シンプルリスト
【作者】
ドミニック・ローホー
【あらすじ・概要】
様々な「リスト」を作ることで、心を整理しようという本。主なリストの例として;
・自分の好きなもの
・自分がロールモデルにしたい人
・自分の夢
・人生の羅針盤
・恐れていることや不安なこと
・五感の快不快
・自分や大切な人の死について思うこと
など、多岐にわたっている。リスト化することで、漠然としていたものが明確化することがポイント。目標を明確化すれば達成に近づく。恐れや不安はその対象がはっきり捉えられれば、解決に近づく。
【感想・考察】
前作でもシンプルに生きることを提唱していた作者。気になることを心に抱え続けるよりは、書いて外出ししてしまうと楽になり、思考が自由を取り戻すというのはると思う。書くことで思考を具体化することの力は大きいと思う。
仕事で成長したい5%の日本人へ
【作者】
今北 純一
【あらすじ・概要】
作者は東京大学卒業後、旭硝子に入社し、のちにオックスフォード大学の招聘教官としてイギリスに渡り、スイスのバッテル研究所、フランスのルノー、エア・リキッド社を経て、CVAコンサルティングのパートナーとして活躍している。
長く欧州で生活し、自分自身の看板で働いてきた矜持があって、「欧州と日本の架け橋になりたい」ということを自分のミッションと感じている。
何事かを成すためには、MVP(Mission、Vision、Passion)が必要だということ。個人主義が根付いているヨーロッパでは、自分の思いを前面に出さなければ相手にされないということ。ユーモアのセンスが大事で、切迫した場面でもユーモアで返せるような心の余裕が評価されるということ。自分を試そうとする人にも、敵意を持って退治してくる人にも、まずは自分から胸襟を開くことが必要だということ。
等々、ヨーロッパで長く暮らし、日本人が世界で活躍して行くために、現状足りていないこと、必要な考え方や姿勢をあげている。
出世や給与に目標を置くのも良いが、自分自身の成長を目標とすることが大事だと考えている。
【感想・考察】
成長したい人が5%だというのは、自分の講演会などで熱意を持って聴講する人は、客層にも母数にも関わらず、常に5%程度だという実感かららしい。文章からもPassionが溢れており、勢いを感じる。作者が「エーテル理論」と読んでいるが、対面した人の思いや熱量は伝わるものだと思うし、文章を通じても届くものだと感じた。
どのような立場であっても、グローバルな視点で生きることが不可欠な時代に、長い欧州生活の経験を伝えてくれる本として、非常に脅威深く読めた。
量子論に聞いてみよう: エネルギーの観点から眺めると世界が違って観えてきます。
【作者】
梅本 敏
【あらすじ・概要】
量子論を数式などを使わず説明しようとした本。物質の本質はエネルギーであるということは理解できる。ただこの本は量子力学を語る内容ではなく、ポジティブに生きましょうという精神論であり、全ては波動でポジティブな波動は近い波動を呼び込むという、いわゆる「引き寄せの法則」的な内容だった。
【感想・考察】
量子論を簡単に説明したものを期待していたが、全く異なる内容だった。「平和を望む人」と「戦争に反対する人」の目指すベクトルは同じでも、引き寄せる結果は逆になるという例などは分かりやすかったが、求めていた内容とは違っていた。
量子論について知りたい人が読むべき本ではない。
神酒クリニックで乾杯を 淡雪の記憶
【作者】
知念 実希人
【あらすじ・概要】
神酒クリニックシリーズの第2弾。記憶を失った女性、美鈴が神酒クリニックで治療を受けることになった。彼女はビル爆破に使われた爆弾の時限装置について何かを知っているようだった。精神科医である翼が徐々に記憶を解き明かして行くが、「思い出したくない記憶」が記憶の回復を妨げる。爆破犯を追い詰めながらその目的に気づき、美鈴の思いも蘇る。
前作から引き続いて、それぞれに特殊技能を持つ神酒クリニックのスタッフたちが、存分に活躍するが、特に翼と美鈴の交わりが切ない。
