LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略
世界の変化を「寿命が長くなっている」
という視点からみて分析した本です。
寿命が長くなって「教育・仕事・老後」の
3ステージではわまらなくなってきたから、
お金や働き方の長期計画が必要だし
「働くための知識や技能、心身の健康、
家族や友人との関係、幅広い人的ネットワーク」
といった「無形資産」も意識する必要もあるね、
という内容です。
【タイトル】
LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略
【作者】
リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット
【あらすじ・概要】
「人生100年時代」を迎え、従来通りの人生設計では
長い老後を乗り切れなくなってきている。
与えられた時間をより豊かに過ごすため
「考え方」や「行動」を変えていくことを提唱する。
・平均寿命の長期化
平均寿命は長期化している。
100年前に生まれた人が100歳まで生きる可能性は
1%程度だったが、
2007年に先進国で生まれた子供が
100歳まで生きる可能性は50%を超えている。
発展途上の国の平均寿命は先進国より短いが
ほとんどの地域で長くなる傾向にあることは間違いなく
長期的には追いつくものと考えられる。
生きている時間が長くなっただけではなく
慢性疾患の発症年齢も遅くなる傾向があり
「健康寿命」が長くなってきている。
著者は人間の寿命には限界があると考えているが
それでも、いまよりはまだ伸びる余地があるとみている。
・世代別資金計画の変化-1945年生まれのケース
1945年生まれのケースでは、人生は
「教育」「仕事」「老後」の3ステージで構成されている。
教育期間と仕事期間の初期に身に付けた
知識や技能で「仕事」の期間を乗り切る。
公的年金や企業年金がまだギリギリ機能していて
平均寿命が70歳程度と短いこともあり
60歳前後の定年まで働き、年収の4%を貯蓄していれば
最終所得の50%程度で生活することが可能。
また家庭では、男性が稼ぎ頭として外で働き
女性は家事や育児を主とするという分業が一般的。
・世代別資金計画の変化-1971年生まれのケース
1971年生まれのケースでは
従来の3ステージを前提とした仕組の中で生きながら
それが機能しなくなる状況に直面する。
平均寿命は85歳と長くなる一方で、
企業年金はほぼなくなり、公的年金も縮小していく。
65歳で定年する場合、引退後最終所得の50%で
生活するためには、就労期間中 17.2%を
老後資金として貯蓄に回す必要があり
実際にはほぼ不可能なレベルとなっている。
定年を迎える前から準備を進め
ポートフォリオ型(いくつかの仕事を行う)や
インディペンデント型(自ら起業)の働き方で
75歳くらいまでは継続収入を得ることで
乗り切る必要がある。
従来の3ステージに追加する3.5ステージか
4ステージでの生き方となる。
・世代別資金計画の変化-1998年生まれのケース
1998年生まれのケースでは、100年以上は
生きる可能性が高い。
仮に65歳で引退しようと思うと、
最終所得の50%で生活するためには
就労期間を通して25%を貯蓄に回す必要があり
実行不可能。
必然的に就労期間が長くなり、
同時に技術革新のスピードも上がるため
「学び直し再投資する期間」や
「変身のための活力や外部ネットワークを
醸成する期間」も必要となり
より複雑な人生設計が必要となる。
またそういった「収入のない期間」を
支え合うため、パートナー同士の信頼感や
高度なすり合わせ能力が必要となってくる。
・雇用の未来
産業は新陳代謝している。
AIやロボティクスの発達で
機械に置き換えるのが困難な高度な業務や
機械より人間の方が低コストな業務を除く
「中程度のスキルを求められる仕事」を手始めに
置き換えが進んでいる。
この幅は今後さらに上下に広がっていくものと
予想される。
・見えない資産-生産性資産
長い人生を豊かに過ごすためには、
金銭などの「有形資産」だけではなく、
目には見えない「無形資産」のマネジメントも必要。
「生産性資産」は仕事のための知識や技能。
3ステージ型であれば、
教育期間と仕事期間の初期に積上げた
「生産性資産」で就労期間を乗り切れたが
就労期間が長期化し、技術革新も進む中では
途中で「生産性資産」の充実に
資源を振り向ける必要がある。
