毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

「思考軸」をつくれ あの人が「瞬時の判断」を誤らない理由

【作者】

 出口 治明

 

【あらすじ・概要】

 60歳になって独立系の保険会社 ライフネット生命を立ち上げた作者が、思考軸を持つことの大切さを語る本。

 直感を信じ即断していくが、直感のベースとなるのはインプットの幅と量を上げていくことが大事だという。ココ・シャネルの言葉として紹介していたが、毎日一つでも謎が解決されていけば、その分だけ決断はシンプルになっていく。新しいことを知れば知るほど、不確定要素が減っていくという考え方を紹介する。

 自分を開き、幅広い世界に触れ、自分自身の思考の軸を作ることで、どのような世界でも生きていくことができるというのが最大のテーマ。

 

 作者自身の思考軸の例として5つの項目を上げていた。

 ・人間は動物である

  人間は万物の霊長として特別な存在と自認しているが、行動の根本原理は動物であり、性欲・食欲・睡眠欲が支配している。そこをベースに考えると人の動きを理解しやすい。

 ・人間はそれほど賢くない

  人間は同じ過ちを何度も繰り返す。賢い人とそうでない人はいるが、その差も実は大したことがない。「人間はみんなちょぼちょぼや」という小田実の言葉を紹介していた。

 ・人生はイエス・ノーゲーム

  人生はイエス・ノーを選び進んでいくゲームのように選択肢によって進む方向がどんどん変わっていく。良い選択も悪い選択もあるが、「禍福は糾える縄のごとし」であり、その時の決断が良いか悪いかその時点では結論付できない。そう考えてその時点で最良の意思決定をするよう心がけていくのが大事だという趣旨。

 ・すべてのものは「トレードオフ」

  何かを得ようと思えば必ず何かを失う。何かを失う決意なしに何かを得ることはできない。このことを思考軸に据えておくことが大事だと述べる。

 ・「おおぜいの人」を「長い間」だますことはできない

  一時的に騙したり、ごく少数の人を騙し続けることはできるかも知れないが、大勢を長期に渡り余すことはできない。結局は正攻法で誠実に生きることが最良の選択肢なのだということ。

 

 また思考軸として、歴史的な時間を縦軸に、地域や文化などの広がりを横軸に捉え全体を見る努力が必須だとしている。

 

 思考軸を作るためには、幅広く大量のインプットが必要だが、そのために本を読み、昨日と違う経験を積み、新しい人と触れ合い、自ら辺境へ出ていく意気込みが必要としている。

 

 リーダーシップには、「やりたいことを持ち」、「旅の仲間を集め」、「目的地までチームをまとめ引っ張っていくこと」が必要だと述べている。これは何が何でもやりたいという強い気持ちが必要で、そのビジョンでメンバーを引っ張っていくことが必要。

 

 また最も勝率が高い戦術は常に正攻法であることを、自身の保険会社設立の時の話を絡め信念をもって述べている。

 

【感想・考察】

 メッセージが非常に頭に入りやすい。自分の設立した保険会社の話が長々と続いたり、自社の社員に自分を賞賛するコメントを述べさせたり、ちょっと詰まるところはあったが、全体として非常に意義深い本だった。

 思考軸の一つとして、人は所詮動物だと述べていたが、人の行動原理が根本的には動物としての本能によるものだというのは、人間関係や行動を読み解くのに有用だと思う。実際には高度に社会化しているため、個人レベルの本能では説明できない利他的行動があっても全体としてみれば、根本にあるものは動物と変わらないのだと思う。

 また、正攻法が最短ルートというのは、実績を残してきた人の言葉として重たく、また清々しい美しさを感じた。

 

 一読を勧めたい本。

 

虚ろな十字架

【作者】

 東野 圭吾

 

【あらすじ・概要】

 娘を強盗に殺され、その事件のわだかまりから離婚した前妻が殺された。元妻の足跡を追い、犯人やその親族・関係者達の隠された過去を探り歩いていく話。

 元妻は自分の娘を殺された時の苦しさと、その苦しさを乗り越えるために犯人の死刑という過程が必要だったという実感から、死刑廃止論に反対する運動を行なっていた。一方で主人公は、ペットの葬儀社で働き、小さな命を供養して残された人たちの心が浄化されることに心の安寧を求めていた。

 プロローグから始まるいくつかのストーリーが紡がれ、後半では一つの物語に収束していくのは、流石の筆力で圧倒的。

 

