なことが出てくる。養老氏自身も臨床より基礎研究がしたいという思いから解剖学を選んだが、解剖用の献体を集めることなど「好きなことをするためにはしなければならないが、それ自体は好きではないこと」もこなす必要がある。「好きなこと」を選ぶだけではなく、「やっている仕事」自体を好きになることも大切だとしているい。

・幸福の基準が「人間関係」に偏りすぎている。例えば自然の美しさにも幸せを得られる感性があれば、幸せも不幸せももっと広く普遍的に感じられる。人との関係だけに重点を置くのは危うさがある。

 

【感想・考察】

 アドラーは人の悩みは全て「人間関係」に起因するとしているが、「幸せ・不幸せ」の基準まで全てを「人間関係」に置くことの危うさは感じる。より良い人間関係を築くための努力は必要だが、もっと広い根源的な価値基準を持つことで、より安定することができると思う。

 

 

すべての疲労は脳が原因

【作者】

 梶本 修身

 

【あらすじ・概要】

 疲労についての研究をしている医学博士の著作。疲労の原因は乳酸ではなく活性酸素だという見解。疲労を定量的に評価するための疲労バイオマーカを見つけ、実際には有酸素運動程度では筋肉疲労は発生していないことが確認され、脳の自律神経を調整する部分(前頭葉の眼窩前頭野)が活動低下することが主因で、その根本的な原因は活性酸素による酸化であるとしている。

 精神的な高揚感やアルコールなどは疲労感をマスキングし感じにくくするが、疲労自体は蓄積しているので、過労による事故や健康障害に繋がるとしてる。

 疲労の発生を抑え、回復を早める為の方法として以下のような提言をしている。

・紫外線による活性酸素の発生を抑える為、直射日光に気をつけサングラスも活用。

・質の良い睡眠が不可欠。睡眠時無呼吸症候群防止のための治療法、補助器具(CPAP)を紹介。

・質の良い眠りのため、アルコールを避けること。

・質の良い眠りのため、夕方には橙色の光を使う、就寝前のブルーライトを避けるなど、サーカディアンリズムを整える工夫をすること。

・疲労を回復するための栄養素として「イミダペプチド」を紹介。鶏の胸肉などに多く含まれる。一度小さい構成のアミノ酸に分解されてから脳内で再構築されるため、脳疲労に集中的に効果を示す。

・ビタミンCも抗酸化効果はあるが、持続時間が短いため脳への効果は限定的。

・BCAAは直接的な疲労回復効果はない。筋肉増強には有効。

・アミノ酸はエネルギー代謝に必要となるため、細胞のエネルギー供給に有効。イミダペプチドなどの抗酸化物質と合わせて使うと効果が高い。

・鰻などビタミンB1を含む食品がスタミナをつけるという話もあるが、現代では十分足りている栄養素で特に補助する必要はない。

・脳をリラックスさせる環境も必要。脳は自然な揺らぎのある状況を好む。

・脳のワーキングメモリを増やし、脳の活動領域を広げることで疲労発生箇所が集中せず、疲れにくくなる。物事を多面的に見る、人とコミュニケーションをとる、多趣味となる、などが有効。

 

【感想・考察】

 疲労についての本だが、睡眠・栄養・環境 から脳の使い方まで広範囲について言及されていて学ぶべき点が多い。医学博士の著作だけあって、「睡眠時の呼吸改善(CPAP)」や「疲労回復に効果のある栄養素(イミダペプチド)」など具体的な施策についてはきちんとしたエビデンスを提示している。「疲れをきちんと感じてきちんと休むことが大事」だというメッセージは伝わってきた。

 

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