改貌屋 天才美容外科医・柊貴之の事件カルテ
【作者】
知念 実希人
【あらすじ・概要】
現役医師である作者による 天才形成外科医「柊貴之」と名乗る男を主人公とした物語。「柊」のクリニックにアルバイトで働く麻酔科医の視点で描かれる。
老齢の資産家に嫁ぎ、前妻の顔となることを了承した後妻の話、
暴力団のフロント企業の金を使い込んだ息子の顔を変えて逃亡させる話、
醜形恐怖症から整形依存に陥った女優の話など、いくつかのショートストーリーの連作となっている。その背後で、4年前に起きた連続殺人事件に関わる謎が動き出し、柊たちが巻き込まれていく。「柊」とその弟子が連続殺人事件にどう関わっているのか、意外な展開を見せて物語は進む。
【感想・考察】
手術の対象が、遺産相続を狙う後妻だったり、金を使い込んだヤクザものだったり、整形依存の女優だったり、法的にも倫理的にも問題がありそうなボーダラインで、そこに高額の手術費用をふっかける「柊」は、ダーティーな医者とも見える。
ただ、「柊」は自分の「美意識」に忠実で美しいと感じない施術はしないし、施術対象の外見だけではなく、内面からも美しさを引き出したいという思いから動いている。結果としては施術を受けた本人もその周囲の人も幸せにしていく。
一見すると問題ありげな依頼者達も、その背景には愛が溢れていて、全てが美しく心が動かされる。この作者は本質的には人を信じ人を愛しているのだと思う。人の心を明るく描くのが天才的に美味いと感じる。
ミステリとしては登場人物が少ない分、意外性は少ないが伏線の回収は美しく最後まで一気に読ませる。素晴らしい作品。