【感想・考察】

 ”さまよう刃” や ”手紙” などから続き、犯罪被害者や加害者、その家族親族などの苦悩をテーマとした作品。

 現在の懲役刑で犯罪者の更生を望むことはできず、再犯の可能性を無くし、被害者遺族が苦しみを乗り越えるための過程とするためにも死刑は必要だと主人公の元妻は述べる。一方で過去に犯した罪を償うため、真摯に生き、数多くの人を救い、そういう贖罪の方がよっぽど意味があるのではないかと、ある登場人物は述べる。

 自分の犯した罪を真摯に償えるかどうかは、その人の魂の貴賤に関わっていると思う。罪を犯しつつ刑罰から逃げ切ろうとする卑しい精神の持ち主が、何かのきっかけを得て真摯な贖罪に向かうということが、この小説のように起こるとは思えない。犯罪には厳罰をもって処し、少なくとも再犯を防ぐという意味で死刑に意味はあるとは思う。

 一方で東野氏は意図的に言及を避けてはいるが、冤罪の可能性はどうしても拭えず、人間による不完全な判断で人間の命を奪うことが正しいとは思えない。

 東野氏の作品でも社会的メッセージが強い内容の時は、著者は明確な立場を示さず、読者に考えて欲しい、考える契機として欲しい、という意図が見える。初期の”本格推理”の鮮やかさが好きな作者だが、こういう話も読み応えがある。

 

 一つ本編とは関係ないが、東野氏はどうも電子書籍嫌いのようだが、利便性を考えると電子書籍化に寛容であって欲しいと切に望む。紙の本だけで読む場所が限定されてしまう。作品を広く伝えるためにチャネルは増やして欲しい。

 

 

 

 

優しい死神の飼い方

【作者】

 知念 実希人

 

【あらすじ・概要】

 犬の形で人の世界に降りてきた”死神”が、古い洋館を改築したターミナルケアのホスピスで、死を間近に控えながらこの世に未練を残し、地縛霊となりそうな人々を救っていく物語。

 主人公の”死神”は、ホスピスの看護師である 菜穂に吹雪の中から救われ、ホスピスで買われることとなった。病院にはそれぞれ過去に悔いを残した4人の患者がいて、それぞれが思い残したことを、”死神”が干渉し、過去に起こったことの真実の姿を見出し、魂を解放していく。

 戦時中の悲恋、借金に終われた末の暴走、自分の絵に自信を失ってしまった絵描きの話がほぼ独立した短編のように語られるが、その舞台となった洋館やそこに住んだ家族のストーリーが背後で繋がっていて、結末へと導かれる。

 それぞれの物語で謎が解かれるミステリでもあるが、登場人物たちの生き様を描く優しい話だった。

 

【感想・考察】

 登場人物たちは死を目前に控えていることを自覚しているが、過去のわだかまりをといて、残された日々を充実して生きていく。作者は死が人の日常から遠いものになってしまったから、いざ死を目の前にして思いを残すことが多くなっているのではないかと”死神”に語らせている。「生きることは死なないことではなく、与えられた瞬間を逃すことなく燃焼させることだ」といメッセージが熱い。

 天久鷹央シリーズの作者なので、ラノベ寄りの軽さを想像していたが、ーマは重く予想を裏切られた。ただ語り口は軽く、登場人物たちも清々しいので、くらい読後感にはならない。

 とても面白い本だった。

 

 

 

 

 

この国のかたち

 【作者】

 司馬 遼太郎

 

【あらすじ・概要】

 多くの時代小説を著してきた作者が、歴史観を綴ったエッセイ。多くの切り口があるが、特に印象に残ったのは下記の部分。

・日本の帝国主義時代

 統帥権の肥大によって現れてきた、それまでの日本の歴史と連続性のない、数十年間の特異な時代だったと見ている。日本の歴史の美しさを愛しつつ、無謀な戦争に突っ込んだ当時の日本を許せない思いなのだろう。帝国主義は自国内でのマーケットが限界に達した資本主義国家が市場と資源を求めて海外進出したもので、当時それほど資本主義が発達していなかった日本が帝国主義に突入したのは、日露戦争に辛勝し拡大した海軍力を縮小できず、さらなる拡大以外に選択肢がない状況にあったからだと述べている。

・江戸文化の多様性

 江戸時代はそれぞれの藩での教育や士族制度が極めて多様で、多彩な文化が交わるある意味国際的な時代だったと述べている。作者は特に薩長や土佐などの放埒な文化を特に好んでいるようだ。その多様性が明治の土台を作ったと考えている。

 

 