【感想・考察】
この作者の人物造形が好きで、心地よく読める。ミステリーとしては大体の筋書きは途中で見えてくるが、それぞれの登場人物の心理描写が深く引き込まれる。また、今回気づいたのが、格闘シーンの描写の上手さ。文字だけでボクシング対総合格闘技の大戦場面が鮮やかに眼に浮かぶのは素晴らしい。数作を経て描写力が高まっているのだと思う。楽しく読める本だった。
この日本で生きる君が知っておくべき「戦後史の学び方」 池上彰教授の東工大講義 日本篇
【作者】
池上 彰
【あらすじ・概要】
池上彰氏の東工大での講義を元にした書籍の第2弾。前回は近代史についてだったが今作は日本の戦後史について、戦後の出来事が現代にどう繋がっているのか説明をしている。
主な内容は、以下の通り。
・自衛隊の存在は合憲か違憲か
米国(連合国)の意図で武力を持たない体制となった日本だが、ソ連・中国などの社会主義勢力に対抗するため、戦略的に重要な位置を占めるようになった。米国の意向から改めて、警察予備隊を組織し自衛隊に昇格した。
実は憲法起案の段階から、当初「戦力は保持しない」とあった草案を「国際紛争を解決する手段としては、戦力を保持しない」という文脈に変え、自衛のための戦力は保持できる道を残していた。
自衛隊の違憲性について地方裁判所レベルでは司法判断がされたこともあるが、最高裁では「高度に政治的で司法が扱うのに適さない」といて違憲立法審査権を放棄している。
国際貢献の目的や、集団的自衛権の判断基準変更から、自衛隊が海外へ派遣ケースも増えてきたが、現行憲法下では解釈の苦しさは拭えず、改憲の上、正式に国防軍とすべきだというのが自民党政権の考えだと述べている。
・55年体制から始まる、日本での二大政党制
社会主義と資本主義の対立が明確で左右の対立軸が明確であった1955年には、社会主義政党が連合し、それに対立する自由党と民主党が合同し自由民主党も成立した。これが55年体制と言われるものだが、その後長く自民党からの政権交代は行われなかった。自民党内部での派閥闘争が実質的な意味での政権交代となっていたが、政策の違いを争うというよりも、内部的な力関係で勢力が決まるため、選挙が影響力を及ぼすことはなかった。時代は下り1990年代になると小沢一郎が主導した政党分裂の多発で、自民党からの政権移行は何度か起こったが、これも本質的な政策を問うものでなく、政権維持のための主義主張を無視した政党同士の連立が多発したため、「どの政党が政権をとっても変わらない」という空気が蔓延してしまっている。
・1968年 全共闘の時代
1960年代後半には世界的に学生による反政府運動が盛んになった。日本では反安保闘争で活動した全学連があったが、東大で発生した政府の大学への干渉や日大での学生軽視の姿勢に対して闘争が発生し、戦闘的な学生運動へと発展していった。のちには革マル派と中核派の分裂による近親憎悪的なセクト対立が多発し、あさま山荘事件など内部でのリンチ死が公表され、学生が徐々に引いていった。連合赤軍など一部は更に過激化し、よど号のハイジャックなども引き起こしている。
・なぜ沖縄に米軍基地が多いのか
第二次大戦の終戦間際に、米軍は沖縄に上陸し陸上戦闘を行った。終戦後にも沖縄は1972年まで日本に返還されず、米軍の極東戦略拠点として使われてきた。返還後も米軍の戦略上重要な位置をしめるため、基地はそのまま残された。冷戦終結後もなお、対中国・ロシアという意味合いから基地は残されている。
【感想・考察】
古い時代の歴史や、地理的に離れた所の歴史を語るのと比較すると、現代の日本について語ることは、自らの政治的立場を明確にせざるを得ず、ある程度の中立性を求められる、教授・コメンテイターとしての池上氏には難しいところもあるのではないかと感じた。学生に対して自分の頭で考え、常に批判的な視点も失わないように教えてはいるが、どうしても色がついてしまう。