・見えない資産-活力資産
「活力資産」は心身の健康や、
家族・友人との良好な関係。
就労期間が長期化し60年に渡って全力疾走すれば
心身の健康を害し活力を失ってしまう。
その間、家族や友人をおざなりにすれば
幸せの根拠が失われてしまう。
人生の長期化に応じ、従来より意識して
資源を振り分ける必要が生じている。
・見えない資産-変身資産
人生での変化変身に耐えうるための力。
何度かステージを変える必要が生まれる分、
「移り変わる人生の中で変わらないものは何か」を
見極め自分の軸となるアイデンティティーを
確立することが必要となる。
また「多様性のある外部ネットワーク」も
違う世界に移るために必要となる資産だ。
・新しいステージ-エクスプローラー
3ステージで人は「一斉に同じような人生」を歩んだが
画一的な基準がなく、より複雑なステージを生きる人は
「周囲の世界を知り、自分が好きで得意なこと」を
探すため、日常から切り離された
エクスプローラーのステージを経る必要がある。
・新しいステージ-インディペンデント・プロデューサー
永続的な起業ではなく、
プロトタイピングによる試行錯誤を繰り返しながら
「組織に雇われず、独立した立場で生産に携わる」。
これは金銭的なマイナスを最小限に止めながら
生産性資産と活力資産を支えるために有効。
・新しいステージ-ポートフォリオ・ワーカー
「支出をまかなうための仕事」
「過去の経験を活かし、スキルと維持できる仕事」
「新しい学びを得て、やりがいを感じられる仕事」を
上手く組み合わせていく。
長期間を乗り切るには「選択肢を維持すること」が有効。
・お金の考え方
長い人生ではお金の問題への取組みが不可欠。
人は目先のものに流される傾向があるので
長期計画を立て実行するためには
自己効力感-自分は成果を出せるという感覚
自己主体感-未来の自分も自分という感覚
が必要となる。
・時間の使い方
楽しみとしてのリクリエーションだけでなく
自己再生のための リ・クリエーションに
投資することが必要となる。
・未来の人間関係
「男性は有形資産の獲得を目指し
無形資産の維持向上は女性が担う」
という分業は成り立たなくなってきている。
人生のステージを何度も変えていく中で
収入のない期間が生じるため
パートナーで支えあることが必要となるが
そのためには深い信頼関係と、
コミュニケーション能力が欠かせない。
また、人生の長期化で「子育て」が占める割合が
相対的には減ってきており、
家族以外の関係も重要性が増してきている。
さらに「教育・仕事・老後」の3ステージ構成では
年齢とステージが連動していたが
その解体で年齢とステージが入り組んでくる。
若者と高齢者が一緒に学んだりする場面が増えれば
相互理解が進んでいくことが期待できる。
・変革への課題-自己意識
多くのステージを経験する変化の激しい人生では
その軸となる「アイデンティティー」の確立が
欠かせない。
・変革への課題-教育機関
人生の各ステージで学びが必要となる、
という考え方で教育機関も変わる必要がある。
・変革への課題-企業
企業側は画一的で予測可能なシステム維持を望むが、
優秀な人材の維持のためには変わる必要がある。
・変革への課題-政府
長寿命化に対応した財政制度の見直しが緊急課題。
また寿命・健康寿命と収入に相関関係があるため
低収入層への支援も不可欠。
【感想・考察】
社会問題を見る切り口にはいろいろあるが
「長寿命化」という視点は面白い。
長く生きるためには、金銭面だけではなく
稼ぐ力や、活力、人的ネットワークなど
無形の資産が重要だというのは、その通りだと思う。
数十年後に世界を予測するのは難しいが
「変身」するための資産を備える必要がある
というのも間違いないだろう。
「AIやロボットが仕事を奪うから
代替されない仕事を目指すべき」という
主旨の記述もあったが、
AIやロボティクス自体が脅威なのではなく
「富の配分」の問題に過ぎないと思っている。
AIやロボットが働いてくれることで
「少ない労力で、大きい富をえる」ことが
できること自体は脅威ではなく
一部のプラットフォーマーに富が集中する
ことが課題で、そこを解決する必要が
あるのだと考えている。
「富の配分」だから簡単な問題なわけではなく
市民革命も、帝国主義戦争も、
資本主義・共産主義の対立も
突き詰めれば「富の配分」が原因で
困難な課題なのだと思っている。
ただ、AIやロボットが生み出す富が
膨大になってくれば、争いの要素は減るとも
期待している。