吾輩は猫である
【作者】
夏目漱石
【あらすじ・概要】
吾輩は猫である。名前はまだ無い。という導入部分は有名だが、ちゃんと読んだことはなかった本。
猫の一人称視点で人間を観察し、人間の視点では見出せないような人の業をシニカルに切り出した話だが、進むにつれて猫の視点が重要ではなくなり、主要登場人物の台詞回しだけで十分シニカルな話が進んでいた。
猫の主人となった教師の苦沙弥先生や旧門下生である学者崩れの寒月や、実際何をしているのかわからない美学者の迷亭や、詩人・文学者の東風、また苦沙弥の奥さんや娘など、風変わりな人物たちの会話で明治の風景を描いている。
落語のような滑稽文という体裁だが、述べられる内容にはそれぞれ深い教養や思慮が感じられる。
結末で名の無い猫がああいう運命を辿ることは知らなかった。
【感想・考察】
明治時代の話ではあるが、個人主義の急速な拡大が生きにくい世の中を作っているという見方は現在にも通じる。個人主義が徹底するとマスに発信する文化はなくなると予極論を述べているが、ネットの拡大でテレビ・新聞やCDといった幅広い”大衆”に向けたコンテンツは勢いを落とし、ごく小規模のそれぞれの嗜好にあった事柄に分散していく現在の状況はまさに予言通りと言える。実際には情報処理能力の向上で小口分散した嗜好の流れが把握できるようになって、新たな形のマイクロ-マスメディアができているのだとも思うが。
時代を超えて面白いと思える本だった。