【感想・概要】

 歴史を学ぶことにはいくつかの意味があると思うが、その中でも大きなものは

① 過去の出来事の因果関係を学び、これから起こることを予測する助けとする。

② 魅力的な人物の生き方をなぞり、自らのロールモデルとする。

の2点ではないかと考えている。 

司馬遼太郎の小説は、人物の描写が魅力的で②のロールモデル発掘に意義があると思っていたが、ストーリのないエッセイでは作者の歴史観が直接的に語られ、豊富な知識が溢れるように流れ込んでくるので、①の意義が強く、違った面白さを味わえた。

 

吾輩は猫である

【作者】

 夏目漱石

 

【あらすじ・概要】

 吾輩は猫である。名前はまだ無い。という導入部分は有名だが、ちゃんと読んだことはなかった本。

 猫の一人称視点で人間を観察し、人間の視点では見出せないような人の業をシニカルに切り出した話だが、進むにつれて猫の視点が重要ではなくなり、主要登場人物の台詞回しだけで十分シニカルな話が進んでいた。

 猫の主人となった教師の苦沙弥先生や旧門下生である学者崩れの寒月や、実際何をしているのかわからない美学者の迷亭や、詩人・文学者の東風、また苦沙弥の奥さんや娘など、風変わりな人物たちの会話で明治の風景を描いている。

 落語のような滑稽文という体裁だが、述べられる内容にはそれぞれ深い教養や思慮が感じられる。

 結末で名の無い猫がああいう運命を辿ることは知らなかった。

 

【感想・考察】

 明治時代の話ではあるが、個人主義の急速な拡大が生きにくい世の中を作っているという見方は現在にも通じる。個人主義が徹底するとマスに発信する文化はなくなると予極論を述べているが、ネットの拡大でテレビ・新聞やCDといった幅広い”大衆”に向けたコンテンツは勢いを落とし、ごく小規模のそれぞれの嗜好にあった事柄に分散していく現在の状況はまさに予言通りと言える。実際には情報処理能力の向上で小口分散した嗜好の流れが把握できるようになって、新たな形のマイクロ-マスメディアができているのだとも思うが。

 時代を超えて面白いと思える本だった。 

 

 

 

 

 

スフィアの死天使 天久鷹央の事件カルテ

【作者】

知念 実希人

 

【あらすじ・概要】

 天久鷹央シリーズの第4作目だが、時系列としては一番最初で語り手の小鳥遊優と天久鷹央の出会いを描いている。

 「宇宙人に命令された」と言い、意志の宿らない目で同僚の医師を殺されるところから始まり、「宇宙人」との交信を教義の根源とする新興宗教との争いを経て、結末に至る。

 

【感想・考察】

 今作では特に鷹央の人物描写が丁寧にされていた分、深く入り込んで読むことができた。鷹央がアスペルガーという”個性”を持ち、天才でありつつ人間関係の不器用さを自覚し、生き辛さを感じていることや、その鋭さから真実に無遠慮に切り込みながらも、”相手を傷つける自分”に心痛めている描写は、このシリーズの面白さを数段階深めてくれた。

 天久鷹央シリーズを読むのであれば、この作品に触れておいた方が間違いなく良い。

 

 

 

ノベライズ この世界の片隅に

【作者】

 原作:こうの史代

 ノベライズ: 蒔田陽平

 

【あらすじ・概要】

 映画化された同名のコミックのノベライズ版。

 第二次世界大戦の開始前から、終戦後しばらくまでの広島・呉が舞台。

 広島で暮らしていた すず が 呉に住む 周作に嫁ぎ、戦争の影が濃くなりつつある中、強く生きていく話。大きな軍事工場や軍港のあった呉の戦時中の風景が描かれている。戦争に大事なものを次々と奪われながらも、世界の片隅で自分を見つけてくれた周作に感謝し、世界の片隅でたくましく生活を続けていく。

 

【感想・考察】

 恋愛で好きになった相手と結婚するのではなく、結婚が出会いで生活を共にしていく中で徐々に相手に対する愛情が芽生えてくるという感覚は、ある意味正しい在り方なのかもしれない。絵の得意なすずが右手を奪われ、自分に懐いてくれた姪を失い、両親も兄も幼馴染も失いながら、周作や嫁ぎ先の家族と支えあいながら、世界の片隅で生きる場所を作っていく姿には力強さを感じる。

 戦争を描く話だが、すずの明るさに支えられ暗くならずにまとまっている良い話。映画を見てみたいと思った。

 

 

 

 

 

 

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