学生運動を直接体験した世代としては、その時期の空気感を伝えたいと思いつつも、「何の成果も得られませんでした」という自虐的な目線も持っているように思える。改憲なども是々非々で合理的な考え方をしていると思われる。
現代社会で問題になっていることの起源を知り、考える材料を得るためには役に立つ本だと思う。
神酒クリニックで乾杯を
【作者】
知念 実希人
【あらすじ・概要】
「飲酒による医療ミス」が疑われ、勤務先の病院から追い出された九十九医師が主人公。格闘術に長けた優秀な外科医、演技力を備えた産婦人科医、驚異的な記憶力を誇る内科医兼麻酔医、自動車運転で人格が変わるナースなど、能力バトル漫画並みの特異能力を持った医師たちが勤務する、神酒クリニックで繰り広げられるストーリー。
天久鷹央シリーズとも世界が繋がっていて、桜井刑事も出てくりし、神酒クリニックには天久翼という鷹央の兄である精神科医もいる。相手の心が理解できないアスペルガーである妹とは真逆で、表情筋の動きなどから相手の心が読めすぎてしまう”さとり”のようなキャラクターとして書かれていた。
ストーリとしては、実は大手財閥の未認知の息子であった男性がバラバラ死体で発見され、被害者の軌跡を追い、裏カジノや密輸組織との対決する。神酒クリニックのキャラクター達の活躍が単純に楽しいが、ミステリーとしても簡単にストーリーが読めず、展開に引き込まれる。
【感想・考察】
この作者の作品が好きなので、他シリーズから繋がる話は十分に楽しめた。ミステリーとしても、伏線の敷かれ方が丁寧で、鷹央シリーズのような突飛さはない。各キャラクターの物語が断片的にちょい出しされ、続編でさらに踏み込んでくれることを期待したい。楽しい作品だった。
東大主席が教える超速「7回読み」勉強法
【作者】
山口 真由
【あらすじ・概要】
作者は東大在学中に司法試験と国家公務員一種を取得し、主席で卒業。その後財務省を経て弁護士として企業法務に従事、ハーバードロースクールに留学など凄まじい経歴の持ち主。
自分の勉強法である「7回読み」の解説をすると共に、モチベーションの高め方などメンタルに関わる部分も詳しく説明している。
まずはモチベーションの高め方として、「根拠なき自信」から「やらなくても、できる」という思考に陥らないよう、「やればできるから頑張る」とするため、小さな成功体験を積み上げ「自信」を持つことが大事だとしている。
また特に印象深かったのが、問題を解いても間違いを記録して穴を潰すことに注力しない、とか、目標を定める時には実現可能なレベルで逃げ道も残しておくなど、精神的にマイナスの状態に陥らない工夫を数多く取り入れていることだった。
「7回読み」自体は、学ぼうとする分野について網羅性の高い書籍を選択し、最初の数回は流し読みでキーワードを目に入れる程度、4〜5回目くらいで重要な観念の繋がりや論旨を掴み、最後の数回で確認し自らのものとする。300ページくらいの本で、一回あたり30分ほどで読み、全体では3〜4時間くらいで終わらせる。数学などでは「7回解き」などバリエーションも紹介している。読みながらメモをとったり、マーカーを引くのではなく、本自体が語りかけてくる重要箇所を文章の流れから掴む方が良いという考え方。
【感想・考察】
作者はサラサラと読む、と言っているが、一つの本を7回読むというのは、かなり大変なことだと思う。作者自身「勉強は苦しいこと」と規定しているので辛くても頑張るということなのだとは思う。私自身は佐藤優氏などが提唱しているように、一つの分野について入門書から中上級の本まで5〜6冊を読み、複数図書の中から重要ポイントや共通する論旨を抜き出す方が楽だと思う。ただ試験対策など、ある分野の内容を記憶することが必要な場合は、読む本を絞る方が効率的だというのも理解できる。
またこの作者はメンタル面について深く配慮をしている。モチベーションを高めるため、評価を受ける機会を作り、実社会でもゲーム的に自己の評価を高めることに喜びを覚えている。逆に精神的にマイナスとなるような事柄は徹底いて排除しようとしている。
参考となるポイントが多い本だった。